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賢人の召喚者  作者: タラバ
2/6

2話 召喚者

死という眠りについた彼は当然それ以降は何も感じる事は無いと思っていたが、予想に反して死後の感覚というものがあった。

意外にもそれはとても心地良く、穏やかな気持ちにさせるものだった。

死ぬ直前の事故で首から下の感覚が無かったはずが何時の間にか全身の感覚があり、それが少しずつ広がっていく……何とも不思議な感覚である。

尤も身体を動かすという事は出来そうに無いし残念ながら何かが見えるという事も無く、自分が目を瞑っているのかそれとも実は目を開けているが見えていないのか。

ただ不安は無く、まどろみの中で安心感だけが有った。


どれ程の時をそうしていたのだろう。


眠りから覚める直前、まるで布団の中で惰眠を貪るような感覚は現実のソレ(目覚め)の様に唐突に終わりを迎える。


目を開けると巨人がこの身を抱いていた。ありえない光景に驚くと共に直ぐに意識が飛ぶ。

次に目を開けると土地を耕していた。小さな手で大きな農具をどうにか振るい土地を耕している。

瞬きをすると又、光景が変わる。勉強をしていたり、遊んでいたり、喧嘩をしていたり……まるで誰かの人生を早回しで見ている気分だ。

ボンヤリした頭でソレを眺めていると教会らしき所へ出向いて列に並ぶ、列の先では何かの儀式をしている場面になった。

コノ映像はなんだろうか……そう思いもした事があるが、結局直ぐに消えていくものなので何時しかただ眺めるだけになっていた。

だが今回は映像を見ていると何かに呼ばれた気がした。

暗闇の中、辺りを見渡す。いや、そもそも暗闇を見渡す事が出来ているかは分からないが彼としては見渡したつもりだった。

当然だが彼の周りには何も居ないし、何も無い。だが呼ばれた……いや、今も呼ばれている気がする。

彼が今まで感じたことの無い感覚に戸惑っている間にも、目の前に広がる映像では事態が進んでいる。

列は徐々に進み、映像の主が行われていた儀式に参加する。

目の前の老人……恐らく神父だろう男が何かを呟くと、今まで無限に広がっていた身体の感覚が急速に一つに……自分の意識下へと集まってくる。


その感覚に目の前が明滅し何時もの暗闇に戻ったかと思うと『音』が聞こえる。

今まで映像を見る事はあったが音が聞こえたことは無かった。

もしやと思い、目を開けてみると目の前に少年が立っていた……年のころは中学生位だろうか。

少年はポカンと間の抜けた顔をして此方を見ている。

ふと辺りを見回してみると、そこは先ほどまで映像で見ていた教会の中……儀式を行っていた場所だった。

周りには似たような中学生位の子供に遠巻きに大人、自分の後ろには神父が居た。皆一様に驚いた顔で此方を見ている。

どうしたものか……一先ず神父にでも声を掛けようとした時、目の前が明滅し意識が飛ぶ。


気が付けばまた何時もの暗闇に居た。先ほどのは何だったのか、久々に感じた音、動かせる身体。

出来る事ならまた同じような機会に巡り合いたいと思いながら暗闇の感覚に身を任せた。

すると不思議な感覚が芽生える。今まで感じたことの無い大勢の気配が自分の直ぐ近くに有る。

手探りでその気配を辿っていると、今までの映像とは別の物が目の前に出現した。

有体に言えばインターネットブラウザ。生前に利用していた各種ブラウザが目の前に出現している。

戸惑いながらもソレに注視するとカーソルが動いた……どうやって入力したものかと思っていると、考えただけで入力が可能であった。さらに検索をしてみると普通に動く。

何とも奇妙な感覚ながらも使えるモノなら使ってみる。




久々のインターネットだが社会人時代にIT関係や遊戯系の会社に居た為、問題なく扱える。

問題は何をするか……兎に角情報が欲しいと思い大手の動画サイトへアクセスし日付等を確認すると自分の死後十年という所だろうか。

自分の家族はどうなったか知りたい。出来る事なら話したい。出来なくても連絡だけでも……。

一度思ってしまうと考えは止まらず只管手段を探す。

探せばあるものでメールを現実の手紙として送るサービスを見つけた。ならばとフリーのメールアドレスを取得した所でふと思った。

死んだ人間から手紙が来るのはそもそもいかがな物か。ましてや息子嫁は庇われたのを負い目に感じていた。

持ち家だった為引越ししていない可能性は高いが、嫁がストレスを抱えていたら売り払って引っ越した可能性もある。


思案していた所で目の前のブラウザを押しのけて映像が出てきた。その事に少し驚きつつも映像を覗くと偶に映るどこかの部屋だった。

暫く映像を見ていると目の前が明滅し暗闇が訪れる。既視感を覚え目を開けてみると、やはり目の前にあの時の少年が居た。

見渡すとどうやら此処は一人部屋といった所だろうと見て取れる。棚が一つに箪笥とソレに立てかけられた木剣に木の盾等。棚にはちょっと用途が分からない様な物も飾られている。

目の前の少年は興奮と驚きが混ざってきちんと喋れてない。いや、正直に言うとちゃんと喋れているかが分からない。

何せ日本語で喋ってないのだから何言ってるか分からん。せめて英語なら多少は聞き取れるんだがそれを言うのは酷か。


暫く目の前の少年は何かと語りかけていたがこちらが見ているだけと分かると肩を落としてため息を吐いた。そのまま設置されているベッドで横になり寝てしまった。

どうしたものか……一先ず身体を色々動かしてみる。そして気が付いた、年を取ったしわくちゃの手ではなく張りのある肌。筋肉の付いた手足。

年老いた身体ではなく恐らく20代から30代といった身体になっているではないか。何故、と考えるがそもそも死んだ後の出来事なのでそういうものかと思い辺りを見回す。

普通に用途の分かる物もあるが棚に置いてある用途の分からない物が何か妙に気になるので手に取ってみようとした所……すり抜けた。

何度か試したがすり抜けてしまう。幽霊みたいな物かと何故か妙に納得した。

試しに壁に手を突っ込んだり、壁抜けしてみたり、更に宙に浮く事まで出来た。

コレ幸いと色々試していると少年が起きて何やら喚いてるので少年の目の前に降りて落ち着く様にジェスチャーで示す。


色々とジェスチャーでやり取りをし、少年の声を聞いても分からない事を伝える事は出来たと思う。それが分かった少年は頭を抱えていたが……。

その後、少年がジェスチャーで何かを伝えようとしていたが残念ながら分からなかった。力瘤を見せつけてから指差されてもさっぱり分からない。

暫くジェスチャーでやり取りをしようと試みていたが、唐突に目の前が明滅して又暗闇の中に居た。




それから何度か目の前が明滅してから少年が目の前に現れる事があった。こうなると流石に分かる。

恐らく少年が自分を呼んだのだろう。そして任意に呼び出している。

何となくカードゲームを思い浮かべてしまう。コストを支払いモンスター召喚や罠や魔法を現実にするタイプの奴。

それだと自分はモンスター枠として召喚されてるんだろうか? そして一定時間を越えると帰還……と言って良いのか分からないが、あの暗闇に戻る。

もしそうだとしたらこの身は倒されても……最悪再度殺されても生き返るのか? そもそも現在物に触れる事すら出来ないからどうにも出来ない気もするが……。

と言うか召喚者と意思疎通が取れないのは致命的だ。一応こちらから話しかけることが出来ないか試したがどうも聞こえてないらしい。

向こうからの言葉を聞く事は出来るがこちらから伝える事は無理な時点で会話は中々厳しい。そもそもの言語が違うという所が大きな壁になっている。




それから何十回と少年に呼び出されたが一度も意思疎通が取れなかったが、ついに会話が成り立つ時が来た。

何時も通りにジェスチャーを交えて少年が語っていたが今度も駄目だとうな垂れてベッドで横になる。何時も通りの行動。

ベッドに横になって呟いた一言が切っ掛けだった。


「帰りたいな……」


その一言は正しく日本語だった。目を開き少年の方を見る。

日本語が使えるのかと彼の肩を掴む。そう、掴めるのだ。色々な物をすり抜け無視出来るが、唯一生物……というかある程度の大きさの生き物に干渉出来るのは把握していた。

少年は行き成り肩を捕まれた事に驚きながらも、此方が自発的に、それも感情を顕わにしながら行動を起こした事に疑問を感じたようだ。

暫くあれやこれやとジェスチャーを交えながらやり取りをした後、漸く少年は気が付いた。


「もしかして日本語通じる?」


その日、初めて召喚者と意思疎通が可能になった。

要約「召喚と意思疎通が可能になった(但し召喚される側)」

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