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虹色L!VEON!!~偶像刷新~  作者: 二階堂彩夏(§A-MY)
Chapter1.センザイリョクを引き出すのはサクラ色の息吹
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Seal52 LGBT

「……ってなんですか?」


 静けさが部屋を支配し、えもいわれぬ感覚をましろは、おぼえる。

 言ってしまってからなにかまずいことを聞いてしまったのかと思い、他の人々の顔を見回した。

 ましろを見返している者はいなかった。

 赤い狐が、わざとらしいため息をつく。


「レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの略だ。聞いたことないか?」

「……すみません。聞いたことがないです」

 

 言葉自体はかすかに聞いたことぐらいはあったが、それが意味するものの正確な答えまでわからなかったため、ましろはそう答えた。


「まったく、君はストーカーな上に学も浅いのか」

「何度も言いますけど、私はストーカーじゃありません!」

 

 ましろの言葉を無視し、赤い狐が続ける。


「女性同性愛者、男性同性愛者、両性愛者、体の性と心の性が不一致な者。今言ったのがLGBTだ」

 

 赤い狐が投げ捨てるように言い、ましろにちらりと目を向けた。


「このほかに、LGBTQQIAAPPO2Sなんてものもある。これは先ほどのLGBTに加えて、クイア、クエスチョニング、インターセックス、アライ、アセクシャル、パンセクシャル、ポリアモロウス、オムニセクシャル、2-Spiritとさらに細分化されている」

「く、くいあ、あ、あらい?」

 

 ましろには、説明されてもそれがどこか自分が聞いたこともない言語のように思えて、まったく理解できなかった。


「ここらへんは自分で調べたまえ。言葉で説明しても君にはわからないだろうからな」

 

 小馬鹿にするような調子で言う。


「はぁ」

 

 赤い狐にそう言われても、事実そのとおりであったため、ましろは生返事を返した。

 時計がこちこちと規則的な音を店内に響かせる。


「あんまり、なじみない言葉だよね」

 

 安堂はそこで言葉を止めて、ちらと空になったましろのカップを見た。


「そうだ、戸田さん、紅茶のお代わりはどうかな?」

「あ、ありがとうございます。でも、大丈夫です」

「えー、遠慮しなくていいのに。さっ、カップちょうだい」

 

 もみてをしていると錯覚するような愛想のよい声だった。

 だからか、ましろは自分の前に置かれたカップを気付けば、安堂に差し出していた。

 注がれた瞬間、潔い香気が胸の奥まで、しみていくのがわかる。

 と、隣にいた忍海が紅茶を、一気に飲み干した。

 カップを乱暴にソーサーに置く。

 ヒビが入ったと思わせるようなくらい勢いついていた。


「ましろん、別にLGBT知らなかったことなんて恥じ入る必要ないよ」

「えっ?」

「正直、パンの名前みたいなやつだとか、鯉の刺身みたいなやつなんて覚えられないのが普通だから。それに、アタシはね、正直あんまりそのLGBTだとかって表現好きじゃないんだよね」

 

 ましろは、その忍海のまっすぐすぎる言葉を聞き、思わず安堂を見た。

 彼女は相も変わらず、柔らかな面持ちで言葉に耳を傾けていた。


「ましろんにもわかるように説明すると、さっきそこの赤い狐が言ったのって、いわゆるセクシュアルマイノリティってやつの分類のことなの」

「せくしゅあるまいのりてぃ?」

「日本語に直すと、性的少数派だ」

 

 赤い狐が腕を組みながら、補足する。


「まー、簡単に言うと、異性愛者が今の世界では、多数派だってこと」

「はぁ」

 

 ましろは、その事実は理解できた。


「でも、それっておかしくない?」

「えっ?」

「そもそも、なんで、少数派だとおかしい扱いされないといけないわけ? 意味のわかんない分類されないといけないわけ? 冷静に考えて、異性愛者って少数派みたいにカテゴライズされてなくない?」

 

 それは、今までましろが考えてこなかったことであった。


「権利みたいに言う人もいるけど、少なくともアタシはカテゴライズされた時点で、もう少数派は異物扱いされたんだなって思っちゃったわけ」

 

 たしかに、言われてみれば、異性同士の恋愛で、カテゴライズされているケースをましろは知らなかった。

 そもそも、異性間以外の恋愛にあまり目を向けたことがなかった。


「そん中で、特にアタシが一番嫌いなのは、自分がその性的少数派だからって同じところにカテゴライズされてる人は、全部一緒くたみたいに考えてるやつ。アンタが考えてることをみんなって大きい主語で言うなってほんと思うんだよね。人間なんだから、同じところにカテゴライズされてても、思うところは人それぞれでしょ。ほんと、迷惑。特にネットだとそれが顕著なんだけどね。ましろんもSNSとかでそういうの見たことない?」

「……私、インターネット使ったことがないんで」

 

 長いまつげに縁取られた忍海の目が、一瞬きょとんと見開かれた。


「そ、そっか。ましろんが、インターネットを使ったことがないっていうのは、めちゃくちゃびっくりする情報で、めちゃくちゃ色々と聞きたいんだけど、それはさておき、結局、そうやってネットだとかメディアとかで取り上げられて、注目浴びさせられて、変な偏見もたされてるのが、今の性的少数派だとアタシは思うの」

 

 忍海はテーブルの上にあった、紙ナプキンを2、3枚とりながら、さらに続ける。


「でも、もっとおかしいのってその少数派がさらに少数派を差別していることなんだよね。世の中には死体しか愛せない人もいれば、人間以外しか愛せない人もいるし、幼女しか愛せない人だっている。なんなら、誰にも物にも愛を向けられない人だっている。多種多様なんだよね」

 

 紙ナプキンを忍海は丁寧に折り曲げた。


「ぶっちゃけ、神様の手違いで産まれてきただけなのに、なんでカテゴライズされなきゃならないんだろうね。今は多数派の人がもしかしたら少数派だったかもしれないのに」


 どこか憂いを帯びた声を出した。

 ましろは何か言うべきかとも思うが、話の流れに竿を差す気がしたので、あえてなにも言わなかった。


「それに人間以外だと異性間じゃなくても同性間で性的行為を行うものもいるしね。ミツバチとかミジンコとかそうだし。それに植物だってキイチゴだとかドクダミ、なんならマンゴスチンとかもそうなんだけど、マンゴスチンにいたっては、別名、果物の女王って呼ばれるぐらいだし、全然差別されてる感じないよね」

 ましろには、マンゴスチンは分からなかったが、ただいくつかの情報から、果物だということだけ理解した。


「もっとも、人間が勝手にカテゴライズするのも、傲慢だと思うけどね」

 

 その声音はどこか悲哀が胸に溢れており、地に沈み込むようであった。


「単為生殖の話か」

 

 赤い狐がぽつり、とつぶやく。

 

「まっ、花も動物も差別されてんのかもしれないけどね。アタシらがわかんないだけで」

 

 そう言って、忍海はましろに顔を向けた。

 親しい人間に見せるような、親しみのこもった微笑みだった。


「そもそも、性別で分けるのからして、アタシはあんまりいいと思ってないし。ウミウシとか性別ないじゃん」

「雌雄同体だからな」

 

 赤い狐の言葉に反応を示さず、忍海は鼻から息を出した。


「ある種、カテゴライズされることで、救われてる人もいるっちゃいるんだろうけどね。でも、その救いの影で苦しんでる人だっている。少なくとも、ここに一人は、ね。とまぁー、アタシ自身は、そう思うからカテゴライズしたくないし、されたくないんだけどね」

 

 忍海は唇を紙ナプキンで拭い、くしゃっと手で握りつぶし、放った。

 彼女の主語は、すべて「アタシ」という一人称だった。

 何か直接ましろの心に訴えかけてくるものがあった。

 パン、という音が静謐な部屋に響く。


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