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マホージンによる、後衛の動きの解説が終わった後、このレギオンでの基本的な行動を教わる。
「弱点部位に対する攻撃はクリティカル率が2倍になります。という事で、モンスターは弱点部位を狙うのが基本です。弱点は主に頭や腹に集中しています。逆に手足には耐性がありますから、転倒させる時でなければ、狙うべきではありません。うちは人数も少ないですからね」
弱点を狙えばモンスターを倒す時間が早くなる。ということはこちらもダメージを受けなくて済むし、余計なSP、MPを消費しなくて済む。
今までの俺は頭の他にも腹や手足も攻撃していたから、消費しなくていい物を消費していたようだ。
「じゃあ、俺は頭を狙っていればいいんだな」
「はい。しかし、あくまでも、基本的にはです。中には手足に強力な爪などが付いている敵もいますので、戦いが長引きそうであればまずそれを壊します」
「マホージン、説明は終わらせてさっさと行くぞ。……委員長、後は実戦でコツを掴んでくれ。弱点はモンスター毎に教えるからよ」
副団長はマホージンの説明を途中で切らせて、砂漠の方を指差す。
「皆、よく聞け! 今日も奥地に行ってしばらく狩った後、奥に進んで『古の樹海』の雑魚を何匹か釣って狩るぞ! 『砂の大海原』には十分後に突入する! それまでに各自準備を整えろ!」
副団長のかけ声に、皆が「おー!」とかけ声をかえす。団長もそうかえしている。普通は立場逆なんじゃないだろうか。
『古の樹海』。おそらくは『魔獣の森』や『竜の洞窟』と同じ高レベルダンジョンだ。砂漠から樹海に入るとは、この世界はどうなっているんだろうか。
「って、今日も? 昨日も『古の樹海』行ったのか?」
「行ったぞ」
団長から短い返事が返ってくる。団長はDEX全振りの『鍛冶師』だ。とても戦闘できるようには見えない。
副団長の方も見るが、首を縦に振って肯定している。
「もしかして……死に戻りか?」
「いや、帰りは奥地を抜けるからそこは安心してくれ。ただし、油断したら死ぬから油断はしないようにな。単独で倒すのは俺でも困難だからな」
安心して……いいのだろうか。いいんだろうな。油断さえしなければ死なないかもしれないんだから。
しかし、いきなり死ぬかもしれない。先ほどの副団長の言葉がまだ頭に残っている。
副団長ほどの強さでも、単独撃破は困難だ。
◆
「ところで、イダテンとラックちゃんはSTRが1だろうけど、ダメージ通るのか?」
『砂の大海原』突入前、イダテンに何気なく聞く。STRが低ければ重い剣も持てないし、物理攻撃力はかなり低くなるはずだ。どうやって戦うのか気になる。
今日もまた行くのだから何らかの手段はあるのだろう。俺が使えるかもしれないそれは、知っておいて損をするものでは無いと思う。
「爆弾を投げればSTRとかINTが無くても高いダメージ与えられるから問題無いお。『投擲』も育ちに育ってレベル24だお」
口ぶりからすればある程度の堅さは無視して攻撃できるんだろう。
爆弾は火属性というイメージがあるから、魔法みたいに抵抗でダメージを減らされるだけ、とかだろうか。
「『投擲』って地雷センスじゃなかったか? それに、STR1で爆弾って持てるのか?」
「委員長も『投擲』持って……って、ランダム選択者だったかお。重さに関しては、3個くらいなら手持ちでも余裕だお」
イダテンは背中のリュックサックから小石ほどの大きさの黒い玉を二個取り出して、拙いジャグリングのように手と手を行き来させる。
どうやらこの黒い玉が爆弾らしい。
「残りは荷物持ちがいれば大丈夫なんだお。俺の荷物持ちはたみきちだお」
そう言ってイダテンはたみきちの方を向く。すると、たみきちは鞄から、イダテンに投げ渡す。それを器用に手に取り、3個とも自分の鞄に入れた。
「委員長のセンスが『料理』じゃなくて『調合』だったらもっとマシに戦えるようになったのにお、世の中うまく行かないものだお」
「えっと……それはどういう理由でだ?」
突然言われたことに、思わず聞き返す。『料理』だって美味いものを作ればステータスがアップするはずだ。
「『調合師』で『調合』持ちだったら質の良い爆弾作れるからだお。10個500ゴールドの粗悪品じゃあ、『砂の大海原』がギリギリ戦える限度だからだお。まあ、仕方ないお」
そういってイダテンはやれやれと言ったように、オアシスの奥へと歩いていく。
『調合』の値段は一億ゴールド。間違いなく買えないし、知り合いにも『調合師』らしい人はいない。仕方ないで済ませるほかないだろう。
◆
――『砂の大海原』 砂の浜辺
オアシスから出た途端、茹だるような熱気が体を襲う。まるで夏の都市部のように暑い。
周囲は一面砂、砂、砂。しかもオアシスとは違い、どこにも木々のようなものは見当たらない。背後のオアシスが恋しいほどに暑い。
こっそりと副団長の陰に隠れようとしたが、既に団長が陣取っていた。
「ここに登場するので注意すべきモンスターはベノムスコーピオンだ。こいつは尾に毒を貯め込んでいて、そこから毒を出したり、直接尾で刺して攻撃してくる。毒になったら治癒するまでHPが減るから、毒になったら早めにヒラメに治癒してもらえ」
毒状態。ゲームでよく聞くそれは、実際なってみたらどれほど痛いのか。この魔法少女服の不思議パワーでどうにか軽減してくれることを祈るのみだ。
「……へー、危険だね。持続ダメージというのも痛そうだ」
「ああ、実際痛いぞ。まるで熱湯に浸かり続けたようなもんだ」
茹だるような暑さの中、熱湯に浸かるなんてどこの罰ゲームだ。拷問だ。絶対に毒はくらいたくない。
「それで、そいつはどこが弱点なんだ?」
「ああ、ベノムスコーピオンも頭が弱点だな。だが、まずは尾を壊してくれ。尾さえ壊せば、後はハサミで挟んでくるだけの奴だ」
雑魚相手にそこまでする必要があるのだろうか。最初から頭を狙い続けていれば、早く倒せる分受けるダメージも減るのではないか。そう考える。
しかしわざわざ単独で倒すのが困難とまで言っていたのだ。ここから先は雑魚でも凄く強いのかもしれない。油断すれば死ぬ。そう自分に言い聞かせて、奥へと進んでいく。