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Sense And Madness Online  作者: 一二 三四五
◆第四章
39/50

「えと、その……」


 間違えたのは仕方がないとしよう。ファンタジーだからひょっとしたら許容されるかもしれない。吸血鬼とかがいるんだ、朝は省エネの少女の姿、夜に本来の大男に戻る種族がいてもおかしくない、と思う。

 そして今、俺の間違った叫びを聞いた少女は腰に手を当て、うたがわしそうに半分開けた目で俺をつま先から頭までじっくり見て、おもむろに口を開いた。


「……で、自称高身長のあんた、名前は何て言うの?」


 ああ、冷静になって考えてみれば、俺みたいな少女がいきなり「実は2mもあるんです!」とか言っても誰も信じないな。

 結局、俺の間違った叫びによる主張は自称とまで付いて納得されてしまった。この誤解も解いておきたいが、『魔法少女』の事を言えば最悪女装趣味の変態男と思われてしまうだろう。


「俺の名前はタタリ。で、俺も名前を教えてもらいたいんだけど、いいかな?」


 とにかく、今は自己紹介をして仲良くなりつつ、仲良くなったらカミングアウトが良いだろう。少なくとも、会ったばかりの女装趣味の変態男よりかは扱いはマシになると思う。

 ……友人が女装趣味の変態男だったというのも衝撃的だが、きっとまだ弁解の余地はあるはずだ。


「俺はジョナサン・マーガレット。マーガレット道具屋の店主だ」

「あたしはメイニー・マーガレット。この店の看板娘だよ」


 そう言ってジョナサンは腕を組み、メイニーは腰に手を当てて胸を張る。

 その後ジョナサンは兄妹で道具屋をやってる事や、オススメの道具を主観でも良いなら、と前置きして説明してくれた。



「借金が無いなんて、もっと早く言いなさいよ」

「言う間が無かったんだよ」

「メイニーの誤解は凄まじいからな。昨日なんか、獣人の少年に『変態に命令されて耳や尻尾を付けられたの!?』とか言ってたんだぜ」

「は、ははは……」


 借金なんて無い事を説明できたのは自己紹介がある程度進んで、ジョナサンの主観による釣具の良し悪しの説明が終わり、購入を持ちかけられた時だった。

 獣人がいることにも驚いたが、そういう発想をするメイニーにも若干驚いた。カミングアウトは更に誤解を生み出そうだからやめておこう。


「まあ、とにかくタタリは良い買い物したぜ。俺が保証してやるよ」


 そんなジョナサンの勧めで買ったのは鉄製の釣竿と魚用の釣り餌。砂漠では大物を釣りやすく、木製では早く壊れてしまうため、耐久力の高い鉄製がオススメらしい。……動物の森やトカゲ湿地帯では木製でも十分らしいが。

 魚用の釣り餌だが、釣り餌は無くても運が良ければ釣れるらしい。文字通り、運が良ければの話らしいから、餌があれば餌を使った方がいいとの事で購入を決めた。


「……しかし、まさかタタリが16とはな。メイニーより5つくらい下だと思ったんだが」

「いやいや、お兄ちゃんそれはさすがに……言い過ぎでもないとは思うけど、失礼なんじゃないかな」


 自己紹介だから当然年齢も言っておいた。しかし、話を聞くと二人共年上だったのには正直びっくりした。

 ジョナサンが21歳、メイニーが17歳で、俺が16歳だ。二人はNPCだから来年になれば、メイニーと同い年ってことになるんだろうか。……オフラインゲームと同じように、NPCが年を取らなければの話だが。


「いや、俺もジョナサンが21だとは思わなかったよ」

「なんだ? もっと上かと思ったか?」

「いや、2つ上かと思ってた」

「そうかい。ところで、防具屋のおっちゃんはどう見えた?」


 防具屋のおっちゃんと言えば、あのスキンヘッドの人だろうか。……いくらなんでもあれを若く見るのは無茶だろう。パッと見40、若く見てもせいぜい30後半だろう。しかしいまいち自信が無い。わざわざ聞くのだからもっと若いのかもしれない。逆に100歳超えかもしれないが。


「……30くらいか」

「近いな。実はあれでも26なんだぜ」

「それは……まあ、凄いな」

「タタリ、それ、本人の目の前ではいわないようにね」

「ああ、俺も街中で死にたくはない」


 いくらなんでも老けて見えすぎだろ、と思う。

 ……話していると、ジョナサンとメイニーは本当にNPCなのか、分からなくなってくる。ゲームだから、ファンタジーだから、そんな言葉でこの二人をプログラム扱いしてしまったら、俺は人を人と思わないような鬼畜外道の類になってしまうんじゃないか。



「あ、もうそろそろ行かないと間に合わないかも」


 時計を確認する。時刻は8時の少し前。随分話し込んでしまったようだ。


「ん。そうか。ところで、この店は素材の買い取りなんかもやってるんだが、素材で道具袋がかなり重くなってるんじゃないか? よかったら買い取るぜ。身軽な方が目的地には早く着けるだろ?」


 そう言われて俺の重量制限を確認する。最大重量は106.0kg。現在重量は……128.0kg。重量オーバーだ。

 多分鉄製の釣竿を買ったからだろう。いや、買う前も重量はオーバーしていたかもしれない。


「じゃあお言葉に甘えて……」


 道具袋からリザードマンの皮や目、熊の毛皮を次々と取り出して行く。それをジョナサンは重量計にのせていき、道具袋から素材を出しきる頃には、重量計は80kgという数字をたたき出していた。……道具袋にこんなに入ってたのにも驚くが、俺もよくこんな重さの物を腰に下げてたな。


「……おい、STRストレングス幾つだ」

「…………480」

「まあ、これくらいなら1日で価値計算して買い取ってやるよ。また明日、道具屋に来い」

「……すまん」


 本当に申し訳ない。


「これが仕事だから、気にするな。あと100は超えてくれるなよ? 0.1kgでも超えやがったら2日かけるからな。あと、入手した素材は20kgまでならいいが、それ以上になるなら、また明日持って来い」

「ああ」

「じゃあ気を付けて行って来い」

「……行ってきます」


 そう言い交わして道具屋を出る。現在時刻は8時。『砂の大海原』までは走ればなんとか間に合うだろう。5分前、いや、10分前には着いておきたい。俺は勢い良く走り出した。


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