最強の自伝
私は最強だ。そして無敵だ。おいおい、その顔は信用してないな?だが事実、俺は誰にも負けない。必ず勝つのだ。
最強の定義はなんだ。簡単だ。最も強い。これだけでいいのだ。強さとはなんだ。それは力である。力にもいろいろあるだろう。武力、財力、権力、知力・・・安心したまえ。その全てで私は最強だ。
武力で言うなら私はボクシング、柔道、剣道などで世界一を取った。しかも初めてやった競技でも優勝してしまうのでそれ以降はやらないがね。一度戦争にも行ったが私が単身で戦争を終わらせたら国連で問題になったよ。困ったものだ。
知力はIQが3万ほどある。すべての言語を使え、私が暇つぶしに書いた論文がニュースにならない日はない。ノーベル賞を貰いすぎてノーベル賞のメダルを置く部屋を作ったほどだ。
財力は貯金が9999無量大数ほどある。水と空気だけで動く機械の特許で稼ぎ、それで月と火星を住めるようにし、地球温暖化を止めたら金が増えすぎてね。地球と火星と月の名前を私の愛称にしようという動きもあったくらいだ。
そして権力。今までの功績によって、私の肩書は名誉地球人となった。これはすべての国と星で代表となれる。私がいればすべての問題や不満は解決するからな。私が言えばすべての人が言うことを聞く。聞かないなら他の人が説得するからな。
そんな私はモテる。際限なくモテる。54歳の現在。妻は37人、愛人は89人、子供は102人、隠し子は数えてない。一夜限りの女もいた。そして私の優れた遺伝子は必ず子供を作る。だが私の子供は全員優秀だ。このままでは各国の要人は私の子孫だらけという懸念もある。だが他の者からはそんな未来を夢見ているようだ。
孫もいる。可愛くて仕方がないものだ。名前を付けてほしいと頼まれているが断っている。子供はやはり親が名づけるという考えだからだ。なぁに、優秀な私の子供だ。良い名前を付けてくれている。
さて、私は現在火星にいる。テラフォーミングした結果、海が多い星で土地代が高いという問題があったので、水は地球の砂漠地帯に送ったのだ。もちろん私の発明品、次元送水機を使った。これは液体なら距離を関係なく送れる機械だ。この機械のおかげで原油や水、液体ガスなどの輸送コストが0になったのだ。おかげで輸送会社から命を狙われたがね。おっと、安心して欲しい。全員返り討ちにしたからね。その後は会社をマネーパワーで買収した。今は私の会社の孫会社の孫会社で働いている。私は幸せが好きなのだ。不幸な人は作らんぞ。
火星の一等地でコーヒーを飲みながら新聞を読む。ふむ、どうやら息子の1人が私の論文から異次元ポケットの量産に成功したようだ。今までは試作品を私の会社で生産は出来ていたが量産はコストの面で無理だった。これを成功させるとは・・・これは息子に特別ボーナスを渡さなくては。100兆円くらいでいいかな?
言ってなかったが私は日本人だ。最初はなにげなく書いた論文や特許で会社が儲かり、それを子会社の開発に使った。M&Aを繰り返していたら独占禁止法スレスレまで日本を掌握した。もちろん手は引いたがその結果日本のGDPが爆発的に上がり、日本は世界一位の経済大国になった。その後も経済成長を続け、ほかの国と比べて経済格差が出始めた。それを許さない国々が日本に対して宣戦布告をしてきたのだ。
怒った私は自衛隊に入隊。専守防衛を心がけテロや空爆、海戦などをことごとく潰した。さらに経済で制裁を続けたのだ。1年後、日本は戦争に勝ち、私の会社は世界を掌握した。
話を戻そう。私は火星にいる。もともとは休暇で訪れたのだが、火星政府や子会社などに頼まれて講演しているうちに休暇の日程は減っていく。これでは休暇の意味はない。それに私がいないと困るようではいかん!私は若くない。なのにこんな体たらくでは未来が心配だ!私の休暇のためにもみんなに頑張ってもらわないとな・・・
まずは子供たちだ。私は専用の電話を繋いだ。
「私だ。私の子供たちよ。火星時間で来週の水曜13時に全員集まれ。いいか?全員だ。隠し子も義理の子供も集まれ。」
次は政府だ。
「私だ。地球、火星、月の代表者は火星時間で・・・」
当日、洋々たる面々が火星に来た。テレビや新聞は連日この集合報道をしている。名誉地球人が要人を全員集めた。これだけでセンセーショナルだ。もしかして後継者の指名か、それとも新たな発明か、庶民は期待と不安でいっぱいだった。
そこに現れた私。カメラとマイクを向けてくるがそれを無視して火星議事堂に入る。その堂々とした姿に引退の危機は消えたとナレーターたちは安堵する。
議事堂に入り専用の部屋で水を飲む。これからが正念場だ。鏡でネクタイの緩みや髪形をチェックする。ここに来る前にもチェックはしたが念のためだ。さて、行くか。
会場には全員が揃っていた。多分だが。子供が300人ほど。議員は1000人ほどか。
「さて、集まってもらったのは他でもない。私は引退する。」
次の瞬間に阿鼻叫喚がこだまする。後継者は私だと直訴する声、まだまだ頼みたいことがあると悲願する声、困惑してただ叫ぶ声。予想通りだ。予想通りすぎて心配になる。だが私はもう疲れた・・・わけではない。めんどくさくなっただけだ。これでもし戦争が起きたら物理的に消すけどね。
喧々諤々した会議は踊り、休憩になった。議員は恐れ多くて話しかけてこないが、子供たちは違う。代表としてなのか最初に作った子供の一郎(40歳)が話しかけてきた。
「父さん、引退は決定ですか?私たちには父さんが必要です。どうかお考えし直してください!」
「私は引退する。それにお前たちが私に出来なかったことをしてきた。これで肩の荷が降りる・・・」
そう言うと子供たちは騒ぎ出した。どうやら発端になった異次元ポケットの量産に成功した子供を紛糾しているようだ。
「お前たち勘違いをするな。たしかに決め手は五三朗の功績だが、他の子供たちの功績でも引退を考えていた。一郎、お前の戦争反対決議と対案でも考えた。九子の核燃料の無害廃棄の特許でもな。私はお前たちの父だ。すべての功績を記憶している。どれも素晴らしいものだった。だからこそ引退だ。ちなみに後継者は決めない。全員が後継者だ。」
「父さんの考えは変わらないのですね・・・それなら父さんはこれからどうするのですか?」
諦めた一郎が聞いてきた。ヤバい。何も考えてなかった。ただのんびりしたかったから引退する予定なのに・・・どうやって説得しよう?
「父さんはだな・・・その・・・」
みんな黙って聞いてくる。こんなに緊張したのは初めて次元ワープのテストをした以来だ。
「父さんは・・・ちょっと宇宙人を探してくる!そして異星間交流をしてくる!」
その言葉に愕然とする子供たち。たしかに冥王星まで5分で行けるような宇宙船を作ったのは私だ。だが宇宙人を探すなどの太陽系を出た人などいない。帰ってこれるか分からず、そもそもいるのかも分からない旅だ。絶対に反対するだろう。そして地球での長いバカンスを提案するだろう。頼んだぞ、みんな。
はい、結果を言いますと旅に出ることになりました。みんな新たな偉業に目を輝かせて背中を押してくれた。なんでだよ!引き止めろよ!
「閣下の新たな旅に向けて、敬礼!」
「「「はい!」」」
号令をしたのは地球国連の議長を務める女性だ。お前この前、俺とベッドで運動会をしたのに未練はないのか?あ、お腹撫でてる。やっぱり妊娠してた。行きたくねえ・・・
宇宙船には若い乗組員が5人待っていた。みんなキラキラした目で俺を見てくる。
「閣下、この船なら100年の航行ができます。このような素晴らしい船を作っていただきありがとうございます!さぁ、行きましょう!」
なんで作っちゃったの俺・・・なんで手伝ったのみんな・・・そして俺は旅立った。終わりのない旅へ。
「ヨウコソ、イホウジン!」
見つけちゃったよ!もうやだー!仕事が増えたーーーー!
これは偉業を成し続けた男の自伝である。