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後ろには死屍累々。地面に頭を減り込ましたトカゲが数十体。半数ぐらいはリザードメイジだ。
レベルの方はと言えば、順調に上がって現在『格闘家』レベル38、『拳』レベル17、『軽装備』レベル14だ。他は使ってないから変わりがない。センスのレベルを確認していると、一つ疑問が浮かんできた。
「『軽装備』はあまり食らってないからわかるんだけど、なんだか『拳』のセンスレベルが『格闘家』と比べてあまり上がってないんだけど、これって『強打』ばっかり使ってるからかな?」
「いや、普通のセンスと職業のセンスやと経験値が違うだけやで。例えば下級職――『格闘家』やったら、経験値は今のレベルになるのに稼いだ経験値の約1.1倍やけど、普通のセンスやったらそれが1.5倍くらいになるからな」
「……それだとレベル50になる頃には、経験値が億とか必要になるんじゃないか?」
「SoMoはやりこみゲーやで。cβからレギオンとかあったくらいやしな。『拳』がレベル50になる頃には上級職なってると思うで。それに、敵の経験値も増えてくから大して気にならへんよ」
エレアは俺の背中をバンバン叩いて俺の背中を押す。話を聞けば、cβの頃からやりこみ要素が凄まじかったらしい。他のゲームだと何年か経って実装する転生システムを転職という形で組み込んだり、転職すればするほどレベルが上がり辛くなったり、レギオン同士が戦うようなイベントもあったらしい。話をしていたらもう『トカゲ湿地帯』の出口まであと少しという所だ。マップ名はそのまんま、竜の洞窟へ至る道。
◆
――『トカゲ湿地帯』 竜の洞窟へ至る道
ここから先は『魔獣の森』と同じ超高レベルダンジョンになっている。日もまだ真上を少し過ぎた辺りだ。予定していた通り、突入する前に昼食兼突入するかどうかの話し合いをすることになった。
まず、リーダーという事でギガントが意見を言う。
「俺は戻るべきだと思う。理由としては、痛みが予想外に強かった事だ。オーバーキルなんかされて精神が持つかどうかもわからん」
「ワイもギガントに賛成やな。まだ日も高いし十分戻れると思うで」
「私も賛成! 奥地だけでお腹いっぱいな痛さだったよ!泥まみれだからお風呂にも入りたいしね!」
「私は軽装備だから痛みも半端では無かったと思うぞ。道中派手に動きすぎたしな。SPももう無いし、あったとしても帰るぞ」
「そうか。――で、タタリ、お前は?」
ギガントが痛みに顔をしかめている所は戦闘中に幾度となく見た。俺はそうでもなかったが、他のみんなは同じ意見だったようで、エレアは腕を組んで大仰に頷き、リンゴは頭の後ろで腕を組み不満を漏らし、ウィンディはやれやれといったように手を振って疲れを表している。そしてギガントは残る俺に意見を聞く。
さて、どうしたものか。ギガント達は帰ると言っているが、俺はまだSPもMPもあるし疲れてないし、リザードソルジャーやリザードメイジを数十体倒して自信もついた。このまま帰りたくはない。それならばと、俺は思ったことを口にする。
◆
「俺一人で行くってのは、ダメか?」
そう、一人で行けばいい。ギガント達がいないのは不安だが、俺一人でギガント達四人で相手するような奥地のリザードを何十体も倒せたんだ。きっといけるはず。
「いいぞ。じゃあ俺達は来た道を戻る、タタリはこのまま進んでくれ」
「えー!? 死んじゃうよー!」
「腕試しは勝手にやらせてやれ。それにタタリの防具の特殊効果的に考えても、俺達がいたら逆に足手まといになる」
内心、意見が通るか不安だったが、あっさりと通った。……リンゴには反対されたが、それでも行ってみたい。それにしても足手まといだなんて、一体何をしてそう言ってるんだろう。cβからいたと言うギガント達が一緒に来てくれるなら心強い。みんなでかかればひょっとしたら"狩れる"かもしれない。
「いや、足手まといだなんて、そんな事――」
「じゃあ聞くがタタリ。……全裸になって俺達に見られたまま戦えるか?」
「無理です」
ああ、オーバーキルじゃなかったら全裸で戦闘続行することになるのか。外套で隠すにも限度があるし、それは無理だ。既にリンゴとウィンディと……エレアには見られているが、そう何度も見せたいものでも無いし、最後の砦には見られたくない。そう言うとギガントは立ち上がり、ハンマーを肩に担いで来た道に歩いていく。エレア、リンゴ、ウィンディもそれに続いていく。
「そういうことだ、俺達は戻る」
「良い土産話を期待しとくわ」
「気を付けてねー!」
「無事だったらまた一緒に狩りに行こう」
四人の後姿を見送ると、途端に寂しくなる。やはり俺も一緒に帰った方が良かったんだろうか。いや、後悔先に立たずだな。洞窟に入ろう。そして倒せたら倒す。倒せなくてもセンスレベルを上げるチャンスだ。大いに利用してやろう。そう意気込んで洞窟に足を踏み入れた。