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賢人の召喚者  作者: タラバ
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4話 課題

アンバー少年が職に就いてから暫く経ち、とうとう教会から立ち去る時が来た。


「よし、準備完了」


荷物を纏めたソレは抱える程度の量しかなかった。就職先が商人とはいえ行商人の一団に加わる為に出来るだけ荷物は少ない方がいいだろうという判断の元、本当に必要な物以外は置いていくという結論に至った為だ。

お世話になる商店へ向かい最初に言われたのは荷運びだった。てっきり直ぐに行商のグループに加わって移動の日々と思っていた我々としては拍子抜けだが、最低限商人として……というか見習いとしてのやり方を仕込まれるらしい。

更に簡単な計算の仕方も教え込まれる……コレに関しては逆にありがたい。朝の荷運びが終わると勉強の時間、昼の休憩を挟んでまた荷運びと勉強。それが終わると一日の仕事が終わり。

自由時間に私を呼び出し愚痴を漏らすが、どうやら荷運び中に何処の地方からどんな物を仕入れるか覚えておく様に先輩に言われていたらしい。色々と愚痴を零していると段々と口数が減りそのまま寝てしまった。

まあアレだけ体を動かして勉強してとなれば体力が尽きるのも道理か。映像で見ていたからある程度の事は分かるが……喋っているのが現地の言葉だと分からんのよな……これは頑張って覚えるしか無いか。


(まあ折角呼び出されたのだから動かないと勿体無い。召喚者が寝ても現界出来ているという事は、最悪意識を失っても私が出ていればある程度はカバー出来るという事か)


そんな事を考えながら壁抜けで色々と部屋を見て回る。情報収集……と言う名のデバガメである。まあ向こうにも私が見えるので壁から顔を少し出す程度に留めて、基本壁の中を移動しているのだが。

で、色々見て回ったが特に珍しい物は発見出来なかった……が。少々不味い現場には出会った。アンバー少年に色々と教えていた人物なのだが、彼がイタしている現場を見てしまった……それも男と……。

中世や戦国の時代辺りでは男色家が多いというのは知識としては知っていたが、現場を見た事は無かったので少々ショッキングだった。動画なんかで見た事はあるが目の前でソレが行われるのとでは流石に差がありすぎる。

この事を少年に伝えるべきか……、いや、向こうにもプライバシーが有る訳で、無理にこの情報を伝えて教えを請う人物を色眼鏡で見るのはマイナスだしな……。


大人しく少年の部屋に戻った私は、物に物理的に干渉出来ないか実験する事にした。と言うのも以前……アンバー少年の就職祝いをした時にコップへの干渉が出来た。

更に言えば注がれた飲み物も飲む事が可能だった。めでたい席だったので一先ず触れることは横に置いて祝う事を優先した訳だが……理由が分からない。

あれ以来、特に何かに干渉が成功した事が無いし、同じコップを持とうと思っても成功しなかった。あの時と状況が違う? 食事中……ってのは無いか。

余り良い案が浮かばない。もしも物へ干渉する方法が分かれば……色々とやれる事も広がるので何とか方法を探したい。

生きてた頃に幽霊を題材にした小説や漫画は色々みてたがどの作品でも難なく物理的干渉してたから参考に……うん? 待てよ、確か何かの作品で力が……じゃないな。確か方向性が違う為に干渉出来ないってのがあったな。

随分昔の事だからおぼろげだが、確か幽霊になった男が末期の一言を伝えたくて声を上げるが伝わらず、別の方法でどうにか自分の意思を伝えるって作品だったか? もしこれが自分に当てはまるなら条件が合わない為に干渉できなかったって事になる。

仮説としては有りか? あの祝いの席では何らかの条件が整ったが故にコップへ干渉し注がれた飲み物も飲めた。

うん、割としっくり来る。じゃあ条件は何だ? 食事が条件? 若しくは飲み物……いや、液体が条件とか?

思い出せ、あの時は何があった? 祝いとあって普段は手を出さない、少しだけ高い飲み物を買って二人してコップに注いだ。お互いに笑っていた……感情を合わせる? 笑いから驚愕、更に笑いとお互いに感情は同じだったが……、一考の価値有りか?


まとめてみるとこんな物か?

何かしらの条件を満たすと物理的に干渉出来る。

干渉出来るモノは液体関係、又は液体が注がれたモノ。

実はモノ自体は関係なく召喚者と感情が一致していると干渉出来る。


後者はちょっと今は無理か、なら液体の方を試してみ……目の前が明滅して何時もの暗闇に戻った。思いの外時間が過ぎていたらしい。

取りあえず今後の課題か。




アンバー少年の見習いとしての時間は刻々と過ぎ、体感で1ヶ月が過ぎようとする頃。ついに少年も行商人としてデビューしようとしていた。

と言っても最初から難易度の高いモノを任せるはずも無く、例の先輩に付いて近隣の村を回る巡回行商をやるらしい。これはアレか、行商もそうだけどそれ以上に情報収集の側面が強いのかな?

何時もの窓で少年を見ながら傍らの窓で表計算ソフトを立ち上げて物品のリストを作り上げていく。食料、衣類、薬品、農具、種、所謂農民向けのラインナップに一部嗜好品。後は武器防具が少し。


(うーん、近隣とは言え盗賊とか出るんじゃないのか? そうなったら少年だと逃げ切るのは難しいかな……)


何か防衛手段とかあれば良いんだが少年が出来る事と言ったら私を呼び出す位しか出来ないからな。いざとなれば私が前に出て戦って時間稼ぎをするとして……武器持ちに徒手空拳かー。

この一ヶ月で一応モノに干渉する条件は分かったが、だからと言って少年に武器を買ってもらおうにも金が無い。咄嗟の瞬間に条件を満たすのは中々に難しいので平時にその条件を満たしておきたい所ではある。


(となると……やっぱ薬物を投げて怯んだ所を体術でどうにかするのが有効か)


別の窓を呼び出して商会で扱ってる薬品のリストを出す。実はこの窓、ただのブラウザかと思っていたらもっと別のモノだった。

てっきり暗闇の中でのみ出せるモノだと何故か思い込んでいたら、呼び出された先でもこの窓は呼び出せた。しかもアンバー少年にもこの窓が見えるっぽい。


(少年の為に金も稼がなきゃならんからなぁ……)


これで意思疎通が可能になった! と思ったがどうやらアンバー少年、漢字が苦手……というか分からないらしい。

色々と話し込んで分かったがどうやら小学一年生の夏休みに彼は召喚されたのだとか。丁度7歳になり母の実家へ遊びにいき、近くの山で遊んでいたところでこの世界へ召喚されたらしい。

この話をした所でアンバー少年は泣いてしまった。帰りたい、家族に会いたいと。

彼が落ち着いた所で彼の本名を聞いてみた……私の『窓』を使えば……失踪届けが出されているなら彼の名前を探せるだろうし、上手く行けば連絡が取れるかもしれないと考えた。

だがその考えは予想外の答えで途絶えてしまった。


『自分』に関する事柄を盗り上げられた。


自分が誰で、何と呼ばれていたか。自分の家族や友人等の事は思い出せるが自分の名前等は一切思い出せず、思い出そうとすると酷い頭痛がするのだとか。

その反面、家族の事は思い出せる故に心が痛む。そして自分を取り戻そうと召喚した者の為に必死に働く。所謂闇奴隷と呼ばれるもの。

聞いていて胸糞悪くなる話だったがアンバー少年の召喚者は彼が10歳になる前に既に他界している。何でも行き成りもがき苦しんでポックリ逝ったらしく原因は不明。

これで彼の記憶が戻ったら良かったのだが、運が悪い事に召喚者は借金を抱えていたらしく少年の記憶を埋め込んだ宝石(オーブ)も差し押さえられたのだとか。

そして彼自身は教会に保護されたらしい。幸いにも彼の記憶を埋め込んだ宝石を差し押さえた商人は国に許可を取って商いをしているらしく、宝石(オーブ)は記憶の持ち主の許可無く売買をしてはいけないらしい。

お陰で所在ははっきりしているのでソレを買い戻す金を貯めるのが当面の目標であり、その為には冒険者になるのが近道なのでアンバー少年は最初は冒険者になろうとしていたらしい。

尤も、12歳になり祝福を受けてスキルを発動させると私が出てくるとは思って居なかったそうだ。


(で、私に説得され現在に至ると……)


窓の薬品リストと劇物を紹介しているサイト。更に薬品の効果から予測した成分表(予測)を比較しながら混合した際の結果を考えながら最適なモノを探す。


(後でコレ等を買って貰わないとな)


そう思っていた所で目の前が明滅した。どうやら仕事が終わって一段落した様だ。


(今日は掛け算を教えるか)


商人として働くならば数学は学んで損は無い。そう考えながら現界すると、今日やる事を伝えられ嘆くアンバー少年だった。

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