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今の俺はただのタタリだ。もしくは、タタりんだ。断じてガチムチなどでは無い。ガッチリもしてないしムチムチもしていない。パッと見ただの少女です。それを見てガチムチと決めつけるこいつは昨日のPT募集板での事を知ってるのだろう。あれを見てない奴が俺をガチムチだなんて言うはずが無いんだから。
「違います」
「でも、君は男なんだろう?それに、『格闘家』でステ振りも間違ってる。……スレッドに書き込まれたステータスも昨日聞いたステータスと合っている。反論を聞こうか」
青髪の男はニヤリと笑う。反論って言っても、俺があの呼び名を嫌ってる事ぐらいしか無いんだけどな。
そういえばこの男の名前知らないな。何て名前だろう。
「ガチムチ魔法少女なんて渾名、俺は認めていません。それに、俺はガチムチなんかじゃないです」
「ああ、とてもガチムチには見えないね。しかし、男にしては恰好が珍妙にも……」
言葉を句切って、俺の胸を凝視しだした。まあ、男には無いものだからな。
「……詰め物もしているとは、真正かい?」
真正って言うと、意味は「本物の」だったかな……。この場合「本物の胸か?」って事かな?
世の女性が聞いたら殴り飛ばしそうな事を聞くもんだな、この人も。まあ、俺は男だから問題無いけど。いや、本来無いものがあるってのは問題だけど。
しかしこの男しぶとい。わざわざ疑うってどういう事だよ。面倒ったらありゃしない。
「はい、そうです」
「……まさか肯定するとは思わなかったね」
そうは言っても、これは真正の代物なんだけどな。
揉ませれば一発なんだろうけど、さすがの俺も揉まれるのは遠慮したい。揉んで分からせるのは最終手段だ。アニメや漫画の無口キャラなら平気でやるんだろうけど、残念ながら俺は真逆の恥ずかしがりキャラだ。揉まれたら大声で叫ぶくらいの。……揉ませて叫んだらこの人の人生(ゲーム内でだが)終わりそうだし。
「『魔法少女』に変身したら体も少女になってしまったんですよ」
「……言葉にすれ違いがあるようだな。もう一度聞こう、君は真正の変態なのかい?」
「どうしてそうなるんですか。……違います」
「なら、何故さっきの問いを肯定した?」
……ああ、ネットでは主に煽りとか罵倒に使われるんだったな。失念していた。
つまり、さっきの問いは胸が本物かどうかじゃなくて、「女装して、詰め物しているから変態だ」という決めつけか。まったく、面倒なやつに捕まった。
「はぁ、さっき言ったのは胸が本物だって事です。もう一度言いますが、『魔法少女』に変身したら体も少女になってしまったんです」
青髪の男はまた、さっきと同じように顎に手を当てて考え込む。これで信じなかったらもう逃げようかな。
「……信じがたいが、今ここで確認はできないな。まあ、ひとまずそれは置いて、謝っておこう。いきなりガチムチだなんて言ったりして悪かったね、ごめんよ。例え君が男だとしても、とてもそうは見えないしね。ところで、『変身解除』してみてくれないか。君の本来の姿を僕は見てないのでね」
お、自分から非を認めるなんて、実は良いやつなんじゃないか?こいつ。最初出会った時も、俺の事心配してくれたようだし。……名前知らないけど。
しかし、『変身解除』はできない。できたらとっくにしてるし。
「えっと……、実は、『変身解除』のスキルが無くてできないんです」
「む、不具合か、君も災難だね」
青髪の男は頬を書いて苦笑いして答える。ああ、本当に災難だよまったく。というか早く名前教えてください。
◆
「ああ、名乗るのが遅れてすまない。僕はCOTTON。C・O・T・T・O・NでCOTTONだ。気軽にコットンと呼んでくれ。ついでにフレンド登録もしておこう」
「ああ、わかった。よろしく」
あれから名前を聞いたら頭をかきながら答えてくれた。COTTONと言えば色々なスレッドで情報をまとめてくれたり、スレッドを作ったりしていると噂の人だ。今朝見たトカゲ湿地帯のまとめをしていた人も、COTTONって名前だったはず。世の中って案外狭いみたいだな。
「しかし『魔法少女』なら、『マジシャン』になった方が良かったんじゃないかい?『マジシャン』に転職していたら、ステ振りが間違っていたとしても、『格闘家』よりは強くなっていたと思うんだが」
「えっと……、武器を持てないと格闘家か生産職にしか転職できないって聞いたんですよ」
「ああ、オープンβからは転職するのに武器を持つ必要も、その武器を使う試験も無くなったんだよ。……ああ、そうか。確か『無刀流』でもあったね、君は」
武器持てなくても転職できるとか、そんな事初耳だよ。……ああ、昨日オープンβ開始したんだっけ。もしそれを知っていたら『侍』になって『抜刀術』使ったり……って、武器持てないからスキルも使えないんだったな。
そんな事を思ってると、人だかりから「究極地雷少女」とか聞こえてきた。ガチムチの次は地雷か?まあ、ガチムチよりはマシだけど。いや、実際はマシじゃないか。地雷と言えばネットでは迷惑ものの象徴だもんな。ドジっ娘ってレベルじゃないもんな。……それでも完全じゃないだけマシかな。
そして、ふと人だかりの方を見れば、そこには見知った顔が居た。
「くくく……」
シンが腹を抱えて笑っていた。俺は思わず殴りかかった。