ぼくの かた目を さがしてください
むかしむかしの おはなしです。
花の だいすきな 王さまがすむ国が ありました。
王さまには 4人の こどもたちが いました。
こどもたちは みんな お姫さまで、
王さまは それぞれ 花の 名前を つけ、守る季節を 決めました。
一番目の お姫さまは サクラ姫といい、春を 守ります。
二番目の お姫さまは ユリ姫といい、夏を 守ります。
三番目の お姫さまは キキョウ姫といい、 秋を 守ります。
四番目の お姫さまだけが 木の名前で、 ヒイラギ姫といいました。
なぜなら 生まれたときの 姫の髪の毛が つんつんしていて、
柊のように みえたからです。
ヒイラギ姫は、冬を 守ります。
お姫さまたちは 自分の守る 季節が 巡ってくると、
“遠見の 塔”に 住まなければ なりません。
ここから 国中を 見下ろし、季節の間 ひとびとの笑顔を 見守り続けるのです。
ところが どうしたことでしょう。
今年だけは、冬が ずっと つづいたまま 春が 訪れません。
ヒイラギ姫は 塔に こもったままで、ちっとも でてこようと しません。
そのうえ、サクラ姫が いなくなって しまったのです。
王さまは すっかり 困り果ててしまい、
国中に 次のような おふれを だしました。
ー冬の女王を 春の女王と 交替させた者には 好きな褒美を取らせよう。
ただし、冬の女王が 次に廻って来られなくなる方法は 認めない。
季節を廻らせることを 妨げてはならない。
なぜ こうなってしまったのでしょうか?
それには、わけが あるのです。
わたし、片目うさぎの“チャミィ”が 関係しているのです。
わたしは、亡き王妃様が 作って下さった うさぎの縫いぐるみなのです。
王妃様は もともと 体の弱いお方で、ヒイラギ姫を 身ごもられたときに
お産みするのは お城の薬草師から 無理だと 言われていました。
まわりの ものたちも 反対しましたが、王妃様は 強い決心を なさっていたのです。
ーこの子を この世に 送り出そう!
たとえ わたしが そばに いなくても。
そこで、王妃様は 何かを 残していこうと お考えになり
わたしを お作りに なられたのです。
しかし、あと 片目を 付けるだけで 完成というところで
急に 産気づかれてしまい、ヒイラギ姫を お生みになりました。
そして まわりの心配の通り、王妃様は その後 間もなく
久遠の国へと 旅立たれて しまわれたのです。
だから わたしには 片目が ないのです。
“チャミィ”は、王妃様が 名付けて下さいました。
こうして わたしは、王妃様のかわりに
ヒイラギ姫を お見守りすることと なったのです。
姫様は、四人のお姫様のなかで 一番可愛らしく
つんつんした髪も 素敵だったのですが、
王妃さまが あんなふうに なってしまわれたのは 姫のせいだとして
まわりの ものたちは、冷たく接しました。
特に、お姉さんお姫様たちは 手作りの縫いぐるみが 羨ましくて
ヒイラギ姫に 小さな意地悪を 繰り返していたのですが、
一番うえの サクラ姫は ただ 黙って おられるばかりでした。
ーうええん、チャミィ、ねえ様たちに 髪引っ張られちゃったよ!
ーチャミィ、あっちいけって いわれちゃったよ~
ーチャミィ、チャミィ、聞いて聞いて・・・・
わたしだけが 姫様の お話相手となり、友だったのです。
どこに 行くのも ご一緒したのですが、もちろん 冬の間 “遠見の塔”
にも。
その間だけは いじめられることもなく、
姫さまは 笑顔を うかべられるのです。
その 暖かいことといったら!!
厳しい冬で 凍えきった ひとびとのこころを 暖かく 見守り、
春の日だまりを 思い出させるほどに。
だから 冬の間ひとびとは 春を待ちわびながら 冬を 堪え忍ぶことが 出来るのです。
それは、ヒイラギ姫様が 12の年の 冬を迎える 間近の 秋の終わりの 出来事でした。
となりの国の 王子様から、サクラ姫さまが 求婚されたのです。
気高くて 凛とした 美しさ、聡明で 控えめな サクラ姫さまは 王様のお供で となりの国を 訪れたときに 王子様から 見初められたのでした。
求婚した 王子様は、この国の 事情を ご存知で、春の間は この国に戻り “遠見の塔”に 住むことを
かまわないとまで おっしゃったのです。
周りのものも この申し出に たいへん 喜びました。
ところが サクラ姫さまは 明日から ヒイラギ姫さまが “遠見の塔”に お入りになる前夜
忽然と 姿を 消してしまわれたのです。
わたし、縫いぐるみの チャミィも・・・・・
「チャミィー
チャミィー
どこに行っちゃたの?」
ヒイラギ姫は 一生懸命 大好きな ぬいぐるみを 探し回りました。
その年は 冬の訪れが早く、雪が 姫の 膝の高さまで 降り積もっていました。
どこかで 大切な 手袋を 落としてしまい、寒さで すっかり かじかんだ手を フーフーと
吐く息で 暖めながら、暗くなりかけた お城の庭を 必死で 探し続けました。
もう あきらめかけた頃、一本の 大きなヒイラギの 木に たどり着きました。
よく見ると、吹きだまった 根本の 雪の中に 何かが 埋もれています。
そっと 持ち上げてみると・・・
「チャミィ!!
良かった、ここに いたんだね!」
思わず ぎゅううっと 抱きしめました。
「あいた」
「へっ?」
声が 聞こえましたが、自分のほかに だれもいないはずなのです。
「鈍いヒトですね、わ・た・し。
あなたが 抱きしめてるんですよ。
そんなに ぎゅっとしちゃあ いたいに決まってるでしょうが、まったく」
「もしかして、チャミィなの?」
次の日、ヒイラギ姫は “遠見の塔”に お入りに なりました。
もちろん、しゃべる うさぎと ともに。
その冬の “遠見の塔”の様子は いつもと 違っていました。
食事の支度と お掃除をする お世話係は、用事が済むと さっさと 戻ってしまいますから、
広い お城の中に ヒイラギ姫は ひとりぼっちになってしまうのです。
ところが、どうでしょう。
楽しそうな 姫の声が 聞こえてくるでは ありませんか。
「エルデル」
「犬みたいです、却下」
「トール」
「今は背が低いんで、却下」
「タマ」
「ねこじゃないんですよ、却下」
「シロップ」
「甘いものはふとるでしょ、却下」
「もーないよー!!」
「・・・全く、お城で 何教わってきたんです?
仮にも 王女様なんでしょう?
教育係とか いなかったんですか・・・」
「ねえ様達には いたけど、私には 誰も いなかったもん。
ばあやが いっぱいいっぱい お話読んでくれたし、
字も 教えてくれたから」
「・・・・・・・・・」
そうです。チャミィは 喋ったのです。
いいえ、チャミィと 瓜二つの 縫いぐるみが 喋ったのです。
それも、片目のないところまで 同じでした。
実は、チャミィは、結婚を嫌がったサクラ姫が 連れ去ってしまったのです。
サクラ姫は、一番上ですから 甘えたいと 思っていても ずっとずっと 我慢していました。
妹たちが サクラ姫に いじわるしていたのを 知っていたのですが、
どちらの 味方も出来ずに ただ 黙っているしか 出来なかったのです。
でも、心の中では どんなにいじわるさされても 次の日には 笑顔になる ヒイラギ姫の 強さに
憧れていました。
ーチャミィがいれば、強くなれる。
だって、お母様が お作りになった たった ひとつの 縫いぐるみですもの。
そう 思いこんでしまった サクラ姫は、チャミィを 連れて行ってしまったのでした。
「名前 付けるのって、難しいね」
「あなたは ご自身の名を 気に入って いないのですか?」
「嫌い!大嫌い!お花の 名前が よかったのに 何で 私だけ 木の名前なの?
私なんて 生まれてこなければ よかったのよ!
そうすれば、お母様も 助かったのに。
みんな みんな 大嫌い!!」
うわああんと 大声で泣きながら ヒイラギ姫は 駆け出して 行きました。
ずっと ずっと 心の中に 溜まっていたものを 初めて 吐き出したのです。
笑っていたのは、自分を 守るため。
そうしないと、生きていくのがつらかったから。
幼いときから 知らず知らず 本当の自分を 隠して 生きて きたのでした。
喋る うさぎは こういいました。
ー私は 遠い国の 魔法使いの 弟子なのです。
お師匠様から この国の 王子様に相応しい お嫁さんを 探してくるように 言われ
縫いぐるみへと 姿を変えて、旅を していたのです。
ところが この国に たどり着いた時、
柊の木の下で 片目が 取れてしまいました。
柊の赤い実に混ざって わからなくなってしまい、探しているうちに 雪に埋もれて しまいました。
私の 片目を 探して下さいませんか?」
チャミィの代わりに この 片目うさぎの 縫いぐるみをと 冬を過ごすことに なったのですが、
名前を 付けろと 毎日毎日 大騒ぎに なっていたのです。
ベッドの中で 泣きじゃくる ヒイラギ姫に 片目うさぎは 優しく 語りかけました。
「この世界に 生まれてくるものは、すべて 自分で決めて 生まれてくるのです。
あなたも、このわたしも。
そして、どう 生きるのかを 決めるのも 自分なのです。
この つらい 環境の中で、幼い あなたは よく ひとりで 頑張ってきたのですね。
そんな あなたを この世界に 命を懸けて 送り出した お母様は、
どんなに 嬉しく 思っていらっしゃることでしょう!
ただし、無理は 行けませんね。
泣きたいときは 泣き、愚痴を 言いたいときは 吐きだす。
ありのままの 自分を だしてこそ、初めて“生きる”ことが できるのですよ。
いいでしょう。この 冬の間、私が あなたの家庭教師を 勤めましょう。
私に ぴったりの 名前を つけられるように。
ただし、きびしいですよ。
ついてこれますか?」
もぐっていた 布団から 顔をだし、ヒイラギ姫は 涙と 鼻水で ぐちゃぐちゃの 顔で
うなずきました。
「はい。よろじくおねがいじまず」
そうして、にっこりと 微笑みました。
そう、チャミィを 虜にした あの、日だまりの 微笑みでー
そうして、片目うさぎの 特訓が 終わる頃、
ヒイラギ姫は 立派な レディと 生まれ変わりました。
少し 冬が 長引きましたが、春の 訪れは もう一つ 嬉しい知らせを 運んできたのです。
それは、
サクラ姫と となりの国の 王子様との 婚約の知らせでした。
行方不明だった サクラ姫は、なんと となりの国に いたのです。
そこで 王子様の 優しい心にふれ、二人は 結婚することに なりました。
「ごめんなさい、チャミィを 連れて行って。でも あなたのこと うらやましかったの、ずっと」
「いいえ、サクラお姉様。わたしも もっと ねえ様たちに 本当の気持ちを 伝えるべきでした。
どうか チャミィは、ねえ様が 預かっていて下さい。
未来に 生まれてくる こどおのために」
こうして 無事、冬と 春が 交代できたことに、王様も たいそう喜ばれ
片目のウサギに 褒美を とらせることにしました。
そこで うさぎは こういったのです。
「実は わたしは、魔法使いの弟子ではなく 王子本人です。
自分の 愛するひとを 探すため、友人の 魔法使いに 頼んで
縫いぐるみに 姿を 変え、旅を続けて 参りました。
そして、こうして 愛する人に 出会うことができました。
どうか、ヒイラギ姫との 結婚を お許し下さい」
王様は もちろんのこと、国中の誰もが 驚き、そして、 祝福しました。
でも いちばん驚いたのは、ヒイラギ姫でしたけれど。
ただし、まだ 姫自身が 幼いので、結婚は もう少し 先のことに なりましたけれど。
そうそう、うさぎの 片目は みつかりませんでした。
どうやら、渡り鳥が 持ち去って しまったようなのです。
今、二人は 片目を探す 旅に 出ています。
見つかったのですって?
それは、わたしチャミィにも わからないのです。
今 わたしは、 サクラ姫様の 子どものお守りで 忙しいものですからー
お・し・ま・い




