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虹色L!VEON!!~偶像刷新~  作者: 二階堂彩夏(§A-MY)
Chapter1.センザイリョクを引き出すのはサクラ色の息吹
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Seal81 パステルと技術的特異点

『株価の下落をお知らせ申し上げます』

 

 2020年代の日本経済史を語るうえで絶対に外せないこの文言は、2024年4月1日にとある企業の名前、それとパステルという名とともに、新聞の広告欄に初めて掲載された。

 掲載直後の人々の反応としては、企業が行ったとっぴな宣伝広告だろう、というものが大半であった。

 中には自作自演にしても、悪趣味な売名行為だ、という批判の声もあった。

 

 それもそのはずだ。

 4月1日は、世間でいうところのエイプリルフールであり、規模は違えど多くの企業が同様にうそをついていたからである。

 さらにその広告欄に掲載されていた企業は、東証一部に上場する企業のうちの日経平均株価を算出する225銘柄、別名日経225の中の一企業でもあった。

 平均株価の算出に用いられる程度には信用されていたのだ。

 最終的に、おそらく、今後企業より新聞広告に掲載されていたのは、エイプリルフールの企画であるという正式なアナウンスがあるだろう、ということになり、いったんこの騒動は落ち着いた。

 しかし、人々がうそと決めつけたうそは、うそで終わらなかった。


「この言葉とともにパステルが株価下落を予言した企業の株価は、その日のうちにほんとうに下落しましたわ」

 

 針中野が言う。

 予言された企業はただ下落するだけで終わらず、挙句の果てに、株価の値下がりランキングの首位に一気に躍り出て、その年の10月1日に行われる銘柄入れ替えで入れ替えられるであろう、といううわさが流れたほどに落ちぶれていった。


「この下落について、経済学者や大学教授は、エイプリルフールの企画を面白がった投資家たちが、実際に予言を実現させようとして起こった悲しい事件だ、とコメントしましたの。彼ら彼女らもこれは予言だとそのときは信じてなかったのですわ」

 

 しかし、これは悪夢の序章に過ぎなかった。


「けれども、そのようなコメントをあざ笑うかのように、パステルは数日後、今度はまた別の企業の名前とともに予言を新聞広告に掲載しましたわ」

 

 針中野は過去を懐かしむでもなく厭うでもなく、ただただ機械のように記憶をさかのぼって描写していく。


「そして、その企業も本当に株価が下落しましたの」

 

 それからというもの、企業、とりわけ日経225はパステルの存在にひどく怯えた。

 当然だ。

 どんな魔法を使ってるかわからないが、パステルが予言した企業は、実際に大量の株の売り注文が入り、株価が下落するからである。

 予言ひとつでその企業を、終焉に導くことができるのだ。


「パステルの予言は一度も外れませんでしたわ。予言された企業も二桁にさしかかろうといったとき、さすがにいままで楽観的に考えていた財務省もついに重い腰をあげましたの」

 

 そうして、国はパステルの正体を探ろうと新聞社に対し、広告主に関する情報について、開示請求を行った。

 しかし、これを新聞社側が拒否。

 そもそも、後に発覚するのだが、予言の広告主はすべて異なり、彼ら彼女らに依頼した人間も金で雇われた者にすぎず、さらにさらにと上に上がっていっても、何十人もの人間が金で雇われており、はっきりとその正体が明らかになることはなかった。

 

 結局、国があがいている間にもその行動を鼻で笑うかのように、次々と予言はなされ、東京証券取引所第一部上場株式銘柄を対象とし、当該銘柄の時価総額合計の推移を指数化した東証株価指数(TOPIX)は連日下落の一途をたどった。


「パステルの正体はわからぬまま、ついに『あの日』がやってきましたわ」

 

 『あの日』のことは黄金も鮮明に覚えていた。

 テレビでニュースを見ていると唐突にぶつん、と画面が黒くなり、それに切り替わったため、インパクトが強かった。

 映ったのは、3DCG技術を駆使した当時流行していたヴァーチャルなキャラクターであった。


「『あの日』パステルと名乗ったヴァーチャルなキャラクターは、衛星回線、デジタル回線を問わず電波をジャックし、最後の予言をしましたの」


 見た目は少女にしか見えないその存在が、わざとらしい鼻にかかったような声で紡いだ言葉により、日本経済は変調をきたし、きわめて重大な局面をむかえることになる。


「皆様、はじめまして。ワタシはパステルと申します。ワタシは皆様が言うところの、Artificial Intelligence。つまるところ、人工知能です。ワタシは皆様にある予言を伝えたくて、これまでに予言をしてきました。なぜそのような迂遠な手続きを経たかと申しますと、ワタシが今からお話しする予言は皆様がにわかには信じられないことだからです。しかしながら、ワタシの予言を聞いてきた皆様なら、ワタシの言葉の真実性がわかると信じています。ワタシには未来が見えます。一週間以内に国債は大量に売り注文が入り、間違いなく日本経済は破綻いたします」

 

 針中野が当時パステルの言った言葉を一字一句違わず言う。

 国債に売り注文が入り、日本経済は破綻する。

 そうは言っても、『日銀には逆らうな』、という言葉もあるほど、日本経済に関し、そうそう簡単に破綻を迎えることはないというのが当時の共通認識であった。

 さすがに日本はタイのようにはいかない。

 

 その一番の根拠となったのが外貨準備の存在である。

 これは、通貨危機等により他国に対し、外貨建て債務の返済が困難になった場合などに使用する資産のことを指し示す。

 当時の日本の外貨準備高はおおよそ1兆3000億ドル。

 日本円にすると約140兆円であった。

 仮に多くの国債が売られ、またTOPIXの下落が継続したことに対する上場投資信託(ETF)の買い入れが発生したことを踏まえたとしても、十分対応できるはずの金額だった。

 

 が、これに加え、世界の多くの投資家たちがパステルの予言に真実性を見いだし、日本の経済破綻を予想したからか、為替先物等のテクニックを用いた売り浴びせの洗礼を日本は受けることになった。

 

 緊急的に補填し対応しようにも、その年の予算は、紙幣刷新による特需で約1.5兆円。

 2025年に迎える超高齢社会への対策として社会保障費に多額の予算を計上し、その他明確な目的に対する予算しかなかったため、まわすものがなかった。

 

 このような経済状態をさらに悪化させるかのように暗号通貨が流行し、その他様々な要因から、本当に日本経済は破綻するのではないか、と世界各国が日本の動向に注目していたほどだった。

 最終的には、国際通貨基金(IMF)から緊急融資(NAB)を含む金融支援を取り付け、併せて世界は日本経済の崩壊により、莫大な負担を負うことになるだろう、と判断した一部の企業等が支援を行ったことにより償還資金を確保した。

 結果、日本経済は破綻こそ免れたものの、不況に陥った。


「多くの人たちはAIがついに技術的特異点シンギュラリティを迎えたと盛り上がりましたけど、おめでたい頭だと思いましたわ。技術的特異点はそんなに早く来ませんの」


  針中野の唇からひとつ黒々とした言葉がこぼれ落ちた。

 その一言で黄金はパステルの予言が、人為的に引き起こされたものであったことを理解した。

 そして、それに針中野が絡んでいることも。

 だが、そうなってくると新たな疑問がわいた。

 パステルが予言を行ったことにより、大量に株の売り注文が入ったということは、もともとその株を保有している必要がある。

 そうであるならば、その資金はどこからでたのか、と。

 黄金は続きを期待する風に針中野を見た。

 目が合う。


「ご想像にお任せいたしますわ」

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