この、にぶちんが!
5、この、にぶちんが!
「え、関係ないでしょ?あたしとハニーと奥田でなに?」
「俺とお前だよ」
同期奥田よ、お前は一体何を言っておるのだ?
「は?」
思考も動きも停止したまま立ち尽くしていた。
「好きだと何度も言ったのに、全然本気にしない」
「またまたあ」
アハアハと笑ってみても、奥田の顔は笑わない。
「ほら、いつもそうやって笑って、話をそらそうとするだろ」
「はは…………」
「好きなタイプと、好きは同じ意味にとってもらえないのか?」
「あ、ああ、そう」
気まずくてうつむく私に奥田は言った。
「やっとか。通じた時にはもう遅いが」
「ゴメン」
「謝るなよ」
「うん」
もう昼休み終わる、と歩き出す奥田の後ろについて歩く。
「いい男だと思うよ」
「ん?」
「山田だよ。お前いい顔してた」
「そっか」
奥田よ、山田は女だ。生憎な……
事務所に戻ると、一目散に所長室へ逃げ込んだ。
ドアも、ブラインドも閉めると、黙って見ていた所長が一言。
「なに、やるの?」
「ひいっ」
貞操の危機を感じ、胸を抑えると、所長の白い目が突き刺さった。
「んなわけ……」
「ないですよねえ」
「アホ」
はははと、お茶を濁すとはッと思い出した。
「しょちょー、例の秘密は守られましたけど、奥田がっ……えと、奥田が、その」
しまった!奥田があたしの事、す、す、すきだったなんて、所長に言えない。
「なんだ、告白でもされたか?」
「ほ、ほほ、ほお〜」
笑えないっ。
「図星か」
「なぜに、そのようなご無体な事を……」
ソファに溶けるように座りこんだ。
「お前だけだったからな。気づいてなかったの」
脳内を言葉が駆け巡る。私だけ、きづいて、ない……
そうか、恋愛がしたい、彼が欲しい、願わくばやっちまいたいと思ってたけど、実現可能だった訳か。
いかんせん相手が同期奥田なだけであって。
「まさかの初告白が奥田とは……無念」
「奥田の健気なことったらなかったぞ。それをお前はことごとくぶった切って。この、にぶちんが!」
「どこの言葉ですかあ〜」
「あそこまで気づかないってことは、全く気がないってことなんだろ?」
「そうなんでしょう……か?」
所長は大きく息を吐くと、よく考えろと軽くゲンコツした。
追いやられるようにデスクに戻ると、私の机が書類で山積みに。気の毒そうに私を見る周りの目と、はす向かいのデスクで、鼻毛を抜く奥田を見て合点がいった。
奥田め、仕返しか。いくら私がにぶちんでも、ここまでされれば気づくのだ。




