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ゲームが始まる。気付いたら俺はSense And Madness Onlineの大地に立っていた。
前もって聞かされはしていたものの、意外や意外。目の前には草の海と言ってもいいぐらいの草原、遠くの方には山が見える。近くに転がっていた石や、自分の体を見る。まるで現実のように見えるが、だがこれはあくまでもゲームだ。きっと最先端の技術で作られたのだろう、いつもやっているオフラインゲームとは違い、本当に現実のようで神秘的に見える光景に、身と心が震える。
「タタルさん」
眼前に広がる素晴らしい景色を堪能していると、後ろから声をかけられた。そちらを振り返れば、若干心太郎や茜やハム兄さんの面影を感じる3人組がいた。ただ、茜は髪の色が橙色になっていたが。
「おー、心太郎、茜、ハム兄さん、久しぶり!」
「久しぶりってさっき会話したばっかだろうが。というか本名出すなコラ」
「そーだよー。気を付けてねー、タタルさん」
「ああ、ごめん、アカリ、シン、ハム」
ちなみに[AKARI]が茜、[SIN]が心太郎、[HAMU]がハム兄さんだ。ゲーム内でスムーズに会えるように、名前を前もって聞かされた。
俺も名前は[TAKASHI]か[TAKASI]か[TATARU]にすると言っておいたが、どんな名前であれゲーム内で本名を出すのはあまりいい行為ではなく、渾名と同じく「タタル」と呼ばせる事になっていた。心太郎達の名前はcβの特典で、名前データだけはそのまま引き継ぎができたらしいからcβ時から変わってないらしい。
そしてこれからいざ出発といった所で――
「あ、副団長久しぶり!」
突然、後ろから金髪の女の人が話しかけてきた。副団長?誰だ?
◆
「おお、久しぶりだな。……ちょっと話してくるわ」
その声に反応にしたのはシンだった。俺達と少し離れて、その女の人と親しげに話し始める。知り合いだったんだろうか。続けて青髪の女の人がアカリに、黒髪の子供がハムに話しかけてきた。
「アカリちゃんちょりーっす。夏休み入ったかな?」
「ハムさん久しぶりです! 一緒にゴブリン狩りにいきませう!」
アカリが、ハムが「ちょっと行ってくる」と言って俺から離れる。その間俺はすることがなく、仕方なく周りの綺麗な景色を見る。上を見ると太陽がさんさんと輝いていた。……こんなことをするから視力も悪くなるんだろうか。しばらく景色を堪能してたら、シン達が声をかけてきた。
「遅くなったな。実はcβ時代のレギオンの仲間でな、再結成するらしいからメンバー確認だな」
「あ、私もレギオンの知り合いだよー。奇遇だねー。こっちもメンバー確認だよ」
「僕も方も似たような感じでつ。よくある事でつね」
"レギオン"というのはプレイヤーが複数人集まったら作る事のできるもので、結成するとレギオン専用のチャット、メール、掲示板といった各種コミュニティーツールが使えたり、メンバーの大まかな現在位置、ログイン情報がわかる等便利な特典が付く。ただし、その分、作るには莫大なゲーム内通貨が必要で、維持するのにも人数が必要らしい。それのメンバー確認のようだ。
ハムが何故か"す"を"つ"に変えて言っていたが、突っ込まないようにしよう。ハムなりのプレイ方法かもしれない。
◆
その後、俺はシン達に連れられ、初心者の平原というところに来た。見渡してみると色んな人がゴブリンらしき敵を殴っている。軽く血も出ている。恐らくはR15指定だ。
「さてさて、ここは初心者の平原。その名の通り、初心者向けの低レベルで高経験値のモンスターが出る。さて、俺たちもPT組んでゴブリン狩りだ!」
シンの言う通りに、シンの組んだPTに入る。
「あれ? タタ“リ”?」
ふいに、アカリが何か言った。たしか、俺の名前は[TATAR"U"]だ。間違いを指摘しようとしたが、俺もPT欄を見て気付く。そこには[TATAR"I"]と書かれていた。
「あ、打ち間違えた」
「バーカ!」
シンが馬鹿にしてきてムカついたので、シンを殴ろうとしたが、[PK禁止エリアです]というウィンドウが出て殴れなかった。PKというのはプレイヤーキルの略で、その名の通りPCを殺す事だ。
このゲームでは初心者PK防止として、特定のエリアと一定レベル未満のPKを禁止しているそうだ。初心者は俺なんだが、納得するしかないので拳をおさめた。
「まあそれはさておき、タタリ、何も持ってないようだけど、センスは何にしたんだ?」
「ああ、ランダム選択にしたよ。まだ見てないけど」
そう言うと、みんなハトが豆鉄砲を食らったかのような顔をする。
「はあ!? ランダム選択!? 地雷じゃねえか!」
「ランダム選択かー、良いの出るといいんだけどねー」
「まあ、ダメなセンスでも今ならまだ修正可能でつよ」
散々な言われようだ。ステ振りの事も言ったら全員に呆れられた。……仕方ないだろ、ろくに説明もされなかったんだから。
「ステータスは後でみっちり教えてやるから覚悟しとけよ……」
シンからの視線がこわい。視線をハムの方に向けると、今度はハムが口を開いた。
「……まあ、僕も教えなかった事でつ、それはまあいいでしょう。とりあえずセンスが何か言ってください。武器センスと防具センスを買うにしても、今あるセンスで代用できればそれでいいでつから」
とりあえず指示に従った方がいいだろう。俺はセンス画面を開き、5つのセンスを順に読み上げる。
「『無刀流』、『魔法少女』、『釣り』、『料理』、『投擲』、以上だ。『無刀流』と『魔法少女』には☆が付いてるな」
「希少センス2つでつか……。む、しかし『無刀流』でつか……」
「せっかく『魔法少女』があるのに『無刀流』かー」
「『無刀流』とか地雷乙」
どうやら『無刀流』というのは凄く良くないセンスらしい。しかし、☆がついているので一応希少なはずだ。希少の中でも弱いものなのだろうか。センス画面を見て確認すると、『無刀流』の横の5倍という数字が目に入る。多分だが、これは凄い数字なんじゃないか?cβでは弱かったが、oβで調整された、ってことだったかもしれない。
「無刀流ってそんなに悪いものなのか? なんかSTR、VIT、TGH、AGI、SP、SP回復能力が5倍って書かれてるんだけど……」
しかし、さっきのみんなの反応でなんだか不安になってくる。しかし上昇量は物凄いはずだ。ハム兄さんも「5倍」という言葉にちょっと驚いている。
「5倍でつか、cβの時は2倍だったから、凄まじい上方修正でつね。と言っても、個人的には修正される方向間違えてると思うんでつが。しかしその分、無刀流には凄まじいデメリットがあったはずでつ。武器が持てなくなるというのがあるんでつ。"武器が持てなくなる"とか書かれてませんか?」
そう言われてセンス画面を確認する。5倍の後に、ハムの言うとおり、言葉は違うものの"武器を持てない"と書かれている。
「書かれてるな」
「……そうなったら最後、いくら武器センスを磨こうが無駄になってしまうんでつ。転職試験で武器を扱う職業にもなることができません」
「まあ、一応拳センスっていうのが残ってるんだけどね……。職業も格闘家っていうのもあるし……」
「まあ、拳センスも格闘家もWikiに載ってるくらいの地雷なんだけどな」
そう言うみんなの顔は俺を哀れんでいるようだった。武器を持てなくなるのはかなり辛いらしい。アカリから「虫を素手で潰せる?鉄を殴れる?」と言われると妙に納得してさらに落ち込む。
俺はこのゲームでやっていけるのだろうか。それはまだ、わからない。




