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見知らぬ女

 白いワンピースから伸びる細い手足。透き通るような白い肌、長い黒髪。

 俺は何度か瞬きをして、それが嘘じゃないことを確かめた。

 ついでに辺りを見回してみたが、間違いなくここは自分の部屋だ。


 じゃあ、この女は誰だ?一体なぜこんなところに?


 ここは昨日のことを思い出してみるしかない。

 鈍い痛みの残る頭をどうにか回転させて、記憶をさかのぼる。

 酒を飲んでいたのは事実だ。といっても、別にコンパとかじゃない。

 仕事上の接待で食事の後、スナックまで行ったが、こんな若い女はいなかったはずだ。大体、こんな擦れてない清純そうな女はスナックで働いてない。

 確かに酒に強い方じゃないから、かなり酔っ払いはした。接待なんて気を使う席だと特にそうだ。客の前では正気を保っても、開放されるとどっと酔いが回る。

 だからって、路上で女を拾ってくるなんてことは……あるだろうか?


 お客さんが乗るタクシーを呼んで、頭を下げて見送ったのは辛うじて覚えている。だが、帰り道の記憶は曖昧だ。道中何もなかったとハッキリ言う自信がない。

 そりゃそうだ、まったく記憶がないのだから。

 重い腕を動かしてこめかみを押さえてみたものの、答えなんて出るわけがなかった。


 ……そうだ、そんなことより……


 重大なことに気づいて、俺は自分の衣服を確認してみる。

 スーツのままだ、脱いだ形跡はない。皺がひどいが、これはそのまま眠ったせいだろう。酔っ払って着替えも忘れてベッドに倒れこんだのだ。

 もう一度隣を見てみたが、女の衣服も特に脱がせた形跡はない。髪も乱れてないし、仰向けに行儀よく眠っている。

 ふうっと俺は安堵のため息をついた。別に手を出したわけじゃなさそうだ。

 しかし、棺桶に入ってるんじゃあるまいし、まっすぐ足を伸ばして手を組んでいるなんて行儀がよすぎる気もするが。ずっとこのままで寝ていたんだろうか。


 さて、しかしこれからどうするか。

 女が目覚めたら、一体何を言われるだろう? 突然犯罪者扱いされたりしたら、どうすればいいだろう?

 少し冷静に考える必要がありそうだ。

 俺は重い体をなんとか動かし、ベッドから降りた。

 痛む頭を抑えながらシンクへ向かうと、コップに注いだ水をぐっと飲み干す。

 シンクに体をもたれながら、ベッドに眠る女をまじまじと見つめる。

 真っ白で何の飾り気もないワンピース、素足でアクセサリーもなし。今時珍しい、絵に描いたようなシンプルな格好だ。こんな女が街を歩いていたら、かえって目立つんじゃないだろうか。

 全く染めた様子のない艶やかで真っ黒な髪。閉じた瞳から伸びる長い睫毛。それなりの可愛い子のように見える。

 顔の造詣よりもきっと、透き通るような白い肌がそう思わせるのだろう。夢ならこのまま霧の中に消えてしまいそうな白さだ。

 ふと目がかすんだ気がして、俺は軽く目をこすった。 

 白すぎて、彼女がベッドと同化して見えたのだろうか?


 ……なんて、どんだけ白いんだよ。


 俺は、自分で考えたことに心でツッコミを入れた。

 確かに女はそこに眠っているのに、一瞬、いないような気がしたのだ。まさかこれは夢の続きだろうか?

 なんて、俺も忙しすぎて頭がおかしくなったのかもしれない。


「んなわけあるかっての……」


 そんな風に小さく自嘲する声が、その耳に届いたのだろうか。

 女の目が、うっすらと開いた……

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