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出された料理を食べながら明日はどこに行くかを話していると、エレアがふと思いついたように喋る。
「そういや、公式掲示板ってまだ使えるんか? 使えるんやったら、それで助けを呼べるんじゃね?」
「そうだな、とりあえず確認してみればいいだろう」
ギガントはパンをかじりながら画面を開き、公式掲示板を見ようとする。
「お、開けるな。【誰か助けてください!】【助けを呼ぶスレ】……皆考えることは似たようなもんだな」
「ンモグ。でもさーでもさー、外部からも閲覧できるって言っても、SaMoって一般人にはあまり知られていないゲームでしょ? 知ってる人はゲームやってるだろうし……期待できないんじゃない?」
「他には、VR機から出てこない俺らを心配した人が通報するってのもあるな。VRカフェなんかは、時間が過ぎたらロックは解除されるはずだしな」
「ワイとリンゴはVRカフェからSaMoやっとるけど、まだ救出されてへんで。……ってあちゃー、これも期待できんわな」
ギガントは「やっぱり魔王倒すしかないようだ」と額に手を当て椅子にのけぞっている。
そこからは、レベルアップのために明日は『トカゲの湿地帯』を少しずつ奥に進みながら狩るという話になったが、もし死んだらどうなるのかは分かっていないので、今日のように奥の奥まで踏み込んで死んで戻るのではなく、『トカゲの湿地帯』はある程度奥に進んだら来た道を戻る事になった。
『トカゲの湿地帯』も『動物の森』と同じく、奥の奥には『竜の洞窟』という所に続く道があり、そこは『魔獣の森』以上に強力なモンスターが出る危険な所になっている。
話が終わり、料理を食べきった後部屋に戻ろうとした所に、フレダさんから声をかけられた。
「ああそうだ、部屋に風呂が付いてるけど、男女別じゃないだろう? 嬢ちゃん達は部屋で入るといいだろうけど、野郎共は通路の奥の青い暖簾の浴場使っておくれ」
そう言ってフレダさんは他の宿泊客に料理を出しに行った。
◆
宿の廊下でリンゴとウィンディと分かれてギガント達と浴場に向かおうとする、とそこでリンゴに腕を捕まれた。
凄く良い笑顔で。
「じゃあ今から1時間くらいはお風呂タイムにするから、ギガントとエレアはそれまでそっちの浴場で時間潰しててね!」
ちょっと待ってください。リンゴさん、俺、男。今は魔法少女だけど、変身解けば男に戻るから。そう言おうとしたところでリンゴと俺の間にエレアが割って入ってきた。
「いや、リンゴ、何言うてんの?タタリは元は男なんやから当然ワイらと浴場に行くべきやろ」
「えー」
「エレア、殺すぞ」
「なんでやねん!?」
「そ、そうだよ、俺は元は男なんだからエレア達と浴場に行くよ」
『変身解除』をして男に戻るために、スキル画面を開く。しかし――
「……『変身解除』のスキルが無い」
魔法少女のスキル画面を見ても、『クリアブレット』の下に『ヒール』があったのは良いが、『変身解除』というスキルは無かった。
『変身』を使ったのはTATARIだから、もしかしてTATARIの方か?と思ったが、TATARIのスキル画面にも『変身』はあれども『変身解除』は無かった。
「ひょっとして、不具合ってやつかな……?」
オンラインゲームでは、稀にだが有るはずの物が無かったり、逆に無いはずの物があったり、というような、開発チームが想定していた通りの仕上がりになっていないことがある。
こういった不具合は、公式ページから不具合報告メールを送ったり、公式掲示板に書き込んだり、GMに連絡することで対応してもらえる。
しかし今はログアウトできないので公式ページにはアクセスできず、GMはまだこのゲームでは見たことが無いし、公式掲示板は今現在救助要請でまともに機能していない。
「お、不具合か。残念だったな。ログアウトもできないから強制的な変身解除もできないしな」
「よし」
「いや、ウィンディ? 『よし』ちゃうがな。」
「殺すぞ」
「だからなんでやねん!」
ログアウトはできないため、運営とも連絡がつかないし、強制的な変身解除もできない。という事は、だ。俺はログアウトできるまでの間、ずっと魔法少女ってわけか。
冗談じゃない。
「あー、俺、風呂はやめとくよ。そこらで時間潰してくる」
「ダメ」
「そーだよ! 体は清潔にしとかなきゃ!」
ウィンディはエレアに短剣を突き付け、リンゴは俺の腕を掴む。
二人とも目が本気っぽい……。エレアは両手を上げて後ろに下がり、俺は部屋の方へ引きずられる。
俺は頼みの綱の後ろのギガントに助けを求めようと振り返るが、ギガントは一言。
「タタリ、無駄な抵抗はやめとけ。ああなったら俺では止められん」
「え!? ちょ、ギガント!?」
エレアも苦笑いしつつ、「今の内に慣れといた方がいいんとちゃう?」とまで言ってくる。
「そういう訳だ。行くぞ、タタりん」
「う、うわー!」
女って怖い。そしてログアウトできるようになったら即行で不具合報告しよう。
そう思いながら俺はリンゴとウィンディに部屋まで引きずられていった。
そして、「慣れる」なんてことがないように祈る。
次回、風呂(予定)