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Sense And Madness Online  作者: 一二 三四五
◆第一章
16/50

12

――始まりの都『アガレス』 復活の神殿


 気付いたら復活ポイントに寝転がっていた。隣にはリンゴやエレアも苦笑いを浮かべて立っていた。


「あー、まさかオーバーキルされるほど強いとはな……」

「ワイらはまだ下位職やし、仕方無いっちゃ仕方無いさ。相手は1体とはいえ高レベルの上級職クラスやで」

「そーだよタタりん! また強くなったら挑もう!」


 復活ポイントというのは、『アガレス』の中央にある復活の神殿のことで、プレイヤーは死ぬとそこに飛ばされる。SaMoの舞台となる大陸には、中央にある始まりの都『アガレス』以外には小さな町や村が点在しているだけで、今の所『アガレス』以上に大きな都市は無い。

 『アガレス』から冒険に出かけ、『アガレス』に冒険から帰ってくる、というわけだ。・・・帰り方は、冒険先で死ぬのがプレイヤーの一般的な帰り方だが、経験値が惜しい時には『転移札』というアイテムや、『転移門』というスキルでも帰る事ができる。転移する場合は、『アガレス』でなくともいいのだが。


 復活ポイントから出ると、ギガントとウィンディが待っていた。


「お、お前らか。どうだ、手応えはあったか?」

「いや、ワイもリンゴもそんな手応え感じられませんでした」

「そうか……。俺とウィンディにはな、あったんだよ、手応え。防御無視のラッキークリティカルってやつだな」


 ウィンディはギガントの言葉に首を縦に振って肯定する。それにエレアが「やっぱりか……」とつぶやく。リンゴは「凄い凄い」とギガントを褒めている。

 ダメージが通ったってことは、少なからずセンスに経験値が入ったんだと思う。


 このゲームではモンスターを倒す以外にも経験値が入るものがある。学校に行って勉強すれば『魔法』や『解読』のセンスに経験値が入るし、素振りをしただけでも僅かだが素振りした武器センスに経験値が入る。

 俺も釣り教室や料理教室に通えば『釣り』や『料理』に経験値が入るだろう。もちろん、ゲーム内での話だが。

 『軽装備』や『重装備』は敵の攻撃を受ければ経験値が入るが、最大HP以上の攻撃を受けても防御センスに経験値は入らない。そのため、今回グリフォンに受けた攻撃で大幅レベルアップ!なんてことはない。

 しかし、ギガントの『大鎚』やウィンディの『弓』には、僅かながらグリフォンのHPを削ったとして、経験値が入っている。グリフォンは強いから、一気にレベルアップしているかもしれない。


 それと、


「タタりん、お疲れ。俺達は今日はもう終わるからよ、また明日奥地狩りしような」


 俺は戦闘時や重要な話の時以外は、渾名タタりんで呼ばれるようになった。

 できればやめてほしいのだが、あの不名誉な渾名ガチムチよりもマシで、尚且つ先に流行らせればあの不名誉な渾名も自然消滅する、との事なので仕方なく同意している。


 ギガント達とは中央広場まで一緒に行ったところで、俺はゲーム内の食事のためパン屋に向かおうと、ギガント達はログアウトするため、画面を出してログアウトしようとしていた。

 ギガント達に背を向け、パン屋に向かって歩き始めようとした時、背後から不吉な言葉が聞こえてきた。


「……ん? ログアウトできねえな……」


 「ログアウトできない」、その言葉に、不安が蘇る。『デスゲーム』が始まったんじゃないか、と。

 それを否定しようと俺もメニュー画面を開いてログアウトしようとするが、メニュー画面が開いたと同時に、頭にキィィィィ、と音が響いてきた。脳に直接撃打ちこまれたような気がして、地面にうずくまり頭を押さえる。



 メニュー画面の端の時計を見る。時刻は午後6時30分。

 頭にはいまだ音が響いていた。

 響いている音は不快で、俺の心は『デスゲーム』が始まったんじゃないかという不安でいっぱいだ。

 音が鳴りやむと、続いて声が響いてきた。


『――この世界が魔王に乗っ取られました』


 魔王――RPGに出てくるラスボスとか、その一つ前のボスだ。

 SaMoのイベントだろうか。しかしそんな話は聞いていないし、掲示板でも見なかった。

 突発的なイベントだろうか。わざわざログアウトまで制限して結構な事だ。

 この時の俺はまだ、心太郎の『デスゲームなんて都市伝説だ』という言葉を信じていた。いや、信じることで絶望から目を背けていたんだと思う。

 言葉は続く。


『私たちに抗う術はありません』

『抗う事ができるのは、あなたたち冒険者しかいないのです』

『魔王を倒して、世界に平和をもたらしてください』

『魔王を倒さない限り、現実には戻れません』

『お願いします、どうか世界を救ってください』

『どうか……どうか……』


 女性だったのだろうか、声は無機質でも、口調は女らしかった。しかし、今の俺にとってはそれほど重要な事じゃなかった。

 今朝、不安だった事、昼になって、不安じゃなくなった事。それが、現実になった。

 『現実には戻れません』。その言葉を聞いて、心太郎の言葉が粉々に粉砕されたような感じがして、俺はがくりと膝を折った。


「マジかよ……」


 本当に、信じられない。メニュー画面からログアウトを選択するが、ログアウトできない。

 『世界を救わないと』『魔王を倒さないと』『現実に戻れない』。殺し合いよりはマシだろう、マシだろうが、きっと、誰かが死ぬ。

 誰かが死ぬ。それがこわい。たまらず、自分の体を抱きしめる。


「魔王って何だ?世界ってなんなんだ?おい、答えてくれよ、助けてくれよ・・・」


 つぶやきは消える。誰も返事をしない。皆驚いているんだろう、辺りは騒然としていた。・・・きっと、俺のつぶやきなんか、みんなに聞こえなかったんだろう。

 俺は悲しくなって、泣いた。



 泣いてる場合じゃない。そう思って、立ち上がろうと思ったが、顔を上げれば、人が大勢見えた。その表情は皆、重く、暗い。


 俺と同じように膝をついて、嘆いている人。突然の事に、泣き出している人。

 隣の人を抱きしめて、励ます人。恐怖のあまり、町から出ようとする人。

 現実に戻ろうと、しきりに「ログアウト!」と叫んでいる人。茫然と、自分におきた事を呟いている人。……本当に色んな人がいた。


 広場は色んな人の声で埋め尽くされている。そして、改めて気付いた。気付かされてしまった。

 7月20日、この日、俺は、俺たちは、Sense And Madness Onlineの世界に、取り残されたのだ。

 そのことに気付くと、俺の心は折れてしまったようで、その場にドサリと倒れ込んだ。

デスゲームっぽくなりつつ、第一章を終わります。

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