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――『トカゲ湿地帯』 西の沼
『トカゲ湿地帯』はアガレスから東へ歩きで1時間――馬車だと30分ほどで着く所にあるダンジョンだ。トカゲ湿地帯では動物の森とは違い、入口付近から既に動物の森の奥地に出るような強さのモンスターがうろついている。その最たるものがリザードマン。トカゲ人間だ。そして先ほど、いきなり3体のリザードマンに襲われた。すぐにギガントが指示を出し、ギガントが1体、リンゴとウィンディで1体、俺とエレアで1体を倒すという手筈だ。
「せいっ!」
リザードマンに料理でできた失敗作を投げつける。ベチャッと音が鳴るが、たいしてダメージが入った様子もなく、リザードマンはこちらに振り返る。
「ほいっと」
その後ろからエレアが左手で握った剣で斬りかかり、振り返ったリザードマンをさらに俺が後ろから殴って倒す。エレアは『マジシャン』だがSTRにも振ってるようで、剣も魔法もある程度扱えるらしい。……反面、どちらも威力は低いらしいが。
そういえばトカゲは尻尾を切っても再生すると言うが、リザードマンも尻尾を切ったらまた生えてくるのだろうか。
「向こうも倒し終わったやろし、さっさと素材剥ぎ取ろか」
見ればギガントもリンゴとウィンディも倒れているリザードマンに手をかざしている。倒れたモンスターに手をかざすことで素材が自動的に袋に入るのだ。もしこれが無く、自らの手で目玉を取ったり皮を剥いでたとしたら、もう俺はモンスターを狩っても素材は剥ぎ取らなかったと思う。ちなみに複数人でかざせば、手に入る素材はレア度が均一になるように分配される。
「うえっ……」
袋を見ると、新鮮なリザードマンの目玉が見える。リザードマンには皮、尻尾、目玉といった順にレア度が違い。俺は運がいいのか悪いのか、目玉を引き当ててしまったようだ。皮や尻尾ほど臭いはきつくないが、見た目がグロテスクであまり欲しいものではない。
「ガンガン行くぞ」
そう言ってギガントはどんどん沼の奥へ進んでいく。それに俺も続く。
◆
ガンガン進んでいくと、次々にリザードマンに見つかり、前から3体、後ろから6体、左から3体というように集まり、計12体に囲まれる。
「俺が前、タタリとエレアとウィンディが後ろ、リンゴは左だ! 各々終わったら状況確認!」
後ろから来るリザードマンに向かってウィンディが『疾風弾』を撃ち、すぐさま短剣に切り替えて突撃する。
「オラァ!」
「『ファイアブレット』!」
俺もそれに続いてリザードマンに近づき、頭に『強打』で1回、通常攻撃で1回の計2回殴りつける。これは俺の異常なまでに高いAGIがあって初めてできる芸当だ。名付けて弐連拳!――と言っても、VITが足りないために弾かれる。しかし1/10とはいえダメージは通っているようで、リザードマンのHPは残り7/8くらいだ。……VITが足りていれば『強打』一撃で倒せたってことかな。通常攻撃が空ぶるのは恥ずかしいし、『強打』を耐えきれる敵じゃないと弐連拳は使えない。良い名前だと思っただけに残念だ。
「あ、やべっ」
いくらAGIが高くても攻撃した後には隙ができる。そこを狙ってリザードマンがギョロリとこちらを見る。そこでゴウッとリザードマンの頭が燃える。エレアの『ファイアブレット』が飛んできたようだ。リザードマンのHPもあと少し。そこへさらにウィンディが後ろから切りかかり、リザードマンのHPは0になり、倒れる。残り5体。
「気ー抜くな! 囲まれてるで! 『ファイアブレット』!」
突っ込んだせいか、俺達は残る5体に囲まれていた。脱出するためにエレアが『ファイアブレット』を飛ばしたリザードマンに向かって飛びこみ、弐連拳。そして即座に隣のリザードマンの後ろに回り込み、弐連拳。当たり所が良かったようで、2体目のリザードマンは『強打』の一撃でHPが半分になる。そしてこちらを振り返ったリザードマンを後ろからウィンディが切り裂いて倒す。1体目のリザードマンはエレアが斬って倒したため、残り3体。しかし油断はしない。
「『ファイアブレット』!」
エレアが『ファイアブレット』を使い、俺が飛び込んでHPを減らす&足止め、そして僅かに残ったHPをウィンディが刈り取る。それの繰り返しで残る3体を殲滅した。
◆
「お、レベル上がった」
ステータスを見ると『格闘家』のレベルが20になっていた。たしか、20で使えるようになる『剛拳』が、VITを1.5倍にしてくれるはずだ。スキル画面を見ると、『剛拳』と、『柔拳』というスキルが追加されていた。
剛拳はシンに説明された通りのもので持続時間は30秒。多分一回の戦闘毎に使わないとダメだと思う。『柔拳』はAGIを一時的に1.5倍にする。……500の1.5倍ってかなりやばくないか?
そして『剛拳』を使ってる最中に『柔拳』を、『柔拳』を使ってる最中に『剛拳』は使えないようで、VITかAGI、どちらかを一時的に1.5倍にすることしかできないようだ。
「おめでとさん。剥ぎ取り終わったら援護しに行こか」
リザードマンに手をかざして剥ぎ取りを行う。今回のアイテムは――うん、皮ばかりだ。臭い。
エレアとウィンディは砥石で武器を研いでいる。あれが耐久回復アイテムなんだろうな、と思ってた時――
「きゃあああああ!」
リンゴの叫び声が聞こえてきた。