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どうしよう。俺のせいで雰囲気が悪くなってしまったようで、俺が落ち込んでいると、やがてウィンディも俺を撫でるのを止め、手を膝の上に置いて握りこぶしを作っていた。
そこに、何か思いついたようにリンゴがニヤニヤしながら近づいてきた。
「タタリちゃん、タタリちゃん。タタりんってのはどうかな!?」
「あの……リンゴさんは何を言ってるんでしょうか……」
リンゴはニッコリと笑い、頭をかくような動きをした。
「いやー、やっぱりあんな酷いのじゃなく、タタリちゃんにはもっと可愛い渾名が似合うと思うんですよ! どうかな!? タタりん!」
どうやら黙っていたのは渾名を考えていたかららしい。タタりんってなんだオイ。それについてウィンディが顎に軽く手を当て、口を開く。
「……タタりん」
「いや、ウィンディも真似しないでいいですから!」
その話に加わるようにエレアも賛同する。
「いいんじゃねえか、それ」
「ちょ、エレアまで何言ってんだよ!」
さっきとは違う方向で雰囲気がおかしくなる。その違いと言うのは、みんなに笑顔が戻り始める、というものだった。ギガントもハハハ、と笑い、俺の肩をトントンと叩き、俺に話しかける。
「まあいいじゃねえか、タタリ、みんなお前のために渾名考えてくれてるんだからよ」
確かに、みんな、笑顔で渾名を考えている。「タタりん」の他には、「マジカル☆タタリ」だの、「姫さん」だの。だんだんおかしくなっていき、「マジカル☆プリンセス☆タタリ」とか、「タタリ姫」だのになってくる。
「って、良くないですよ!俺男ですよ!なんで女の子に付けるような渾名なんですか!?」
ギガントが「え?何言ってんのお前」みたいな顔をする。少し顎に手を当て考える素振りをした後、俺を指さして、
「じゃあ、お前、どんな渾名が良いんだよ」
と、聞いてきた。む、渾名っていきなり言われてもどんなのが良いかって思いつかないもんだな。
「えっと……昏睡周波数、とか……」
「それは渾名じゃねえ、二つ名だ」
ぐっ、確かに二つ名だった。それに二つ名と渾名は別にしておきたい。『蒼空の魔法騎士タタリ』とか言われてみたいし。
「えっと……じゃあ、"リ"を"ル"に変えてタタル、とか」
「はあ、お前は今魔法少女なんだぞ、むしろ女の子らしい方がいいだろ?ウィンディの奴も前から言ってるしよ」
「タタりんがいい」
向こうでは「タタりん」に決まったようで、代表してウィンディが俺に決断を迫ってくる。と言っても、断っても食い下がってくるので「YES」以外の選択肢は無いのだが。
「……はあ。もうそれでいいよ」
「じゃあこれからもよろしくね~! タタりん!」
「頼むぜ! タタりん!」
「よろしくね、タタりん」
「あー、まあ、諦めろ、タタ……りん」
最後の砦まで落ちてしまった。まあ、ガチムチ☆(略)よりはマシなのだろうが。
◆
――『魔獣の森』 入口
小休止を済ませ、俺の渾名が「タタりん」に決まった所で俺達は『魔獣の森』に入った。
辺りは日暮れという事を考えてもそれ以上に薄暗く、まるで森が死んでいるような所だった。
入口の方はまだ安全らしく、敵の集団も襲ってきそうにない。しかし、1発当たれば即、復活ポイント送りになるくらいの高レベルモンスターが辺りをうろついているので、PTメンバーに緊張が走る事に変わりは無い。
「とりあえず、1体引き付けて、ボコるぞ。1発殴れれば御の字だ。どうせ俺たちの武器じゃはじかれる。威力よりも命中を重視しろ。……タタリ、これをあそこのグリフォンに投げろ」
この中で『投擲』センスを持ってるのは俺だけだ。……まあ『投擲』はセンスレベル1だとあってもなくても同じだが、俺は『無刀流』でSTRが高く、『投擲』も鍛えられる、という理由で俺が投げる事になった。
ギガントから貰ったのは重さ0.1kgの小石。小石と言っても、拳より少し小さいくらいだ。
『投擲』の射程と威力と切れ味はSTRと重さとセンスレベルで、命中率はDEXとセンスレベルで決まる。
Lv2になれば、倍投げれるようになり、Lv100になれば、100倍の射程、威力、切れ味、命中率をたたき出せる。……俺はまだLv1だけど。
「おい、タタリ、早く投げろ。こっちはもう準備万端だ」
ギガントから急かされる。
俺はグリフォンに狙いを定め、力の限り投げつける。俺のSTRは今や290。小石の射程は十分にあるだろうが、威力と切れ味はセンスレベルも低く、軽い石を投げるから弾かれるだろうし、ダメージもきっと通らない。
「クエエ!?」
「よし! こっちに来たら全力で当てに行け!」
ちなみに『投擲』も地雷スキルの一種だ。理由は、「使い辛い」。威力を上げるには重さを上げるかSTRを上げるか『投擲』を鍛えるしかない。
重さを上げると威力と切れ味は上がるが、射程は短くなるし、STRが高くないと過重でAGIが下がる。STRを上げるにはステータスポイントを振るか、戦士職に転職するか、しかない。『投擲』を鍛えるのは最初の理由で厳しい、という訳だ。
俺は『無刀流』でSTRが5倍になっているから、ある程度の量は持てるし威力と切れ味も高くなる。この2つの理由で『投擲』を鍛えやすくなっているので、主戦力として使っていける。
『拳』で近距離を、『魔法少女』で中距離を、『投擲』で遠距離を戦えるという訳だ。鍛えれば、の話だが。
「クエエエエエエ!」
「うお! 『麻痺ブレス』を吐いてきやがったぞ! 気を付けろ!」
そう言ったギガントはバックスッテプで距離をグリフォンとの距離を離す。『バックステップ』のセンスボックスを買ったのか、たまたま成功したのかは分からない。
「チィッ!『疾風弾』!」
ウィンディは『狩人』の職業スキルだろうか、短剣をしまって弓を出してグリフォンに矢を撃っていた。
おそらく『弓』センスは既に買っているだろう。でなければわざわざ弓を出したりはしないはずだ……多分。
「『ファイアブレット』!」
「『シャインブレット』!」
エレアは『ファイアブレット』を、リンゴは『シャインブレット』をグリフォンに向けて放つ。赤い光と黄色い光がグリフォンに当たるが、ダメージは無いようだ。ひるまずにこちらに向かってくる。
ウィンディも結構な数の矢を放っているが、いまだグリフォンのHPは減ってないように見える。ダメージが届いていないのか、はたまたHPが高くて減っているように見えないのかは分からない。ただ、弾かれているし、きっと前者なんだろう。
「『ハンマーインパクト』!」
ギガントはグリフォンの背後に渾身の一撃を振り下ろす。『ハンマーインパクト』は『大鎚』のスキルだったと思う。そしてついに、グリフォンのHPがほんの僅かに減った。まさか届いたのか!?
しかし、直後にギガントは弾かれて体のバランスを崩した所にグリフォンの爪を受けて一気にHPを削られて光になる。SaMoでは、最大HPの倍以上の攻撃は受けた時オーバーキルになり、『蘇生』する間も無く復活ポイントに送られる。
その後、ウィンディも『麻痺ブレス』で倒れ、エレアとリンゴと俺はグリフォンに突撃して、スキルを使う間も無くオーバーキルで復活ポイントに送られる。