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膝をがくりとついて落ち込んでいると、ハムが肩を叩いて声をかけてきた。
「でも、『魔法少女』は魔法職としては喉から手が出るほど欲しいセンスでつ。『魔法少女』は補正もクローズドβ時で2倍でつから、もしかしたら『無刀流』と同じで5倍になってるかもしれないでつ。だから、『格闘家』になりつつ魔法職の仕事をする、という事もできるはずでつ」
「ハム……」
「タタリ君、頑張るでつよ」
うう、涙が出てきそうだ。俺にもできることがある。ゲーム開始からまだ30分も経っていない俺は絶望を経験したが、なんとか立ち直れそうだ。
「盛り上がってるとこ悪いけど、『格闘家』になるなら『拳』センス買ってこようぜ。確か『拳』センスって100ゴールドだったよな」
「うん、他の武器センスの10分の1の値段ってことは覚えてるよ」
お得なのか、弱いから安いだけなのかよくわからないが、100ゴールドなら最初に持っている150ゴールドで買える値段だ。
「まあ、これも初心者支援だ。『拳』センスとついでに『軽装備』センス買ってくるわ。こん中じゃ、俺が一番AGI高そうだしな」
「ああ、そういえばシン君は『軽装備』でしたね。僕とアカリちゃんは『重装備』でつから……。ハイ、お金渡しときまつ」
「タタリさんー、シンさんにゴールド渡してー。シンさんにカーソル合わせてトレード画面開くっていうのを選べばいいから」
言われた通りにシンにカーソルを合わせてトレード画面を開き、ゴールドを渡す。
「『軽装備』がたしか500ゴールドだから……。うわ、ギリギリだな」
150×4で600か。『拳』が100ゴールドだからぴったり600ゴールドになる。本当にギリギリだ。
……なんだか凄く申し訳ない気持ちになってくる。
「じゃ、ちょっと行ってくるわ。アカリとハムはその間ゴブリン狩っといてくれ。タタリは……そうだな、魔法少女にでも変身して待っていてくれ」
魔法少女という言葉を聞いて近くでゴブリン狩りしていた集団がこっちを見る。おそらく彼らもcβ参加者なのだろう、彼らは手際良くゴブリンを殲滅してこっちに来た。その間にシンは町へ行ったのだろう、遠くにシンが見えた。
「今魔法少女と聞いたんだが、ひょっとして希少センスの『魔法少女』か?」
PTのリーダーだろうか、背中に鎚を背負った……ハゲか……いや、スキンヘッドか。上着を脱いでいるのか、半裸の大男が話しかけてきた。ちょっと待て、俺は人見知りなんだよ。そう言ってハムの方を振り返るが、ほほえましそうに見ているだけだった。裏切りか。……仕方ないので俺が応対する。
「……はい、そうです」
「おお、そうか。もしよければ見学していいか? 何分都市伝説のようなセンスでな、是非とも見てみたいんだ」
「……はい、いいですよ」
都市伝説のような希少センスか……。ハムも喉から云々言ってたし、希少センスの中でもかなり希少なんだろうな。
話しかけてきた男は[GIGANT]と言う名前で、その名の通り200cmはありそうな身長で俺達を見下ろしている。
ギガントの他には、俺と同じくらいの身長の男で、片手に剣を持った緑髪の男。160cmくらいの女で鎚を両手持ちしている赤髪の女の子、最後に170cmくらいの青髪の女性で、腰に短剣らしき鞘を2つつけている。
◆
GIGANT達とはお互いに自己紹介を済ませ、早速変身することになった。
「俺はギガント。大鎚使いの『ハンマーファイター』志望だ。で、こっちの緑髪の男はエレアだ」
「どーもー、ワイはエレアいいます。いやー、まさか魔法少女の変身シーンが見れるなんて感激ですわ。あ、ワイは片手剣使いの『マジックファイター』志望や」
「はいはーい!私はリンゴという名前です! 英語だとアップル! 大鎚使いの『クレリック』志望です!」
「ウィンディ。短剣使いの『ビーストテイマー』志望」
ウィンディ以外の面々はテンションが高い。ギガントは胸の前で腕を組み、今か今かと待ち望んでいる。エレアはワクワク、と言った感じだろうか。軽くニヤリと笑っている。
リンゴは両手を上げたり下げたりしていて忙しそうだ。ウィンディは……、表情が読めない。リンゴのそばで棒立ちしている。
「じゃあ、変身しますよー。『魔法少女変身』!」
俺はそう言い、『魔法少女』センスで覚えるスキル、『魔法少女変身』で変身を開始する。すると俺の体は青い光に包まれ、縮んでいく。
「(う、うお!? ま、まさか"魔法少女"になるのか!? ……まあ、男の姿のままで魔法少女コスチュームになるっていうのもアレだけど、これはこれで恥ずかしい!)」
アカリより少し小さい、130cmくらいだろうか、それぐらいまで目線が下がる。そして青い光はそのまま体の線に合わせるように形を変え、全裸の少女のシルエットが浮かび上がる。全身タイツみたいで凄く恥ずかしい。周りを見てみると、ギガントとエレアが食い入るように見つめている。これが目的か、変態どもめ。
しばらくすると、光がおさまり、光の中から青を基調とした白いフリルのついた服を着た少女が現れる。浅葱色でショートカットの髪、眼は濃い青、顔立ちは少年的な印象の少女だ。肌は白い。肌まで青かったら絶叫していた自信が俺にはある。
「ふむ。変身できたようでつね。……ステータスはどうでつか?」
言われてステータスを確認する。
「えっと、はい。……INT、MND、LUK、DEX、MPが5倍になってます。予想的中ですね」
「おお! 凄いでつね! それなら『無刀流』のデメリットなんて帳消しにできまつよ! いやー、それにしても、5倍とはすごいでつね。開発チームは一体何を考えているのか……、『マナ』や『精神保護』のセンスが霞んで見えまつ」
『精神保護』、というのはMNDが上昇するセンスだったと思う。確かに5倍と比べたら、2倍3倍は霞むだろうな……。
「おい、ハム、そんな事いいじゃねえか、それよりも見ただろう今の変身シーン! 完璧な魔法少女の変身シーンだ! いやあ、このゲームやっていてよかった! 最高だ!」
「そうやで、あの変身シーン、開発チームGJ!」
ギガントとエレアはこんな調子で盛り上がっている。アカリやリンゴは「かわいい」を連呼している。俺は男ですよ。今は魔法少女だけど。
ウィンディはさっきから俺の頭を無言で撫でている。表情に出ないだけど、どうやら本質はギガント達と同じな感じだ。




