君と既成事実を
13、君と既成事実を
フワフワと体が揺れる。塞がれた片耳に感じる温もりと、直接頭骸骨に響く低い声が気持ちいい。
「姉ちゃん、花香さんが落ちる」
「この子どこで寝ても寝相悪い」
「よいしょっと、もう大丈夫」
「ほらあ、しっかりしな男だろ」
「最近ではそう言うの性差別用語なんだぞ」
「男がそういう事言うな」
「だから……」
頭悪い会話だなあ……
「は、おしっこ……」
「あ、やっと起きた。花香さん大丈夫?」
ん、大丈夫って何が?
あら、ここはどこ?
見覚えのない部屋で寝ている。まだアルコールに浸っている脳でぼんやり考えると、おんぶしてもらったような。
「あ、ヒトちゃん……な、な、なにしてんの?」
ヒトちゃんの顔どアップ!
「寝てんの」
「どうして服来てないの?」
「既成事実」
「きせいじじつ?!」
「そ」
あっ、あたしも服来てない、
「ダメダメダメダメダメ……」
タオルケットを身体にぐるぐる巻きつける。
「あ、布団はがれたら、おれ」
「いや〜」
下も!目のやり場に困る!!
「うるさいなあ」
あ、ハナちゃん!
「なんで、どうして?」
「せっかく初体験のお膳立てしてあげたのに、全然色っぽくない」
「……は?」
「しかも第一声が、おしっこって」
ハナが苦笑いをしている。
「やっぱ突然はダメか」
「そりゃ当然だよ。姉ちゃん、強引だよ。ゴメンね花香さん。俺は冗談のつもりで」
「……冗談でこんな事しないで!」
涙が溢れ出した。嗚咽が喉を痛くする。視界ははっきりしてるのに、涙だけが蛇口をひねったように飛び出て来る。
あたしは、あたしは……
「トイレ」
タオルケットを両手でしっかり押さえ、全裸のヒトちゃんと、罰の悪そうな顔をするハナを睨んでからトイレに行った。
今日もたくさん呑んじゃったなあ。
そして、涙はすっかりひいて頬がかぴかぴに。
トイレの中で放心するあたし。どの位時間がたったのか、外で足音がした。
「花香さん、あの……ゴメンね。おれ、見てないから。風呂に入ってる間に姉ちゃんが、酔っていたずらしてて」
「……」
「今日はどうせ、春日さんみたいな人連れて来て、おれに、とか考えてるだろうなって、イラついてて。花香さん楽しそうなのに、こっちはつまんねえし。最後に楽しい感じになりたくて」
「……出られないよ、そこにいられたら」
タオルケットはトイレの外。
「あ、ゴメン」
足音が遠ざかる。そっとドアから顔をのぞかせると、誰もいなかった。
あたしが先にやっちまったんだ。悪い事しちゃったな。
タオルケットを巻きつけながら思う。
服はどこだ!




