可奈にベタ惚れモンスターが現れた
「あぁ〜♡可奈様〜♡」
小さな声でそう呟きながら、授業中に懸命に何かをノートに書き込む生徒がいた。
「終わったぁ〜。5教科と保体はキツイな」
「そうね。生徒会室には寄って行くの?」
「ん〜、そうだな。最近朱音さんに迷惑かけてるしな」
兼染の件で、彼女の家から苦情があったらしい。
俺が原因だと……。
そんなことがあったにも関わらずPTAが静かなのは、朱音さんのおかげだった。
どんな学校でも大抵PTAはうるさいものだがこの学校は特にだ。
上位の学校であるため、些細なことでも黙っていない。
それを、朱音さんは色々な手段を使ってシャットアウトしてくれたのだ。
ほとんどは脅迫に近いが……。
俺の責任だし、文句は言えない。
「そうね、それじゃあ行きましょうか」
重い声で告げた可奈はきっと、自分自身の責任を感じているのだろう。
そして生徒会室へ向かった。
生徒会室
「和也〜!よかったよぉ〜」
そう言いながら朱音さんは頬を擦りつけている。俺の頬に。
「朱音さん……ちょ、痛いです」
「何か言われなかった?されなかった?大丈夫?」
「えぇ、大丈夫です。朱音さんのおかげですよ。本当に感謝してます」
俺がそう言うと朱音さんは、
「私は和也の愛があればなんでも〜」とか
「これでお嫁さん候補に一歩近づいたわね」
などと言っていたが、あえてスルー。
次は俺じゃない奴の出番だ。
「会長……」
「ん?どうしたの園木?」
朱音さんは普通に戻ってそう返した。
「私の責任で……和也を退学寸前にしちゃって……その…ごめん」
可奈が頭を下げるのは珍しいな。
しかもあの朱音さんになんて、今までなら考えられなかったな。
「全然!これは私が和也のためにしたことなのだからアナタが責任を感じる必要はないわよ?」
「でも、やっぱり……」
「だからいいってば。でも、頼みを聞いてくれるなら和也を諦め」
「嫌よ」
さっきまで内気だったが、いきなり変わった。
俺を諦めるってどういう意味だ?
「えー、いいじゃない。アナタモテてるんだしさ」
「モテてる?私告白されたことないわよ?」
それは……まぁ、弁当もあるしtheお嬢様だからな。
告白出来ない奴の方が多いだろ。
「違う違う、男子じゃなくて」
「男子じゃない?女子ってこと?」
「そうそう。いつまで隠れてるの?そろそろ出てきたら?」
朱音さんのその声で物音を立てた場所があった。
扉の向こう側。
誰かいるわけか、追うべきだろうか。
俺がそう考えていると、扉が開いた。
「ハハハ、バレてたんですか。さすがは会長」
「当たり前でしょ、この2人が鈍感なだけよ」
鈍感ですか……殺気ならわかるんだけど。
好意はわからないな。
「改めまして、百合部巫女と申します。よろしくお願いします!可奈様!」
可奈ピンポイントで挨拶ですか。
随分といいご身分で。
「え、えぇよろしく。百合部さん」
いきなりの様付けに可奈も少し動揺していた。
「俺は須藤和也だ。よろしく」
「チッ……よろしく」
一番最初すっげぇ顔で睨まれたんだけど。
しかも舌打ちかよ。
昔の俺ならこの時点で殴ってた気がする。
「私は花岡朱音。よろしくね」
「よろしくお願いします、花岡会長」
待って、なんで俺睨まれたのに朱音さんは普通の挨拶なの。
俺嫌われてるのか?
「あの〜、百合部さん?」
「はい!なんでしょう可奈様!」
顔の変わりか……表情豊かと言っておこう。
「どうして私達を尾けていたの?」
「達ではありません!私は可奈様一筋です!」
名前の通り百合なわけか。
また厄介な奴が来たもんだ。
「わかった?園木、アナタはモテるのよ」
「ま、まぁ……」
否定は出来ないよな。
微妙な空気に救世主になるかもしれない人物の登場。
「すいません会長!遅れま……えっと、誰ですか? はっ!まさか会長!私が遅れたからってもう代わりの副会長を!?許して下さい〜」
勝手に聞いて勝手に納得して、挙句の果て朱音さんの足元に行き、泣きついている。
救世主にはならなかったな。
「ちょっと、優希!違うわよ!ただの生徒よ!」
「ふぇ?そうなんですか?」
「当たり前じゃない。貴女は頼りになるんだから、少し遅れた程度で役職から外さないわよ」
「完璧に忘れてて、途中まで下校してたんですけど……」
「百合部さん、副会長を頼めるかしら」
「ごめんなさい〜〜」
墓穴を掘ったな。
「あっ、そう言えば自己紹介がまだでした。明間優希といいます。よろしくお願いしましゅ」
最近あんまり噛んでなかったんだけど……戻ってしまったか。
「百合部巫女です。さっきの体勢になってもらえますか?」
「? こうですか?」
優希さんはそう言って朱音さんの足元に伏せた。
「少しじっとしていて下さいね」
「???」
その場にいた百合部以外は意味がわからなかった。
そして、30秒間の間に鞄からスケッチブックとペンを取り出し、ものすごい早さで書き終えた。
「完成です」
見せられた絵に俺達は青ざめた。
優希さんが息を荒げながら、朱音さんに鞭で叩かれてる絵。
しかも2人とも裸。
画力はあるのだが……。
「ど、どどど」
朱音さんが焦っている。
コイツ……出来る!
「どうやって私の胸の大きさがわかった!?」
「いや、ツッコムべきはそこじゃないでしょう!?」
つい俺がツッコんでしまった。
「私のもあってましゅね」
「あってるの!?……じゃなくて、この絵について何か言いましょうよ!」
優希さんまで……しかも、これの通り美乳で…やめろ俺!思い出すな!
俺は1度温泉で見たことがあった。
それはもう綺麗な形で……。
あー、もう俺も末期だな。
「と、ところで百合部さん」
「巫女と呼んでくださいませ可奈様!」
「じゃあ……巫女…今日はもう帰ってもらえる?これから少し会長と話をしたいの」
謝罪も終わっているし多分、帰らせる口実だろう。
「可奈様と帰りたいです!」
ダメだこれ、通じないな。
「わかったわ……しょうがない。和也帰るわよ」
「ん、あぁ」
俺達3人は会長と副会長に一礼し、生徒会室を後にした。
下校時
「可奈様〜、この男は一体なんなのですか?」
この男呼ばわりかよ。
俺ももう苦笑いしかできねぇや。
「あー、俺は可奈の家でバイトしてるんだよ」
「アナタには、聞いてない」
こぉんのアマァ……。
そろそろ限界だが、ちょうどよく家に着いた。
「うちはここだから、じゃあね巫女」
「えっ……はい。さようなら可奈様」
寂しそうに帰っていった。
「危なかった、もう少しで手が出るところだった」
「まぁ、落ち着きなさいよ。これから仕事もあるんだし」
「そうだな」
俺は落ち着きを取り戻し、仕事をこなした。
アイツは俺が気に入らないだけなんだろうか。
なんか、それだけじゃない気がするな。
残り294日




