表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
28/32

退院の日には

28、退院の日には


「太田さーん、検温でーす」

 夜勤明けの看護士さんは妙に元気だ。

 彼女はまだ寝ぼけた顔の私に手際良く体温計を渡す。

 自分で脇に挟めるようになってよかった。他人にやられるとくすぐったくて。

 脇に挟むと、すぐに測り終りの音がする。体温計を自分で取って、看護士さんに返す。


「36.4度、平熱ね」

 手慣れた様子で表に書き加え、血圧計をセットされた。

 体温計は、電子式なのに血圧計は水銀式なんだよね。こんど世間話のときに聞いてみようっと。

「85の58。相変わらずの低血圧ね」

「はは、寝起きなもんで」

「調子はどうですか?」

「もう、だいぶんいいです」

「そうだ、今日から、重湯が出てるから、がんばって食べてみてね。最初はあたしが付き添うから、朝食が来たら、ナースコールしてくれる?」

「はい」

 話をしながらも、いろいろメモを取り続ける看護士さんは、働く女!って感じでかっこいい。

 あたしも早く働けるようにならなくちゃ。


「おはよう」

 看護士さんと入れ替わりに入ってきたのはヒトちゃん。

「おはよ」

「これ、お見舞い」

 両手にもっているのは、あの日の夕焼けとおんなじ色をしたマンゴー。


「ありがとう、とってもおいしそう」

「さっき市場で買ってきた、ちょっと置かないと甘くないかも」

「じゃ、ちょうどいいや。あたし今日から重湯が出るんだって」

「重湯って何?」

「お粥のもっと薄いやつ。しばらく食べてないから内臓のリハビリなんだって」

「ふーん」

「はやく、クレープ食べたいな」

 ヒトちゃんは浮かない顔で丸いすに座った。


「花ちゃん、ムリしてない?」

「無理?してないよなんで?」

「いいんだ。おれ仕込みあるからいくね。がんばって重湯食べてね」

「ありがとう」


 黒づくめのお店の服を着て颯爽と出て行った。


 無理、か。ハナにあんなこと言った手前どうしたって無理しちゃうよね。

 これから、どうしたらいいのか。

 あたしの周りは一見、以前に戻ったようで決してそうではない。


 辞表は返って来たけど、もうあそこでは働けない。春日女史のもっているあの写真は、ヒトちゃんやハナには絶対に見られたくない。

 そしてハナに想いを告げた以上、もう友達には戻れない。ハナの優しさに付け入るようなことはしたくないんだ。

 毎日、お見舞いに来てくれるし、バカな話もするけどどうしたって前と同じではいられない。

 やっぱり、退院したらこの街とサヨナラしよう。



「太田さーん朝ご飯でーす」

「はーい」

 そうと決めたら早く元気にならなくちゃ!


 思いっきりナースコールのボタンを押した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ