2輪 飾り気ないタンポポの師の
新クラスで迎えるホームルーム。
ホームルームの時間は、第2と第4月曜日の月2回ある。そして今日は、新学年となって初めてのホームルームである。高校自体は、4月の第1週目から始まっていたので、新学年を迎えて1週間経ってから行われた。
そして本日のホームルームはまず、学級代表と委員会決めを行うこととなっている。
この高校では部活動をしている生徒と学級代表以外の生徒は、必ず何かしらの委員会に所属することが定められている。ただし、部活動をしていても、学級代表であっても、本人が希望すれば委員会に所属することはできる。そして私は、部活動を行っていない生徒であるため、委員会に所属することは必須である。ちなみに、南花は茶華道部に所属しているので、委員会に所属する必要はない。そして、南花は絶対に所属しないだろう。
そんな委員会決めは、希望のところに自分で立候補して、定員内ならその委員会に就くことができる。それに対して、学級代表は推薦制度で、クラス全員が1人ずつ選出する。そして、1番推薦数の多い人が学級代表となる。まれに、面倒がって辞退する生徒もいるが、選ぶ側もその辺りは考えて選出するので基本的にはスムーズに決まる。
「まずはさくっと代表を決めるか。配った紙に学級代表に良いと思う奴の名前を書いて、教卓まで提出するように」
私たちのクラス担任である江蒲先生が、そう私たちに向けて言葉をかけた。江蒲と書いてつくもと読む、ちょっと変わった姓を持っている。江蒲先生は、私が1年生のときのクラス担任でもある。
「しつもーん。クラスの人なら誰でも良いんですか?」
「おー」
「じゃ、江蒲先生でもありですか?」
「阿呆。なしに決まってるだろ」
毎年恒例の、先生への阿呆質問。別に、この学校特有とかそんなものでは決してない。どちらかというと、この江蒲先生への恒例と言えよう。この江蒲先生こと江蒲公英という先生は、ちょっと変わっている。姓以外で何が変わっているのかというと、『性格』という一言に尽きるだろう。
まず、私たちが通うこの学校は一応、進学校である。なぜ、一応なのかというと、ここ最近では先生たちが望む大学への進学率が伸び悩んでいるからだ。私たちが入学する以前は、旧帝大や有名私立大学にわさわさ進学していたそうだ。けれども、最近では行って一般の国公立大学で、ほとんどの生徒は短大や地元の私立大学に進学している。
大学への進学率自体は高い。しかし、先生たちが望むのは旧帝大や有名私立大学への進学で、一般国立大学や短大や地元の私立大学は彼らのとってアウトオブ眼中。よって先生たちにとっては、一応、進学は果たしている学校という認識らしい。
まぁ、そんな学校なため、先生たちは生徒の学力アップを何に置いても重要視している。そのため、この学校の先生たちはとにかく、口を開けば『勉強』『学力向上』『有名大学合格』という言葉ばかりが出てくる。
そんな先生たちが溢れる中、この江蒲先生だけは勉強については、特にこれと言って何も言ってこない。生徒の自由にさせていると言えば聞こえは良いが、どちらかというと放任に近い。そのため、他の先生たちからはよく思われていない。しかし、生徒たちからは人気を博しているのだ。多分、この学校でなければ、江蒲先生がこれほどまで生徒に好かれるということはなかっただろう。
いや、厳格すぎるほどのこの学校で、自分を曲げずに過ごしているからこそ、好感が持てるのかもしれない。それは例えるならば、アスファルトの中でも綺麗な花を咲かすタンポポと言えるだろう。
「植水と白石。お前ら真面目に推薦しろ」
集まった紙を集計しながら、そう声を上げた江蒲先生。ちなみに植水とは私、植水咲のことである。
「せんせー。私は至って真面目に白石さんを推薦してます」
「先生。私も極真面目に植水さんを推薦しました」
私と南花は、この学級代表決めのときには必ずお互いを推薦し合っている。それは、小学校の高学年からの行為である。別に、お互い相手を本気で推薦しているわけではない。ある種、互いに対する嫌がらせだ。
私はともかく、南花を推薦する人は私以外にもいそうに思えるだろう。しかし、私以外にいない。それは南花が、学級代表に推薦されても面倒がって辞退する人物だからである。
ただし、面と向かって面倒がるのではない。私にそんな大役つとまらないわ不安で涙が、みたいな雰囲気を全面に出すのだ。その姿を見た『いしみな親衛隊』だったか『いしみなを守る会』だったか『ラブいしみなサークル』だったか、とにかく南花を想う人々により南花を代表に推薦することはご法度というお触れが出ていた。そのお触れは中学生のときに出たものであるのに、高校でもそのお触れは浸透してあるから不思議である。南花七不思議とでも言っておこう。
「ったく。まぁ、お前らは1票ずつだし落選だ」
そうして進む、学級代表決め。
最終的に我がクラスの代表は、1年生のときも学級代表を勤めた子が代表として選ばれた。
「よーし、次は委員会決めだ。あとは代表、任せる」
その江蒲先生の言葉に、軽いブーイングが飛ぶ。江蒲先生が真っ先に学級代表を決めたのは、後を任せるためだった。去年も江蒲先生のクラスだった私と南花は、その魂胆は分かっていたので何も言わない。ただ、お互いに顔を見合わせて肩をすくめた。
「では、怠惰な先生に代わりまして、我がクラスの学級代表に選ばれました不肖このわたくしが、司会進行を務めさせて頂きます」
「っよ、学級代表ー」
「いいぞー」
「やあやあ」
この学級代表、それはもう真面目な生徒ではあるが、決してノリは悪くない。現に、役者へ掛け声を飛ばすかのごとく声を上げる生徒に、軽く手を上げ返事をしている。そして、この学級代表が凄いところは、どれだけ話の流れが本題から逸れても、しっかり本筋に戻すことができるのだ。今も、すでに本題である委員会決めにしっかり話を戻している。
「では、委員会を黒板に書いたので、該当者は希望のところに自分の名前を書いて下さい」
黒板には、次の委員会名が記されている。
風紀委員会、図書委員会、保健委員会、美化委員会、福祉委員会、体育委員会、掲示委員会、そして園芸委員会。定員は、風紀委員会が2人で、他は1人ずつ。人員の配分から見ても、このクラスは部活動を行っている生徒が多いことが分かる。そして私が狙うは、園芸委員会。別に楽とかそういった理由からではなく、ただ単純に花が好きと言う理由からだ。そして、今年も無事に園芸委員になることができた。
「やっぱり、園芸委員なのね」
ほくほくと席に戻ろうとしていた私に、南花がそう声をかけてくる。南花の言葉に、私はもちろん大きく頷いて見せた。
「おうともよ。でも、またあのぶりっ子ちゃんがいたら嫌だなぁ」
私はそう言って、少し顔をしかめる。
昨年度、私と同じクラスで一緒に園芸委員になった子が、俗にいうぶりっ子であった。自分が可愛いことを十二分に理解した上で、男子生徒や気になる先輩に接するような子。それだけならば良いのだが、いかんせん自己中な子だったのだ。
委員会活動のときのことである。
1つ上の園芸委員の先輩に、それはもうとても格好良い人がいた。この先輩と同じ作業をしたいがため、その子は決められた日にちを守らずに活動を行ったのだ。その先輩が水やりをする日にしか水やりをせず、先輩が草取りをする日にしか草取りをしないといった具合である。基本的に、園芸委員会の活動は、1人ずつ週ごとにローテーションで行っていた。そのため、1週間水やりや草取りがされなかった花壇が出てしまい、花を枯らせたことがあった。しかも、それをその子は、私になすり付けようとした。幸いにも女子生徒が多い委員会だったので、女子たちはその子を好いておらず、むしろ私の味方になってくれたのでいらぬ責めを負うようなことはなかった。しかしそれでも、気分の良いことではない。
「あら、知らないの?」
そんな嫌な思い出を振り返っている私に、南花のその言葉がかけられる。私は首を傾げ、一体何がと問いかけると、南花は淡々と言葉を紡いだ。
「あのぶりっ子娘、付きまとってた先輩に手酷く振られたそうよ」
「え?てか、告白してたの?あの子」
「みたいね」
南花の話では、春休みに入る少し前にその子が先輩に告白したらしい。しかし、その告白を先輩は断った。それだけに留まらず、先輩はその子に非常に厳しい言葉を向けたという。どんなことを言ったかは定かではないが、自分に過大な自信を持っていたその子が、自信喪失してしまうほどの内容だったそうな。そんなゴシップ話は、瞬く間に春休みを開けた学校中の生徒に知れ渡った。在校生から新入生までの耳に、幅広く。
私は初耳であるが。
「自信喪失中で、もう別人みたいに静かになってるそうよ」
あのぶりっ子ちゃんを自信喪失にまで追い込むとは、恐ろしい。しかし、ちょっと威圧感があって近寄りがたいなとは思ったことがあるが、先輩を恐いとは感じたことはない。
「確かに、冷たそうな感じはあるだけど」
「冷たそうな感じって、去年1年間一緒だったんでしょ?」
「一緒と言っても、月1の打ち合わせでしか会わないし、そもそも1年生が何か意見を言うなんてことはなかったから」
指示する立場の3年生と、実質的に活動する2年生と1年生。そして、打ち合わせで意見を言い合うのは、3年生と2年生なのだ。ただ指示を受けるだけの1年生は、打ち合わせはぼーっと聞いていたとしても支障はないといっても過言ではない。そのため、私はあまり先輩と会話した記憶はない。強いて言うならば、先輩がシャワーヘッドの着いたホースで勢いよく水やりをしていたのを止めたことがあるくらいだ。そのときは思わず、「その水やりの仕方はお花にまずいっす!」みたいな発言をしてしまったが。しかし、別に生意気な態度だとか、言葉遣いがなってないとかいって怒られはしなかった。内心何を考えていたか分からないが、無関心そうに私の言葉を聞いていたように思う。それくらいの関わりしかない。
「咲が花いじりしか興味ないからよ」
「しかってなにさ。でもま、お家ではいじらせてもらえないからね」
我が家の母上様が虫嫌いなため、虫が沸くと言って花を育てさせてもらえないのだ。そんなわけで、土にも虫が沸くと言う理由で我が家には庭もない。庭の分のスペースは、全てコンクリートで埋められて駐車場となっている。お陰様で、我が家には同時に自動車3台を駐車することができる。ただし、所有する自動車の台数は1台である。無駄スペースと言うなかれ。
「植水。着席」
「あ、はーい」
ついつい南花と話し込んでしまっていた私に、短く江蒲先生から注意が飛ぶ。それに軽く返し、私は自分の席へ着席した。委員会も決定し、話は6月に毎年恒例で行われる球技大会の話になっていた。今年の種目をどうするかについての議題であり、去年と同じか変えるかで意見がほしいと伝える学級代表。クラスメイトから、ぱらぱらと出る意見を聞き流しながら、私はぼんやりと空を眺めていた。