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Sense And Madness Online  作者: 一二 三四五
◆第四章
46/50

10

 副団長は一歩下がり、団長の右後ろに回り込む。いつの間にか、左後ろにはマホージンが立っていた。

 右腕が副団長で、マホージンは左腕。そんな感じに見える。


「オーレは【ORERA】の団長、O・R・Eでオーレと読むんだぞ。オーレの現実での名前は猪川いがわ 桃子とうこ。よろしく、委員長、秋葉」


 団長が自身の自己紹介、及び俺とめいびいへの挨拶を済ませると、マホージンは右手をちょいちょいと動かして、左手で口を隠す。何か操作をしてるのだろうか。

 そして突然団長は「あっ」と声を出して先ほどの発言を訂正しだす。


「間違えた。タタリ、めいびい、よろしく」


 わざわざゲーム内の名前で言い直した。その程度の事、気付いても気付かなかったふりをするか、気付かないままだと思っていた。意外にも律儀なようだ。

 そして咳払いをして、今度は副団長が前に出て、改めて挨拶をする。


「そして俺が御剣みつるぎ たける。ゲーム内ネームは先ほど言った通りだ。……それとせっかく集まってるから皆に言っておくが、俺とタタリは名前が似てるため、今後俺の事は規則通り副団長と。タタリの事は……まあ、委員長と呼んでやってくれ。本人に了解は得ている」


 名前の事はもう何も言うまい。少なくとも、ガチムチ云々よりかははるかにマシだ。



「おいおい、副団長だからっていい気になってんじゃねーお!」


 自己紹介が終わって緊張も解けただろう、一瞬。その一瞬を突いたように、突然イダテンが叫びながら消えた。

 そして、金属同士がぶつかる音が副団長の方から聞こえ、即座に振り向くと、イダテンは副団長に短剣で斬りかかっていた。イダテンの動きなんてものは、まったく見えなかった。

 しかし副団長は背負った斧でそれを難なく防いでいて、弾き飛ばす。

 弾き飛ばされたイダテンは宙で一回転して着地する。一連の流れを見れば曲芸のように見えるが、ダメージは大きかったようで地面に膝を付いている。


「ぐっ……ヒラメ、回復を頼むお……」

「またか……お前は何がやりたいんだ」


 そう言ってヒラメは渋々と回復魔法をかけている。またと言うからには、普段からもしているか、以前にもした事があるということだろう。


「お前はまた突然何しやがんだ!」


 そして斧を構え直した副団長がイダテンに怒鳴る。斧持ってる分、先ほどとは迫力が段違いだ。


「いや、あれだお、委員長とめいびいに俺の凄さを教えてやろうと思って。俺って凄い速さだったお?」


 そう言ってイダテンは座ったまま胸を張る。

 確かに、イダテンが副団長に襲いかかった瞬間は見えなかった。

 俺もそれなりにAGIが高いが、それでも姿が見えなくなるほど高速だ。まるでテレポートのように動いていた。


「ああ、何だったんだい? 速さって言うんだから、とても信じられないけどテレポートなんかじゃなくて高いAGIのたまものかい?」


 めいびいの言うとおり、テレポートしたんじゃないかと思うくらいだ。


「ああ、俺のAGIは1613あるお。AGIに全振り、『軽装備』レベル30、『敏捷』レベル20、『狩人』レベル54の結果がこれだお」

「……おかしいな、千と聞こえたんだが……」


 千、と言えば四桁だ。ステータスの最大値と言えば、255か999ではないだろうか。四桁の数字が出るとは思わなかった。


「そう言ったお。もう一度言うと、1613だお。四桁なんてとっくに突破してるお」


 イダテンは回復を受けながら平然と言い切る。普段から風になるとか言ってるし、名前が名前だから、意外と言うほどでもないが、その数字は予想外だった。

 ステータスって999がカンストじゃないんだな。しかし、全振りって事は他のステータスは1なんじゃないだろうか。

 いや、だからこそダメージも大きく見えたのか。しかし、STR1じゃあ、所持重量の大半は武器と防具で埋まるだろう。それでどうやってそこまで高レベルになったか不思議でならない。


「そっしてー、ラックちゃんのLUKは1143ですっ。LUKに全振り! 『幸運』レベル20! 『盗賊』レベル53ですっ。運の良さならゲームでも負けませんよっ」


 イダテンの腕に抱きつきながらそう言うのはラックちゃんだ。はたから見れば、完全に弟にじゃれ付いている姉だろう。

 ラックちゃんが手にしているのは数枚の鱗。めいびいは隣で口を開けて驚いている。俺には分からないが、反応からしておそらく相当のレア素材なんだろう。

 そしてどうやら、二人とも好きな分野を極めているようだ。現実でも似たようなものなので、ゲームでもそうだと、それでこそだと感心してしまう。

 しかし、同時にそれでいいのかと不安がよぎる。特化するにしても、極めるにしても、やり過ぎではないか、と。



「さて……『ファイアブレット』」


 一声置いた後、マホージンはおもむろにマホージンはてのひらに『ファイアブレット』による火球を作り出した。

 見た目はただの火球だ。しかし、エレアの一緒に戦っていた時に見た物とは威圧感が格段に違う。何と言うか、ただの火球の中に莫大な破壊力があるような感じだ。


「実は私もINTは1000を超えています。装備品で幾らかブーストして2000はあります」


 2000と言えば、それはもう次元が違う。200の十倍だ。

 そのやり過ぎの域に至ったINTによるものだろう、下級魔法もまた既に下級の域を超え、中級、ひょっとすれば上級にまで届くような威圧感を出している。

 やり過ぎも攻撃面にして見れば、末恐ろしいものだ。


「私もイダテンとラックちゃんと同じく、INTに全振りで『知恵』がレベル20、『マジシャン』としてはレベル58です」


 そしてマホージンは掌を上に向けながらこっちを睨む。


「ひぅ!?」


 驚いて変な声が出てしまった。「ひぅ」ってなんだ、と自分でも思う。せっかくなら「何だ!?」とか、「くっ」とか言いたかったが、後の祭りだ。

 何か気に障る事を言っただろうか、それとも態度の問題だろうか。

 しかしその恐ろしい威圧感を放っていた火球は、マホージンの吐いた小さいため息の後、誰に向けられるでもなく空に向かって飛んでいく。

 そして空で轟音を鳴らして火球が弾け飛ぶ。あれはもう『ファイアブレット』ではない、別の何かだったんじゃないか。そう思えるほどだ。

 さっきから驚きの連続だ。


「……はあ、せっかく皆がお膳立てしてくれてるようだし、今言っておこう」


 そう言って、副団長が前から近づいてくる。

 その姿は斧を構えていないというのに、威圧感があった。



 副団長は俺とめいびいの間のすこし前で立ちどまり、俺とめいびいの肩に手を置く。


「お前らがレアセンスを持ってるのは既に知っている。二人とも、それを鼻にかけてることも聞いた」


 そう言われると、事実だけに言い返せない。横目で隣のめいびいを見るも、似たような感じのようだ。

 めいびいの方はよく知らないが、俺は武器を持てないという制約があるが、全ステータスが5倍になっていたから、多少無茶した事もある。そしてそれを見せびらかしてやりたい気持ちもある。

 思い返してみれば、センスの希少さを教えられてから、色々調子に乗っていた。迷惑もかけただろう。そして、ここで言い訳をしてもギガントやシン達に擦り付けることを言ってしまうだろう。

 副団長の話は続く。


「だがな、この先効率良くレベルを上げるならレアセンスだけじゃ生き残れない。お互いを補い合い、高め合う連携も必要になってくる……その事を肝に銘じて、動いてくれよ」


 その後副団長から、俺とめいびいの役割を言い渡された。俺は後衛の護衛役。それとできたら魔法で火力支援、兼、いざとなった時の回復担当。

 めいびいは前衛担当だった。その次に、連携についてや、センススキルの使い方を教わる事になり、めいびいはたみきちに前衛の動きを、俺はマホージンに魔法の使い方を教わる事になった。



 そういえば、団長は何をしてるんだろうと思い、マホージンの話に耳を傾けながら、団長の方を見る。なにやら副団長の斧に手を触れて呟いていた。何をしているのだろうかと、思わず耳までもが団長の方に傾いてしまう。

 そして斧が光り輝くと、直後に俺の目線に気付いたマホージンに杖で頭を叩かれた。


「委員長、集中して話を聞いてください」


 非力な魔法使いの攻撃だったため、痛みはそれほどでもないが、次によそ見をしたらあの恐ろしい魔法が飛んでくるかもしれない。そうならないためにも今は話に集中しよう。

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