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虹色L!VEON!!~偶像刷新~  作者: 二階堂彩夏(§A-MY)
Chapter1.センザイリョクを引き出すのはサクラ色の息吹
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Seal69 Vなんちゃら

「千歳だよ」

 

 ましろは意外の念に打たれた。


「驚いた?」

 

 ましろの顔を見た忍海が、白い喉をそらして笑う。


「あんまり、いまの千歳からは想像つかないでしょ。でも、ましろん知ってるかもしれないけど、アイツ昔はいまみたいな感じじゃなかったし、髪も長くて和風美人って感じだったからね」

 

 付されて、ましろの頭にriwegのジャケットが自然と浮かんだ。

 たしかに、そこでは千歳は艶のある黒髪を長く伸ばしており、楚々とした感じが伝わってきていた。


「そういうタイプだったら声優にもいるじゃん」

「はぁ」

 

 ましろ自身、声優のことはあまりわからないため、あいまいにうなずいた。


「ぶっちゃけ、アタシも初めて聞いたときはマジか、って思ったけど、アイツが声優になりたかった理由聞いてなんか妙に納得しちゃった」

「理由があるんですか?」

「そりゃあるでしょ、自分がなりたいもんなんだから。うちみたいな飲食業と違うんだよ」

 

 それもそうか、とましろは思い直す。


「あいつさ、幼馴染と約束したんだって。大きくなったらその子が描いた漫画のキャラクターの声優を演じるって。自分だけの夢じゃなかったみたい」

「ロマンチックな話ですね」

 

 忍海が目笑する。


「でも、千歳さんがいま声優じゃないってことは、その約束は……」

 

 できるだけ気楽な声を出したつもりだった。でも、失敗だったらしい。

 忍海が黙り込んだ。

 気詰まりな沈黙で息苦しくなる。

 

 忍海が小枝を拾い、手の中で二つに折る。

 パキリ、という枝が裂ける音がましろの耳に届いた。

 彼女は濁りのない目でましろの顔を見た。


「ましろんさ、世間話もいいけど、本当に聞きたいこと聞かなくていいの?」

 

 単刀直入な一撃ではじまった。

 否定も肯定もすることが出来ずに、ましろはただ目を見つめ返すことしかできなかった。

 困惑が身体をとらえて離さない。


「ましろんが聞きにくいんなら、アタシから教えたげる」

 

 忍海はそう告げると、静かに空気を吸い込んだ。


「あたりまえだけどさ、千歳は本当に燈さんを殺したわけじゃないよ」

 

 忍海がまた紙パックのジュースを手に持った。


「千歳はね、燈さんに対して、罪悪感を持ってるの」

「罪悪感?」

「そっ、漫画家人生を奪ってしまった罪悪感」

「えっ」

「ましろん、千歳の言葉、正確に思い出してみ」

 

 忍海が紙パックを揺らしながら、言った。

 やり取りを思い出そうと、ましろは脳内を必死に過去に巻き戻した。


 ーー漫画家、今池燈は僕が殺したんだ。

 

 過去が冷たい電流となって、脳幹を突き抜ける。


「漫画家としての今池燈さんを殺してしまったことに対する罪悪感ってことですか」

「ぴんぽん、ぴんぽーん。大正解だよ。それで言葉の意味はわかる?」

 

 それがわかっても、具体的にどのようなことをしたのかはわからない。

 すぐに利き腕になんらかのけがを負わせてしまったのでは、と思いついたが、ましろは頭を振る。

 雑誌のページを思い出しても、けがを負っているような写真は見当たらなかったからだ。

 お手上げだった。


「って、忍海さん、千歳さんとの会話聞いてたんですか?」

「いやぁ、盗み聞きする気はなかったんだけど、なんかお二人さんで仲良くしてるの見て、つい会話内容が気になっちゃって、ね」 

 

 ひどいいたずらをしたのを見咎められた子供のような表情を、忍海はましろにみせる。

 そんな顔をされてしまうと、ましろはそれ以上何も言えなくなってしまった。


「で、言葉の意味はわかった?」

 

 ましろは顔を左右に振った。

 忍海がクスリ、と笑う。


「燈さんをアイドルに誘ったのが、千歳ってだけの話だよ」

 

 呆けたように忍海の口許を仰視した。

 解答を披露されても、アイドルデビューと漫画家としての死がましろの中でつながらなかった。


「ねぇ、ましろんアマモちゃんって知ってる?」

 

 忍海の脈絡のない問いかけにより、ましろの頭の中に緑色の布団にくるまったうさぎのような生物がふと現れた。


「名前とどんな姿かぐらいはわかります。なんの生物かまでは知りません。そもそも、なにかモチーフってあるんですか?」

「ウミウシだよ」

「ウミウシ?」

 

 言われても、ましろの頭の中には具体的なイメージがわかない。

 見たことはあるのだろうが、たしか、千歳が雌雄同体だと話していたぐらいの知識しかなかった。


「そっ、ウミウシ。種類としてはテングモウミウシってやつね。そもそも、当て字自体あるのかわかんないけど、作者さんはテングモウミウシの『テン』って部分をテングサと同じように天って考えて、天ってあまとも読めるじゃん。そんで、テングモウミウシの『モ』を一文字足してアマモちゃんってしたらしいよ」

「はぁ」

 

 由来を説明されても、いまいちその生物がピン、とこなかった。


「っていま説明したにはしたけどさ、言ってることひっくり返すようになって頭混乱するかもだけど、正確にはアマモちゃんってテングモウミウシじゃないんだけどね。ただ、SNSでこれがテングモウミウシです、ってバズった結果、テングモウミウシになっちゃったみたい。本当にモチーフにしたのはホホベニモウミウシだったかなぁ。あー、ましろん、バズるって意味わかる?」

「ちょっとわからないです」

「うーん、簡単に言うとなんか顔も名前も知らない人にまで、その情報が広がっちゃうって感じ」

「想像すると怖いですね、それ。誤った情報が当たり前みたいになっちゃうって大変じゃないですか」

「だから、ネットの情報って鵜呑みにしちゃだめなんだけどね」

 

 忍海がストローに口をつけた。


「で、そのアマモちゃんと千歳さんにどういうかかわりがあるんですか」

「アマモちゃんの声が千歳なの」

「えっ、あの漫画ってアニメかなにかになってるんですか?」

「違う、違う。なんだったけ、あの2020年代の経済危機の一因にもなったって言われた、V、V、Vなんだっけ?」

 

 訊ねられても、思い出せなかった。ただ、知らないわけではなかった。

 いわゆるオタク文化に疎いましろでさえも、貨幣刷新とほぼ同時期にあらわれ、通貨下落に関し、的中率100パーセントを誇った、自分はAIであると宣言したVなんちゃらに当時は深い関心を寄せていた。

 けれども、日本中が混乱に陥った出来事がうそのように、もうすっかり世の中は平静を取り戻しているため、すぐに頭に出てこなかったのだ。


「思い出せないし、まぁ、いいや。とにかく、千歳はそのVなんちゃらでアマモちゃんの声を当ててたの。頑張ってる人間にこんなこというのあれだけど、再生回数はウケるくらい少なかったけどね」

 

 どう応じたものか迷っていると忍海が先を続けた。


「なんか、一番のびたやつは、アタシがいつもみたいに動画編集しているかと思って話しかけたら、生放送中で千歳の素が出ちゃったってやつだし。そもそも、その動画、ファンが勝手に切り取ってアップしただけだから、正確には千歳の動画じゃないんだけどね」

 

 ことり、と忍海が紙パックをベンチに置いた。


「あぁ、千歳の名誉のためにも言わせてもらうけど、千歳自身が人気がなかったわけじゃないからね。アマモちゃんする前に別のVなんちゃらしてたこともあるし」

 

 声優だと聞いたときと同程度の驚きだった。


「千歳のVなんちゃらって、すごかったらしいんだよ。後から聞いた話だけど、千歳がやってた頃のVなんちゃらって、ライブアイドルとか歌い手とか、生主って呼ばれる人とかが大多数を占めてて、いわゆるほんとのずぶの素人ってあんまりいなくてさ、千歳はその当時、声優事務所の預かりにすぎなくて、キャリアとかトーク力とかなにからなにまで全然違ったみたいなんだけど、そんな逆境にもめげずに活動してた結果、最終的にはめちゃくちゃファンが多くなってさ……」

 

 忍海からあふれ出る香りが変わった。

 その香りには、幽寂なたたずまいがあった。

 優しいが不気味に輝く眼差しがそこには横たわっていた。


「ごめん、脱線した。ともかく、アマモちゃんって可愛い女の子のモデルでもないし、でてくる漫画自体がバトルじゃないし、恋愛でもないし、どちらかというと勉強本みたいな感じだから、すっごい工夫して

千歳は投稿し続けたの。どれだけ再生回数が少なかろうが、どれだけ貶されようが、誰からも強制されず、自主的に。過去にした約束を果たすために、ね」

「約束のために? あっ」

 

 ましろは先刻の自身の言葉を忍海がはぐらかした理由が、なんとなくだがわかってしまった。

 段々と点と点がつながってきているような気がした。


「わかったでしょ。千歳が小さいころに約束を交わした幼馴染っていうのが、燈さんってわけ」

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