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「いやー、まさか委員長がSaMoやってるとはな。そんな印象無かったから驚いたぞ」
「俺も、御剣と秋葉がやってるとは思わなかったがな」
「ははは、それはお互い様だよ。僕も御剣と委員長がやってるとは思わなかったんだし」
本当に、まさかクラスメイトが同じゲームをやっているとは思わなかった。長い人生で上り坂も下り坂もあるだろうが、その中で一番多い坂は、きっとまさかだな。短い坂もまた、まさかだろうけど。
「そういえばセンスって買えるし、転職もいつでもできたはずだよね? なんでしないの?」
そういえばそうだな。なんで転職しないんだろうか。ちなみに俺が未だに『格闘家』でいるのは、レベル100で職業ボーナスを固定化するまではこのままで行こう、という考えからだ。
職業ボーナスというのは、例えば『戦士』ならレベルアップでSTRに+1入る。固定化というのはその職業をレベル100にすることで、他の職業に転職しても引き継がれるようにする、というものだ。俺みたいにステータスを振り間違えても、時間さえかければ振り間違えてない人よりも強くなる。時間さえかければ。
転職しても元の職業のレベルはそのままだし、せいぜい必要経験値が若干高くなるくらいだから、無理して『鍛冶屋』を続けなくても『料理人』とか『調合師』に転職すればいいのに。
「それはだな、『調合』のセンスが無いと『調合師』になっても、作れるものが増えるだけで成功率は上がらないんだ。『料理人』にしても、『料理』が無いなら作れるものが増えるだけだ。知識はあるが経験も才能も無いって事だな。料理や調合に成功しないと経験値も少ししか入らないから効率が悪いんだ」
「それなら、センスを買えばいいんじゃないの?」
確かに。それなら『調合』や『料理』を買えばいい話だ。
メイビイがそう言うと、タタルはため息をついて続きを話す。
「そこが問題なんだ。『料理』や『調合』のセンスは高くてな。その値段、なんと一億だ」
「い、一億!?」
あまりの高値に思わず声を出して驚いてしまった。一億と言えば100mか。……到底払えるような金額じゃないな。それこそ、簡単に買えるものじゃ断じて無い。転職できないのにも納得できる。
俺が『料理』を引いたのって結構良かったんだな。今の所『料理人』に転職する気はないが。
「『鍛冶』等の生産系センス、『筋力』や『火の知識』等の特殊センスは値段が非常に高く設定されてるんだ。cβ時代は今よりも楽に金をためられたが、oβからはモンスターからの取得金額が大幅に減ってな。価格はそのままに、収入を減らされた感じだ。……恐らく、課金アイテムで取得金額増加や、ゲーム内通貨を課金通貨で買えるようにするんだろうな」
「まあそこは、慈善事業じゃないからね……。ログアウトできるようになったら訴えられて潰れそうだけど」
メイビイは苦笑して答える。
まあ、ログアウトできないような事態が発生すれば、当然そのまま経営続行なんてできるはずないだろうしな。幸いにもデスゲームじゃないが、まずこのゲームはログアウトできるようになる=(イコール)訴えられてゲーム終了だと思う。
「ちなみに俺は『スタミナ』、『筋力』、『器用』だ。総額三億だぜ。……『斧』や『重装備』なんかは後で買ったんだ。大変だったぜ、素手でゴブリン狩るのはよ」
「それは凄いね」
「ゴブリンって素手で狩れるようなものじゃなかった気がするんだけどな」
俺は素手じゃ無理だと分かって魔法で倒したし。そして総額三億は凄い。まず序盤や中盤じゃ手に入らない金額のはずだ。一体どこまでやり込んだらそんな金額手に入れれるのやら。
「そういえば、委員長は『料理』、秋葉は『地の知識』と『水の知識』があるんだったな。ランダム選択でそれを引き当てる方が凄いと思うぞ」
「僕はステータスが戦士寄りだから大して使えないんだけどね」
そう言って秋葉は乾いた笑いをもらす。その発言から察すると、『地の知識』や『水の知識』は魔法系のセンスだろう。それだと、戦士で引き当ててしまったら猫に小判だな。
「委員長は生産センスがあっていいよね。……その姿にも似合ってるし」
「俺も好きでこの恰好してるわけじゃないんだがな」
「それは僕も似たようなものだよ。『人狼』だなんて言っても、ただの狼みたいな耳と尻尾がついただけなんだから」
そしてお互い笑いあう。……どっちも自分の境遇に対して笑ってるという事はきっと、それを見て笑顔を浮かべている御剣には分かっていないんだろうな。
そういえば気になったんだが、さっきから二人とも委員長とばかり呼んでいるな。遠慮しているのか?
「ところで二人共、俺の事はタタリでいいぞ」
「タタリだとタタルと被ってややこしいからね。だからこれからは御剣は副団長、委員長は委員長と呼ばせてもらうよ」
「俺も委員長のことは委員長と呼ばせてもらうから、気にしないでくれ。それと俺の事も副団長と呼んでくれれば助かる」
「……ああ、そうさせてもらうよ」
ひょっとしたら名前を憶えてもらえてないのだろうか。いや、さっき名前を言ったし、現実でも自己紹介は滞りなくできたはずだ。それにまあ、タタりんとかよりはマシだろう。
しかし他のメンバーにも眼鏡や委員長で通じるかもしれないと思うと、今後のレギオン生活が不安になってくるな。
「あと、二人共金の件は気にしなくていい。今のレベルのままだから維持費も少ないし、俺が何とかしとくからよ」
「レベルで維持費が関係あるのか?」
それだとLv38の俺は一体どうなるんだろうか。1日3800ゴールドとか?3日で金が尽きるな。
◆
「ああ。言っとくがお前らのレベルじゃないぞ。レギオンとしてのレベルだ。まずレベル上げには拡張費として金が必要だ。1から2にするだけでも100万。2から3には倍の200万。3から4には更に倍の400万。どんどん倍になっていく。そして最大人数はレギオンレベル×10人だ。あと5の倍数ごとにレギオン専用の施設、ようは農場だとか鉱山が解禁される。とにかく拡張には金がかかるってのは覚えとけ」
「あ、ああ」
金かかりすぎだろ。……そういえばレギオンって作成費用とかもあるんだよな。金かかりすぎだろ。
「それと次に維持費だが、これは毎日0時にレギオンレベル、まあ【ORERA】だと2だな。それに人数をかけて、さらに1000ゴールドをかける。それと、不具合で抜けた奴の分までカウントされてるようでな、実は人数の割に結構苦しかったりする。が、まあお前ら二人分くらいなら俺が何とかしてみるよ」
「ところで、今ってどれくらい人数いるの?」
「お前ら含めて10人。抜けた奴も含めると18人だ。……じゃあさっさと他のメンバーの紹介と、お前らの紹介済ませて狩りに行くぞ。一人で払えるほど安くないからその分早く長く稼がないといけないんでな」
そういってタタル――副団長は集まっている方へ歩き出し、俺もその後を追う。
18人ってことは維持費は36000ゴールドか。人数で割って一人分の負担は3600ゴールド。副団長には俺達二人分の維持費払ってもらってるから10800ゴールド……自分の分は自分で払うって言うべきか。