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4. 絡み合う 想い

  日没後から、火山内の 調査を始めた ユニシスたちであったが―――。



「…………… 無いな」

「無いね」

「…………」


  夜明け前ギリギリまで 調べてみたのだが、予想した《何か》など、見つからなかった。


「…… そうなると、ますます 怪しいな」

「何もないのに、火山へ入ることなど不可能だし……」

「――― もう戻らねばならない時間だ」


  考え込もうとした ユニシスと フレストルをよそに、黒い騎士さまは 冷静だった。

「見つけられない以上、今のところは 手を引くしかない」

「…… ちっ、仕方がないか」


  何かをしたから、ウェルスラー副院長たちは 火山に侵入できた。

  何を、したのか。

  何の ために?


  神竜の 結界があるから…… という理由の前に、この火山には 《王族以外は立ち入り禁止》であると、国の法で定められている。

  ウェルスラーたちは、明らかな 違反者なのだ。

  目的さえ わかれば、すぐに 取り締まって 捕まえることができるのに。


「…… アストレイア、私たち 帰るね!」

  ユニシスは、聴こえているだろう 神竜に向かって、声をかける。

  すぐに、真っ赤な炎が 一瞬だけ反応した。


  また おいで…… と、言われているような気がして、静かに 手を振り返す。

「ヴァーラ、帰るよ」

「ふぁぁぁ、やっと出てきたか。 ここは暑くて かなわん」


  火山を出ると、待機していた 魔物が姿を現す。

「ねぇヴァーラ、私たちと 入れ違いに、集団が出てきたでしょ?」

「あぁ…… どこかで見たことのある、いけ好かない ヤローだったな」

「何か 感じなかった?」


  もともと、《聖なる魔法》を得意としていたウェルスラーは、各地で起こる 下級魔物退治での 《活躍》が評価され、王都での職に就いた 過去がある。

  上級の魔物であるヴァーラにとっては 怖くもなんともないが、そういった魔法使いの 《雰囲気》は、《なんとなくイヤ》と感じるらしい。


「それが、妙なんだ」

「どういうこと?」

「いけ好かないのは 変わらんが、なんというか…… 上手く表現はできないが、いつもと違うのは確かだった」

「いつもと違う…… か」


  飛行を始めたヴァーラも、どこか 腑に落ちないといった様子だった。

  なんだか、ハッキリしないことばかりである。

「…… そんなことよりも、ヴァーラ! 何で僕だけ、宙づりで運ばれなければいけないんだ!」

「仕方ないだろう、《マメ》は よく落下するからな」


  なぜか、ユニシスの周りに集まる 魔物たちは、みんな揃って、フレストルのことを 《マメ》と呼ぶ。

  理由を聞いてみても、誰も教えてくれないために、いまだに真相は謎だ。

「だからって、宙づりはないだろう!」

「バカを言うな、《行き》の時のように、口に咥えていて、うっかり飲み込んでしまっちゃ たまらんからな」


  フレストルは魔法使いであり、普段は 《ローブ》という、フード付きの 長い衣装を着用している。

  口に咥えられる代わりに、その衣装の 《腰ひも》の部分に ヴァーラは爪を引っ掛けて、それで運んでいるようだ。


  背中に乗せられている ユニシスからは、ちょうど見えない位置にいる。

  腰ひもが切れたら 即 落下 ――― の危険は否めないが、大声が聞こえているうちは、そこにいる証拠なのだろう。

  かなりの 高速飛行で、飛んでいる 高度も高いことを考えると、気の毒なのは 間違えない。


  しかし、ユニシスにとっては、フレストルのことを気にかけている 《余裕》は、あまり無かった。

  行きと同様 ――― 黒い騎士さまに、背後から 抱き締められるという 《恥ずかし体験》が継続中だったのである。


  ばくばくと せわしない心臓の音を 悟られないように、ヴァーラとの会話で 気を紛らわそうとしていただけなのだ。

  騎士さまの方は、相変わらず 何の変化もなく、腹立たしさを 通り越して、だんだん 憎らしくなってくる。


「僕だって、お前になんか 食われたくはなーい!」

(あるじ)なら ともかく、マメなんぞ食っても 腹の足しにもならんわ」

「何だ、その 言いぐさは! 僕が 不味いとでも言いたいのか!」


  空は だんだんと 明るくなり、夜明けの時間が迫ってきていた。

  報告を待っている セラスティア王子に、早く 会わねばならない。

「…… ヴァーラ、悪いけど もう少し急いで」

「了解」

「ぐぉぉぉぉっ!?」


  最悪、フレストルが落下したとしても、彼は 魔法使い――― この辺りまで来れば、自力で 王宮まで戻れるだろう。

  そんな 自分の冷徹な部分を 内心苦笑いしながら、ユニシスは 見え始めた王宮の建物を、ただ見つめるしかできなかった。


※ ※ ※


  セラスティア王子だけではなく、部屋には ユージーンも 待っていた。


  何も成果が無かったことを 謝罪をすると、王子は にっこりと笑って否定した。

  『誰の 派閥にも属さない、中立派だとされていたウェルスラーが その場にいたことは、大きな収穫だよ』と。


  国といえども、決して 一枚岩ではなく、王族・貴族、魔法院や 騎士院など、それぞれ 互いに利権を争ってばかりいるのが 現状だ。

  セラスティアとて、王位に一番近い王子とはいえ、完全な 《権力者》ではないことは、ユニシスの件が よく物語っている。


  誰が 誰とつながり、何を求めて、どう動くのか。

  いち早く 相手の情報を掴み、動向を読むことが、この王都で生きるためには 重要なことだった。


  まして、今回 関わってきているのは、神聖なる火山と、神竜。

  人間の 私利私欲で 荒らされてはいけない、不可侵の 領域。

  単なる 権力争いで済まない、大きなモノが 隠れているのは、間違えない。



  王宮を出た ユニシスは、静まり返った裏通りで、魔物の名を呼ぶ。

「イグニス、いるんでしょう?」

「…… (あるじ)には、隠し事は できぬようだ」


  飛竜である ヴァーラとは異なり、完全な 《人の姿》をとる魔物、イグニス。

  魔物にも 位があり、人の言葉を話すほど 上位であり、姿を消せるほど 魔力が強い証であり。

  人の姿をしているほど、上級 ――― つまり、イグニスは 《最上級の魔物》であることを表していた。


  本来、魔物とは 人とは 相容れぬ存在。

  人間のことなど、取るに足らない、エサのようにしか考えない 種族。

  関わるどころか、姿を見せることさえ 嫌がる魔物もいるのが事実なのだが……。


  ユニシスは、生まれながらにして、魔物に 好かれやすい。

  相手が、イグニスのように 最上級の魔物であっても。


「…… 魔法院の中が 怪しいとは思うんだけど、私には入れないし、このままだと フレストルが危ないかもしれないの」


  姿を魔法で消していたとはいえ、すれ違った ウェルスラーには 気付かれていたかもしれない。


  ユニシスが 《魔物憑き》だというのは、魔法使いなら 誰でも知っているから。

  魔物の 《報復》を恐れて、おいそれと 手を出してこないだろう。


  けれど、フレストルは 別だ。

  彼は、ユニシスと同じ、名門コランドール家の者だが、あの 性格のせいか、強力な 《後ろ盾》というものを、持ってはいない。


  不正を嫌う姿勢は 称賛に値するが、言いかえれば 《味方》が誰もいないことと同じなのだ。

  それなのに、単身 魔法院に乗り込み、仕事をこなす ――― その 《男気》は素晴らしいが、いつ 消されてもおかしくはない。


  本当は、あまり フレストルに関わるべきではないのだ。

  自分と 深い 繋がりがあると知れれば、彼にとって、もっと事態は 悪い方へと転がりかねない。

  それでも。


  唯一、ユニシスのことを 普通に扱ってくれる、身内なのだ。

  誰にも 屈せずに、ただ 《正義》を追及し続ける 性分は、嫌いじゃない。

  否、むしろ 《好き》なのだ。

  こんなところで、あっさりと 負けていい男ではない。


「…… しばらくは、姿を隠して そばにいるとしよう。 もし、危険なことがあれば、正体を明かして 前に出てもよいな?」

「イグニスに、任せる」

「まったく…… マメの分際で、主に 心配かけるとは、なんたる不届き者か」

「そんなこと言わないでよ…… アレでも、親戚なんだから」

「ふん …… だから、許せんのだ」


  言葉だけ残して、イグニスは気配ごと、完全に その場から消えた。

  魔法が使えないとはいえ、魔力に対して 敏感なユニシスでも、もう 居場所を追うことはできない。


  この国の 魔法使い達の《チカラの結晶》ともいうべき、魔法院の 結界であろうと、イグニスなら 支障なく 入り込めるだろう。

「イグニス、くれぐれも 気を付けてね」


  魔であれ、人であれ、心配をするのに 変わりない。


「さて …… 帰って、今日の授業の 支度をしなくっちゃ」


  朝焼けの 光に照らされながら、さびれた道を ユニシスは急いだ。


※ ※ ※


「やはり、《暗示》が原因でしたよ」


  ユニシスと一緒に 王宮を出たはずのフレストルは、瞬間移動で 再び 王子の前に戻ってきていた。


  遠く離れた距離となると、魔物でない限り 無理だが、多少の距離ならば 魔法で移動ができる。

  それくらいの、能力は ある。


「それは、もう ご丁寧に、あらゆる 《痕跡》を隠し、何事もなかったかのように 作り上げてはいましたが……」

  なぜ、魔法が使えないという理由だけで、あんなにも ユニシスが 忌み嫌われるのか。


  そもそも、魔法を使える人は、珍しい。

  国の 僅かな一族にしか、魔力は 備わってはいない。

  魔法を 目にすることはあっても、たいていの人が、魔法を使うことはできない。


  ユニシスのように、知識を 習得したとしても…… だ。


「いくら 名門の家に生まれようと、使えないってだけで、あとは 普通の国民と変わらない。 なのに、こんなに何年も、ユニが 迫害されてる裏には…… 《暗示》かよ」

「手際の良さと、王都をすっぽり 囲えるほど 強力な暗示となると ―――」

「ウチか、テシドール家しか 考えられませんね」


  コランドールと並ぶ、魔法の名門・テシドール家。

「まぁ、あちらさんには、わざわざ こんなことをする理由がないので、ウチの仕業だと 断定していいでしょうね」

「…… ったく、お前たちんとこは、ほんと一族 どーなってやがんだ?」


  ユージーンの家とて、貴族の端くれ。

  きれいな部分ばかりでないことは、監視をつけられていたことでも わかってはいるが、コランドール家の やり方は、度を越している。

「あーんな 小娘ひとりに、なんで 大人たちが よってたかって、攻撃すんだ?」


  ユニシスが、王都に 居づらくなるように。

  暗示にかかった人は、彼女に ツラく当たるように。

「暗示にかからなかったのは、わずか 数名…… わたしと、ユージーンと、フレストル、それに ――――」

「わたしでございますよ、セラ様」


  ひっそりと、気配を消して現れたのは、セラスティア王子の 近衛隊長・ハーディンだ。

「…… そうだな」


  たまたま、暗示にかからなかった 男たちにとっては、可愛らしい少女でしかない。

「あんなにも 心優しき ユニシス殿が、なぜ このような目に遭われるのか、これで納得がいきました」

「魔法が関連しているなら、騎士の 俺たちには 手も足も 出ねぇよなー」


  ユージーンは、体を うーんと 伸ばす。

  剣で 解決できることなら、いくらでも動いてやるのに。


「暗示だと 突き止めはしましたが、簡単に 解けるものではありませんし……」

「コランドール家の 総力を挙げての暗示なら、君 ひとりでは不可能だろう」

「魔法院の 内部の動きも、ここのところ 不審な点ばかりです」

「やはり、魔法に強い者の 《協力》を得ることが、一番の 課題なのか……」


  セラスティア王子にとって、正義を絵に描いたような フレストル以外、信用できる魔法使いがいないことが、大きな問題であった。

  魔法に関することを 調べたくても、調べきれない。


  剣と魔法は 互角だという 国の法は、実際には 通用しないのだ。

  この際、誰でもいい。

  協力者が、欲しい。


「ひとまず、解散しよう。 ご苦労だったね、フレストル」

「寝不足だからって、仕事中に 寝るなよ~」

「フレストル殿、家まで お送りいたします」



  引き上げていった仲間を見送り、セラスティアは つぶやいた。


「何に代えても、君を守りたいのに………」


  魔法が使えないことで 苦しんでいるのは、ユニシスだけではない。

  いくら剣を学び、王子としての 権力を手に入れても、魔法だけは 別だから。

「わたしも フレストルのように、魔法使いならば よかったのに ――――」


  小鳥の さえずりを合図に、王子は 朝の支度へと向かった。



  王子としては 逃れられない、課せられた責務を 果たすために。   

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