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黒い玉はベノムスコーピオンの氷像に当たると、凄まじい音を出して爆発した。
とっておきとは、この爆弾の事だったのだろう。離れた距離にいなければ爆風で吹き飛ばされていたに違いない。それほどまでに強く、荒々しい。
爆発の後に残ったのは、崩れ落ちたベノムスコーピオン。ラックちゃんはそれに手をかざし、アイテムを回収している。
めいびいがたみきちに制止されていることから、アイテム回収はラックちゃんだけでやるのが望ましいようだ。
「ベノムダガー2つっ! 毒蠍の杖っ! ゲットだよっ!」
良いアイテムだったのだろう。笑みを浮かべ、飛び跳ねて喜んでいる。
手に持っているのは毒々しい色の鞘をした短剣と、同じく毒々しい色をした杖だ。
「ふむ……毒蠍の杖ですか。私は今の氷結の杖でもいいので、売り払ってしまいましょう。ベノムダガーは……イダテン、どうですか?」
マホージンはそう言ってラックちゃんから短剣と杖を受け取り、短剣をイダテンの方に差し出した。
氷結の杖、中々良い名前だ。杖の先のクリスタルも、氷を模していたのだろう。
「お、これ欲しかったんだお。2つも手に入るなんてさすがラックちゃんだお。毒状態の追加攻撃はこれからは重宝するだろうから、貰っておくお」
イダテンはそう言って短剣を受け取り、腰に差した短剣をたみきちに渡して、新しく毒々しい短剣を2つ、腰に差した。
◆
「ここで初めて戦ってみた感想はどうだ?」
突然、副団長から尋ねられる。
「いや、俺は回復しかしてないんだけど……」
「それを言えば、私も今回は回復しかしていない。マホージンは魔法しか使っていないし、イダテンやラックちゃんは爆弾を投げていただけに過ぎない。副団長は役割をきちんとできたか、ではなく、ここで戦った感想を求めているのだ」
「ああ、それなら、意外と暇……だったと思う」
後ろに下がってから、回復は自分とミスズへの2回しかしていない。
あとはヒラメと話したりしていたくらいだ。
「暇……か。そういえば今回、火力支援が無いように見えたが、何をしていた?」
「あ……」
「まあ、今回はいいとしよう。次からはちゃんと火力支援もしてくれ。そうすれば暇も無くなる」
注意されてしまう。確かにベノムスコーピオンを観察している間にも忘れていなければ攻撃できただろう。
忘れていたのは単純に俺のミスだ。
「ところで、マホージンのあの魔法って何なんだ? マジシャンって下級魔法しか使えなかったんじゃなかったっけ」
「ああ、あれはだな――」
「それについては、今度詳しく解説します。この場で簡潔に済ますのであれば、あれは杖に封じられた魔法です。私のアレは氷結の杖に封じられた魔法、『アイスブレス』です。一応言っておきますが、中級魔法ですよ」
杖に封じられた魔法、か。毒蠍の杖にも名前からして何らかの魔法が封じられていたんだろうか。
興味はあるが、残念ながら『無刀流』でこの手の知識はあまり活かせない。『無刀流』がある限り、俺は剣も杖も持てないのだ。
「付け加えるなら詠唱時間が短く、消費MPも通常より少ない。欠点は強力な魔法が封じられた杖は希少で、手に入りにくいくらいだ」
それほどの高性能なレアアイテムをどうやって手に入れたか。それはもう分かっている。
LUKが高ければレアアイテムを得やすくなるのだ。だからラックちゃんに止めがさせるよう場を整えたのだろう。
あの異常なまでのLUKがあればレアアイテムの一つや二つ、先ほどのようにぽんぽんと出てくるに違いない。
◆
「さて、奥を見てみろ、次はアレだぞ」
そう言って、副団長は砂漠の奥を指差す。陽炎で揺らめいていて見辛いが、なんとか目を凝らす。
副団長が指差した先では、黒い絨毯が動いていた。そんなはずはないだろうとよく見てみれば、それは体長数mはありそうな巨大な蟻の大群。
見てしまった事を後悔するくらいに気持ち悪い。
「言い忘れていたが、砂の大海原以降は大型モンスター、小型群生モンスターの割合が非常に多くなる。ソロで来るやつらは大抵ここでリタイアするんだ」
「それよりも私は、この見た目の気持ちの悪さでリタイアする人が多いと思いますがね。どうです? めいびい、委員長」
リタイアする人の大半は見た目の気持ち悪さだと思う。
「あ、ああ。僕は見た目でリタイアしたい気分だよ。特に前衛職でリタイアする人が多そうだね」
「俺も見た目だ。リザードマンの爬虫類染みた顔がまだマシに見えるよ。……本当にこいつらと戦うのか?」
そう聞くと、マホージンは苦虫を噛み潰したような顔をして頷いた。
「不本意ながら。これでも経験値が高いのですよ。素材も、軽くて丈夫で優秀です。……いくら優秀と言っても、私は装備したくはありませんが」
「違いない。俺も遠慮するよ」
ステータス画面を見れば、さきほどの戦いで早くもLv39になっていた。戦闘に参加しただけでこれだ。俺も攻撃すれば、さらに経験値が増えるだろう。
ただ、この見た目が続くのは勘弁してほしい。さっさと『砂の大海原』は卒業して、次に行きたい。