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虹色L!VEON!!~偶像刷新~  作者: 二階堂彩夏(§A-MY)
Chapter1.センザイリョクを引き出すのはサクラ色の息吹
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Seal55 産業医=弁護士=社会保険労務士=税理士=代表取締役=?

「それじゃあ、戸田さんの労働条件の確認とかしていこうか」

「はえっ」

 

 身構えていたにもかかわらず、まったく予期していなかった話題を投げかけられ、ましろは珍妙な声を出してしまった。


「ハエ? いるの?」

「いません、いません。そのハエじゃないです!」

「よかったぁ。いたら、大変だからねぇ」


 安堂が胸に手を当て、ホッとした表情を見せる。


「じゃあ、あらためて、戸田さんの労働条件確認しようか」


「あのー、えっと」

「ん、何かな?」

 

 問われて、ましろは言葉に詰まった。

 自分からわざわざ掘り返すのもおかしい話だと思ったからだ

 そのためらいをましろからはなにもない、と受け取ったのか安堂は続ける。


「えーっと、もうわかってると思うけど、戸田さんは採用だよ」

「面接してないんですけど……」

「一緒にお話させてもらったり、ほかの従業員への対応の仕方とか見ただけでもわかるんだよ。それが面接代わりかな」


 安堂がふんわりとほほ笑む。


「それで、条件だけど交通費は別途支給。社保ももちろん完備。賞与は年二回支給。雇用形態は求人のとおり有期契約で考えてるけど、希望があれば更新。そもそも、無期が希望だったら現段階で言って欲しいかな。それで、――」

 

 安堂はそこで言葉を止めて、チラとましろの前に置いている空になったカップを見た。


「戸田さん、紅茶のおかわりは大丈夫?」

 

 安堂はわずかに眉を下げ、気遣うように訊いてきた。

 ましろが不安に思っているようなことに関連する質問ではないにもかかわらず、ましろは返せなかった。

 先刻の安堂の忠告もとい助言がどれほどの意味を持っているかは測りかねたが、間違いなく何かに気付いているような口ぶりだった。

 だからこそ、安堂の忠告の後の露骨な話題の変更が不気味に思えてならなかったのだ。


「他の紅茶の方がよかった?」

 

 押し黙っているましろに安堂が重ねて訊ねた。

 ましろは安堂の顔にじっと視線を注ぐ。


「私がここに来た理由わかってるんですか?」

 

 それこそ、懐に飛び込むような決意でましろはそう言った。


「理由?」

「そうです。私が、……」

 

 しかし、なかなか次の言葉が出てこない。

 困惑しきっているましろに、安堂は笑いかける。

 そうして、突然、自身の片眼を五指で覆った。


「この目はね、人々の内面がすべて見えちゃうの。この目の前では誰も秘密を隠せないんだよ」

 

 にっこり笑いかける。

 そんな馬鹿な、と安堂以外の人物が言えば即座に否定できるものであったが、彼女の場合は違った。

 そう思わせるような神秘感があった。

 催眠術にかけられたように、ましろは安堂のセルリアンブルーの瞳をただただ見つめていた。


「んーと、ただ安心して、戸田さんにどういった事情があっても、わたしからはなにも言わないよ」

「えっ?」


 安堂が覆っていた手をほどき、ひょいとましろの前のカップをとった。

 緋色の目がまたましろの前に姿を現した。


「言いにくいことや言いたくないことは無理に言う必要ないかなぁーって。だから、その話は終わり。それとも戸田さんはまだお話したかった?」

 

 安堂が素早く紅茶を注ぎ、音を立てずにましろの前に置く。


「私は、……」

 

 もの問いたげになおも言い募ろうとするも、安堂は、白く細長い人差し指をましろの口にあてて言葉を封じる。


「そんな顔するくらいだったら、もっと楽しい話しようよ、ねっ」

 

 ましろはうなずいたものの、応じうる言葉が見当たらない。

 わかっていてなお、はぐらかす、安堂の真意がつかめなかった

 安堂の人差し指がゆっくりと離れていく。

 腑には落ちなかったが、安堂が黄金の指示を知らない可能性もあることを考え、ましろは話題を変えるために、大きく息を吸い込むと、一息に吐いた。


「すみません。ひとついいですか?」

「何かな?」

「あなたのことはどう呼んだらいいですか?」

 

 ましろは、どきまぎしながら、問いかけた。


「わたしのこと?」

「はい! さっき、自己紹介してもらいましたが、安堂さんって呼んでいいのか、みなさんのようにオーナーさんて呼んでいいのかがわからなくて」

「んー、そうだねぇ」

 

 安堂は少し考えた後、「好きに呼んでもらっていいけど、堅っ苦しいのは苦手かな。お任せするよ」

 それから彼女は、「あっ、そうそう」と付し、「間違っても、お母さん、なんて呼び方だけはしないでね」と片眼をつむり、人差し指を振る。


「よ、呼びませんよ」

 

 ましろは、先刻、安堂をそう呼んでしまったことを思い出して、頬を朱色に染めた。


「じゃあ、私もオーナーさんって呼ぶことにします」

「うん、いいよ」

「あと……もうひとつだけいいですか?」

「あれ? さっき質問はひとつだけ、って言ってなかったかなぁ?」

「うっ」

 

 痛いところをつかれたましろは黙した。


「冗談だよ。それで、わたしに何を聞きたいのかな?」

「あの、皆さんの話にさっきから出てくる真菅さんっていったい何者なんですか?」

「真菅ちゃん?」

「はい。私の身体を心配してくださったとき、オーナーさんは、真菅さんという方のお名前を出しましたけど、忍海さんはさっき真菅弁護士って言ってました。弁護士と私のけがとのつながりがわからなくて、純粋に疑問に思ったんです……」

「あぁ、そっか、真菅ちゃんのこと知らなかったら、そういう反応も当然だよね。そうだよね、いきなり言われると混乱しちゃうよね。んーとねぇ、真菅ちゃんはうちの産業医さんだよ」

「産業医?」

「そう、産業医」

 

 そう、と言われても『さんぎょうい』なるものは、ましろの頭の中の引き出しには納められている単語ではないため、なんの解決にもなっていなかった。

 なんなら、漢字でどう書くかもはっきりとわからない。

 話の流れから、おそらく、さんぎょういの『い』には医者の『医』が入るのだろうと予想を立てられるに過ぎず、また、それもただの予想であるため正しいかもわからなかった。

 安堂が続ける。


「一応、ここは全員併せてもいまのところ、従業員が50名以上はいないから選任義務はないんだけど、あかりが選任義務はないのに選任しておくと、助成金も出るって教えてくれてね。まぁ、助成金自体がでたのは一年目だけだったけど、真菅ちゃん職場巡視もきっちりしてくれて、それで従業員の健康管理だけじゃなくて、メンタルヘルスも本当にしっかり診てくれるから継続してお願いしてるの」

「健康管理をしてくれるってことは 真菅さんって人はお医者さんなんですか?」

「んー、医師免許があるって意味だとお医者さんではあるけど、開業医ではないかな?」

「かいぎょうい?」

「開業医っていうのはね――」

 

 ましろのくどい質問に対し、安堂は嫌な表情などいっさい見せない。

 ただ、かなり丁寧な説明であり、しゃべっているのは確かに日本語なのだけれども、その意味するところが、ましろにはまるでわからない。

 埴輪と化したましろを見て、安堂は悪戯っぽく笑った。


「――って言ってもわからないよね?」

「……オーナーさんは、すごいです。私にはまったくわかりませんでした」

「いやぁ、すごくはないよぉ。燈なんかはわたしと比べようもないほど知識があったしね。それにいまは『赤い狐』《あのこ》の方がよっぽど勉強してるもん」

 右手と左手の指紋をせわしなくくっつかせたり、離したりしながら、安堂の顔に照れたような笑みが、さざなみのように広がっていく。


「そうそう、安全衛生推進者を選任してるのも、燈に言われてなの」

 

 先刻の言葉からそうをひとつ増やされても燈さんなる人間がましろにはわからないため、話についていけない。

 疑問符がそこら中に貼りつけされたましろの顔を見ながら、安堂はにっこりする。


「あぁ、説明漏れちゃってたよね。燈は『赤い狐』の前任者。厚生労働省の回し者かって周りが思っちゃうぐらい、知識が豊富でね。普段はすっごくシャイだったんだけど、安全衛生について語ってる時だけは誰よりも饒舌で、熱意もあって」

「前任者ってことは今は……」

「うん、いろいろあって今はいないの。そう、いろいろあってね」 

 

 その言い方はいまのいままでの安堂の話し方とほんのわずか、異なっていた。


「それで、順を追って説明していくと、このお店は業種で分類すると、飲食店に該当するの。それでね、法律上は飲食店って安全衛生推進者の選任義務自体はなくて、衛生推進者でいいんだけど、ガイドラインっていう法律とはまた違う推奨されているものがあってね。その中で、第三次産業や社会福祉施設等は安全衛生推進者を選任して配置するほうがいいって主旨のことが記載されてあって、あ、ちなみに飲食店は第三次産業のうちの一つでね。で、ともかく、そうなっているから選任しておいたほうがいいって教えてくれてね」

 

 安堂が柔らかい口調で言う。


「ちょっと脱線しちゃったけど、話を元に戻すね。真菅ちゃんは簡単に言うと、医師免許を持ってて、弁護士資格も持ってて、税理士や社会保険労務士資格も持ってる何でも屋さんかな」

「何でも屋?」

「あっ、そうそう会社の社長さんでもあって、たしか、会社名はあ――」

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