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Sense And Madness Online  作者: 一二 三四五
◆第五章
49/50

 油断すれば死ぬ。しかし、油断しなくても死ぬかもしれない。

 そう思ったのは、初めてベノムスコーピオンを目にした時だ。

 全長5mはあるんじゃないかと思うほど巨大なサソリ。尾は太く、ハサミは鋭い。どちらもまともに受ければ死にそうだ。

 なにより見た目が毒々しく、紫色や黒色が交じり合って気持ちの悪い模様をしている。


「たみきちは委員長を下がらせろ! ヒラメは後方待機! マホージンは例のアレぶっ放せ! 非戦闘員は各自爆弾投げとけ! めいびいとミスズは押さえこんでおけ! 俺も前に出る!」


 副団長がそう言った直後、隣に並んでいたたみきちが俺を後方に投げ飛ばす。

 砂上を滑って速度を殺すが、殺し切った所でバランスが崩れて尻餅をついてしまう。

 目線を下げるとズタボロになった魔法少女服が目に入る。こんな事なら、外套を受け取ってくれば良かった。


「世話の焼ける。『ヒール』……それにしても、服が破れるだなんてまるで青年ゲームのようだな」


 そんな事を思っていたら、ヒラメが俺の首根っこを掴みあげ持ち上げ、ちゃんと立たせて『ヒール』をかけてくれた。

 それに合わせて、俺も『ヒール』を使う。


「『ヒール』……そうだな。ヒラメの口からその言葉が出るとは思わなかったが」

「何、私にもお嫁さんになりたいという夢くらいある。あれはその勉学の一種だと兄上に教えられた」


 ヒラメのお兄さんには一度、家に行ったときに会ったことがある。まあ、一言で言うなら破戒僧だ。

 その凡俗な知識は非常に幅広く、気付かぬうちに俺を含め男勢全員と意気投合していたほどだ。

 しかし、ヒラメが言うには行事の日には猫被って僧然とした態度でいるらしい。


「ところで、ヒラメは何で槍を持っているんだ?」

「薙刀に似て扱いやすい、ただそれだけだ」

「そっか」


 まあ、それだけと言うからには、それだけなんだろう。

 言うほどあって、ヒラメが持っているのは薙刀のような先に刃が付いた槍だ。



 突然、ベノムスコーピオンの方から人影が飛んでくる。話をしていた最中だというのにも関わらず、それをヒラメは片手で受け止め、衝撃を逃すように一回転して地面に落す。

 まるで舞を踊っているような動きだ。これも何かのセンスか、スキルだろうか。


「うえぇぇ……ヒラメ、もうちょっと優しく受け止めてよ。死んじゃうよ」

「なんだ、ミスズか。『ヒール』」


 飛んできたのはミスズだった。体のあちこちから血が流れていて、表情が苦痛に満ちている。改めて敵の強大さを思い知る。間違いなく、油断したら死ぬだろう。

 ヒラメはそんな様子のミスズをさほど気にしたようにもせず、『ヒール』をかける。そして俺の方を睨む。そこでようやく、俺は自分の第三の役割を思い出した。


「……こら、何をぼさっとしている。委員長も使え」

「あ……ごめん。『ヒール』」


 『ヒール』をかけられたミスズの表情が、徐々に和らいでいく。完全に治る頃には、寝たまま背伸びをするまでくつろいでいる。


「うーん、やっぱ回復魔法があるっていいねー。…………ありがと。じゃ!」


 ほんわかしていたミスズは俺の後ろを見ると突然起き上がり、簡素な礼を言ってからベノムスコーピオンの方に向かって走って行った。

 何事かと後ろを見れば、納得。マホージンが詠唱をしていた。今は目を閉じて集中しているようだが、おそらくは先ほど、ミスズに冷ややかな目を送ったのだろう。


 マホージンが詠唱をしている様は神秘的な光景だった。

 地面から淡い青色の光球が空に向かってふわふわと浮かび上がり、掲げている杖の先端に収束していっている。

 杖の先端に集った光球は密度を増すごとに色を深めていっている。今の状態はまさに青い月だ。

 このまま見ていたら俺もいつ気付いて睨まれるか分からないので、視線を前に戻し、前で戦っている皆を見る。


「やっぱり凄いよなー」

「ああ。委員長もよく見ておくといい。委員長も『格闘家』、前衛職なのだろう。いずれはあの場に立つことになるさ」


 ヒラメの発言に賛同して、そのまま見続ける。今の俺の役割で一番大きいのは後衛の護衛だ。魔法での援護も回復も他の二人の方が専門だ。そのためにも、いつでも流れ弾から庇えるようにベノムスコーピオンの動きも観察する。

 副団長は大斧で器用に高い位置にある尾を切っている。ハサミによる攻撃を受けてもその場で踏みとどまり、即座に反撃している。

 めいびいは大鎚でハサミを攻撃している。エレアのように魔法剣士みたいな感じなのだろう。

 たみきちは……俺の見間違いで無ければ、両手に大きな盾を持ち、ハサミをかいくぐって、時に盾で防ぎながら、盾で頭を叩いている。誰も止めない辺り、おそらく有効なのだろう。


 イダテン、オーレ、ラックちゃんはベノムスコーピオンの後ろから尾に爆弾を投げている。

 時折ベノムスコーピオンが振り向いて攻撃しようとする素振りを見せていたが、振り向こうとする隙を狙って副団長やめいびいがスキルを叩き込んで阻止している。

 被害も今の所少ないようだ。ミスズは戦線にたどり着くと、即座にベノムスコーピオンの足を攻撃し始めている。

 しかし、ここまでやってもまだ、ベノムスコーピオンはHPが3割か4割減ったくらいだ。まだ半分も残っている。


「委員長、こっちに来い!」


 突然ヒラメに腕を捕まれ、引っ張られる。


「『アイスブレス』!」


 直後、マホージンの叫びと共に、後ろの方から猛吹雪が吹雪いてくる。あれが副団長の言う、「例のアレ」だろう。

 その吹雪はベノムスコーピオンを襲うと、瞬く間に氷像へと変える。

 それ以上に目で分かったのが、HPを一気に最大HPの半分を奪っていく恐ろしい威力だ。

 ベノムスコーピオンのHPは残り1割と言った所だろう。


「攻撃を止めろ! 距離を取れ! ラックちゃん! とっておきをぶつけてやれ!」


 副団長がそう言うと皆は攻撃するのを止め、ベノムスコーピオンから距離を取った。


「え? 攻撃しないの?」


 めいびいは混乱しているが、副団長の命令を守って大鎚を下ろして攻撃せずに後ろの方で待機していた。

 たみきちはラックちゃんの傍に寄って、黒いボーリングの玉のような物を投げ渡す。アレがとっておきだろうか。

 そしてそのボーリング玉ほどの黒い玉を、ラックちゃんはベノムスコーピオンに力一杯投げつけた。

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