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1. 穀つぶし

 剣と魔法と 竜が出てくる、王道ファンタジーの予定です。

  《穀つぶし》……とは。


  飯を食うには一人前だが、これといった能力が無く、毎日を ムダに過ごしている者 ――― という意味の言葉であるという。


  つまり、家の者にとっては《厄介者》であり、お荷物どころか、《疫病神》にも相当する、迷惑極まりない者を指した 呼び名なわけで……。


  これは、 そんな 複雑な運命のもとに生まれてきた、少女・ユニシスの物語である。


※ ※ ※


  さて、舞台は ここ。


  神竜の加護を受け発展してきた、騎士と 魔法使いの国・アストリア王国。


  その 王都・タファールには、王族が暮らす 《王宮》に、騎士が詰める 《騎士院》、そして 魔法使いが集まる《魔法院》、さらには その卵たちを育てる 《教育機関》が集合して、どの町よりも 華やぎと活気があった。


  物語の 主人公・ユニシスも、その王都で生まれ、王都で育った、生粋の 《都会人》なのだが―――。

  彼女の場合、生まれも 育ちも、周囲の人間とは かなり異なっていた。


  名門の家に生まれながら、《役立たず》と烙印を押され、十二歳で 家から追い出されてからは、自分のチカラだけで 生きることを余儀なくされた、不運な少女なのである。


※ ※ ※


  キーンコーン カーンコーン


  授業の終了を告げる 鐘が、校内に 響き渡る。


「…… はい、では 今日の授業は ここまでです。 定期試験が近いので、各自 勉強を怠らないように ――― 以上、終わります」


  毅然とした 態度…… とは 聞こえはいいが。

  いつもの不愛想な顔で 授業を終わらせたのは、この魔法学校で 《魔法学》を教えている教師・ユニシスである。


  若干 十七歳という 年齢でありながら、《魔法学》の最高峰・《博士》の称号を持ち、現在 臨時教師を務めているのだ。


  魔法とは、《学科》と《実技》の二つに分類され、基本的に 《魔法の仕組み》を理解しない限り、魔法は使えない。

  魔法の成り立ち、構造を理解し、それを 《呪文》を使って 《再現》することで、魔法としてのチカラが発動するのだ。


  すなわち、学科こそが 魔法の基本。

  数学や 化学と似たような 難解な 《式》を 呪文に変換するのは、慣れた者でも 難儀な作業だ。


  それを、呼吸をするのと 同じように、スラスラと組み立ててしまえるほど 魔法式に慣れた ユニシスというのは、さすが 《博士》だと 称賛されていいはずなのだが―――。


  この王都に暮らす限り、彼女の 《地位》は、最低だった。

  数少ない 《博士》であろうが、教える立場にある 《臨時教師》であろうが、そんなことは 関係ない。


  ユニシスが、ユニシスである以上。

  彼女は、この王都の 誰もが知る、《恥さらし》という 《不名誉な看板》を 背負わなければならなかったのだ。


「センセー」

「センセー」

「待ってよ、センセー」


  つかつかと 早足で廊下を急ぐ ユニシスの前に、数人の学生たちが 立ちはだかる。


  今 終えたばかりの授業は、魔法学の中でも 《高度》なものを扱う学級であり、当然 集まる生徒は そこそこの年齢…… つまり、ユニシスよりは 年上だ。

  しかも、慕って 目の前に現れているわけではない。

  バカにするくらいなら、可愛いものだ。

  しかし、生徒たちの 顔つきからは、それ以上の 《悪意》が感じられ、舌打ちしたくなる。


「…… 授業での 質問があるなら、質問用紙に記入して、渡してください」

  精一杯 冷静に、氷のような声色で 生徒たちを見上げる。

  ユニシスは 女性として背は 低くはない方だが、二十歳前後の青年相手では、体格でも 勝ち目はない。


「質問だって、どーする?」

「あぁ、質問だったら、オレ いっぱいあるんだけどなー」

「そーだね、センセー、オレ 個人授業を希望したいんだけどー」

「どうせ、授業以外では ヒマなんだろー?」

「オレたちの、相手してくんねーかなー?」

「ギャハハ、丁度 そこに、空き教室があるんだよねー」

「ねー センセ?」


  下卑た笑いで 腕を掴もうとしてくるのを、するりと かわす。

  どうせ、空き教室といえども、彼らの 《罠》で埋め尽くされているに違いない。

  《防音》や 《拘束》の魔法をかけ、逃がしてはくれないだろう。


  中に 入れられてしまえば――― ナニをされるかは、想像したくもない。


「先ほど、言ったはずですよ? 試験が近いから、家に帰って 復習に専念してください」

「えー センセ、勉強にも 息抜きが必要だって!」

「なー?」


  相手は、四人。

  彼らの実家は けっこうな貴族ということを考えると、通りすがりの教師たちも、見て見ぬふりをするだけで、逆らえない。

  ついでに、学生ではあるが、彼らも 魔法使いの卵 ――― それぞれが、そこそこの 魔法も使える。

  あぁ、一番 面倒くさい 展開だ。


「…… 何度も、同じことを 言わせないでください」

  どうせ、相手が 町のチンピラや ゴロツキだとしても、自分を 助けにきてくれる人なんて、この 王都では、数少ない。


  だって、自分は、誰もが知る、《ユニシス》だから。

  一族から 追放され、除名され、無一文で 放り出された 《落ちこぼれ》だから。

  そんな少女が どうなろうと、誰も 気にしない。 誰も、心配しない。

  仮に、女として 汚されようとも、役場に 自ら 訴え出ない限りは、どうにもならない。


  だから、自分の身は、自分で 守るしかないのだ。

  たとえ ―――― 魔法が、いっさい 使えないとしても。


「忘れたのですか? 私は、皆さんの 担当教師です。 成績をつけているのは 私ですよ?」

「ヘヘヘ、そんなの、主任の教師を ちょーっと脅せば、いくらでも 変えられるんでね」


  …… どうやら、最近 薄々気づいてはいたが、あの教師も 買収されていたというわけか。

  本当に、くだらない。

「…… クズ野郎が」


  思わず、本音が ポロリと出てしまう。

「あぁん? てめぇ、国一番の 落ちこぼれのクセして、何て言いやがった?」

「自分の立場を 理解してねぇようだな」

「ここらで イタイ目に遭って、知った方がいいんじゃね?」


  うるさい。 イタイ目ならば、とっくの昔に 経験済みだ。

「おとなしく、帰りなさい。 そうしないと、私も 怒りますよ?」

「ギャハハ、怒りますよって、かーわいいな、センセ!」

「嫌がってくれた方が、こっちも 燃えるんだよな!」

「おい、誰か来ないうちに、とっとと 連れ込もうぜ!」


  まず 二人が 直接手を伸ばし、残りの二人は 逃がさないよう 《呪文》を唱えだす。

  それを、身体をひねって すり抜けつつ、呪文を唱える生徒に向かって、木の実を投げつけた。

「!」

「うわっ!」


  木の実は、生徒の体に当たる直前で、弾け飛んだ。

「へぇ、防御の魔法は 使えるようになったみたいですね」

「この、クソ女!」

「…… ですが、やはり あなた達は 勉強不足です。 この弾いた実が、何だか 覚えていないようですね?」

「なにっ」

「これって……」

「まさか、カラクの実っ …… ゲホッゲホッ」


  ユニシスが投げたのは、カラクの実という 魔法道具だ。

  弾けた瞬間、催涙性の煙が出てくるという、ちょっとした 《護身道具》である。

「バカなことを 企んでいないで、少しは 勉強してください。 せっかくの 魔法が、もったいないですよ?」


  自分とは違って、魔法が使えるのだから。

  こんな 悪事に使用せずに、もっと有意義に使うべきなのに。


  使えない側からしたら、呪いたくもなる。


  目と鼻を押さえて、むせながら その場にうずくまる、生徒たちを残して。

「それでは、さようなら」

  何事もなかったように、いち早く 立ち去ろうとするユニシスは、ほんの一瞬だけ、隙を作ってしまった。


「てんめぇぇぇ!」

「!」


  運よく、その隙を見逃さなかった生徒の一人が、ユニシス目がけて 光るモノを繰り出す。

  それは ――― 刃物。

「ちっ」

  門番は、何をしていたのだ。

  こんな物騒な モノ、どうして 学生が校内に持ち込んでいるのか。


  あぁ、門番も 買収されているのか―――。


  なんだか、情けないやら、呆れるやら。

  こんな ロクデナシ達よりも、自分の方が 《格下》に見られているなんて…… 考えると、反吐が出る。

「めんどくさいなっ」


  好きで、こんな生活を送っているわけではない。

「お前たちに …… 何がわかるんだよ!」


  近づく 銀色の刃物を 蹴り落そうと、勢いよく 回転蹴りを食らわせようとした ―――― そのとき。



「――――― 何を、している?」



  この場に そぐわない。

  低くて、冷静で。

  静かなのに、よく通る声が 響いたのと。

「うっわ!」

「いっ!」

「いてぇぇ!」


  生徒たちの 悲鳴が上がったのは、ほぼ同時だった。


※ ※ ※


「ユニシスというのは、君か?」


  痛がる生徒四人を、片手で 廊下に放り投げたのは。


  珍しい 黒い髪と瞳を持つ、見かけない 《騎士》だった。


「…… ど、どちら様ですか?」


  こんな騎士、ユニシスは 見たことが無い。

  王都に生まれ、王都で育ち、しかも 幼馴染みに 現役の騎士がいるせいで、この町の 騎士ならば、顔を知らぬ者はいないはずなのに。


  東方の生まれなのか、顔立ちも 独特で、でも 目が離せない雰囲気がある。

  騎士の証である 剣を持つ姿は、そんなに筋肉ムキムキとは言えないが、引き締まった いい体格をしていた。

  なにより 圧倒されたのは、その 目のチカラだ。

  睨まれているわけではないのに、自然と、体が 動けなくなる。


「こちらが、先に 質問している。 ユニシスというのは、君で 間違えないか?」


  しばし、無言で 硬直していた思考が、いっきに現実へと戻された。

  この男……… 騎士のくせに、自分の名を名乗らないとは、なんてヤツ!


「…… お言葉を返すようですが――― 騎士さま?」


  この国での 《騎士》という職業は、かなりの地位になるから、ユニシスは 怒りつつも、丁寧に対応した。

「レディに お尋ねになるときは、ご自分の名を 明かすべきだという、国の習慣をお忘れではないですか?」


  慇懃無礼…… あぁ、これだから、自分は いつも、敵を作りやすいのだと、しみじみ思うのだが。

  性分というものは、なかなか どうして、変えるのは難しい。


  見知らぬ騎士が、いったい 何の用だ。

  助けに入ったように見えたが、やはり そうではないのだろう。

  どこかの金持ち貴族にでも 雇われたのか、どうせ ろくでもない用事に決まっている。


  ユニシスの体には、名門・コランドール家の血が流れている。

  本人に 魔法が使えなくても、《血》には チカラがあると、本気で信じている輩もいるのが事実だ。

  捕えて、子を産ませようとか、その血を抜いて 魔法実験に使おう…… など、《拉致》されかけたことなど、今に始まったことではない。


  捕まる前に、逃げる。 これは、鉄則だ。

  逃げようとした ユニシスの足は、不覚にも、騎士の 何気ない発言で、再び ピタリと止まってしまうのである。


  あろうことか。 騎士さまは。


「君は――――― 女性、だったのか?」



  ぴちぴちの 乙女に対して、そんなことを、真剣に 聞いてきたのである。  

 初めましての方も、他の作品を ご存知の方も。

 どうも、水乃と申します。


 趣味で 活動している、国語力が乏しい 未熟者ではありますが、お話を作ることは大好きな乙女 《?》でございます。


 お時間ありましたら、このシリーズも お付き合い下さると嬉しいです。

 まったくの 不定期更新を予定しておりますので、そのあたりは ご了承くださいませ。

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