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Sense And Madness Online  作者: 一二 三四五
◆第一章
13/50

 森に駆け込んでから10分ぐらいだろうか、奥に進むほど人が少なくなっていく事に気付く。

 やっぱり低レベルのプレイヤーは野兎や大ネズミを狩っている。大ネズミが大型犬みたいな大きさでビビる。

 野兎を殴るのは少し抵抗があるが、あのくらいなら殴れそうだ。そんな事を思っていると、目の前に大ネズミが3匹現れた。周りを見てみるが人はいない。これならくぐり抜けても問題は無さそうだ。

 周りに人がいる時にこんな事をしたら、この3匹は俺を見失うと、近くにいる他のプレイヤーに襲いかかる。これを利用してPKする人もいるらしいし、そんな疑いをかけられても困る。


「よっと」


 大ネズミの脇を通り過ぎて、どんどん奥へ進む。後ろをチラリと振り返ると、大ネズミが追いかけてきていた。しかし、どんどん距離は開いていく。この調子ならすぐに俺を見失うだろう。

 そう思っていたら前から別の大ネズミ3匹が現れた。

 このままだと、挟み撃ちの形になる。そうなってしまえば16時までに奥地にたどり着くのは困難になるだろう。

 俺は立ち止まらず、前にいる大ネズミの脇を通り、奥に進む。

 振り返ると大ネズミ6匹が俺をおいかけてきていた。

 だが俺は前に進むしか無い。16時までというのは急いで着くか着かないか、という時間である。

 ひょっとしたらギガントも冗談であんな事を書き込んだのかもしれない。

 もしそうだったとしたらギガントを殴って『拳』を鍛える事になるだろう。

 そんな事を思いながら、俺は森を駆け抜ける。



――『動物の森』 奥地


 奥地にたどり着く。だが俺は走り続ける。まだ追いかけられているからだ。大ネズミの索敵範囲がこんなに広いとは思わなかった。

 俺を追いかけていた大ネズミはいつのまにか30匹ほどに増えていた。


「ギガントさーん! どこですかー!?」


 俺は声を張り上げ、ギガントを呼ぶ。この声に反応したのか近くの茂みがガサッと揺れた。

 期待してその茂みの方に駆け出す。しかし、そこから出てきたのはGIGANTという名の巨漢ではなく、大ネズミよりもさらに一回り大きい虎だった。

 今の状況は、前方に虎、後方に大ネズミ×30。絶体絶命の危機だ。


「ちょ、誰か助けてー!」


 助けを求めて叫ぶ。多分、悲鳴になっていたと思う。

 虎の牙が顔に近くなる。いくらVRゲームと言えど、現実的すぎて虎のキバがスローになる。

 人って危機的状況になると周りがスローモーションに見えるって、本当だったんだな。

 あまりの怖さに目をギュッとつむる。そして虎の牙が俺の頭に近づいてくる。


 ガツンッ


 と、衝撃音がした。俺の頭に、ではない。

 恐る恐る目を開けると、ギガントが大鎚を振り上げて立っていた。


「おう、タタリ、大丈夫か?」



 あれからエレアとリンゴとウィンディが来て大ネズミを蹴散らして、ギガントが虎を倒した。俺はその間腰を抜かしていて、何もできなかった。いや、ゲームだから本当は起き上がれたはずだ。しかし俺は起き上がれなかった。


「まさか本当に来るとは思わなかったな。大ネズミも大量に連れてきやがって……。まあいい、15時55分。約束通りPTに入れてやるよ」

「あ、ありがとうございます……」


 ギガントの手を取り起き上がる。

 そしてギガントのPTに入れてもらう。これでようやく第一歩だ。

 小さく拳を握ると、大ネズミを倒し終えたエレア達が話しかけてきた。


「いやー、それにしてもタタリちゃん勇気あるなー。Lv1で森の奥地まで来るって聞いたこと無いわ」

「タタリちゃんすごいのだー! いやー、『無刀流』だからって内心ナメてました! ごめんなさい!」

「……お転婆」


 何やらウィンディは俺を女の子扱いしている。俺男ですよ。今は魔法少女だけど。俺をPTに入れたギガントは、早速俺に指示を出す。


「よし、じゃあタタリには早速大型獣狩りに参加してもらう。ターゲットは1体で出る熊と虎だ。狼は集団で来るから俺達に任せろ」

「はい!」


 そして俺の虎及び熊狩りが始まった。



 あれから辺りを歩いて探索していくと、茂みから狼5匹と熊1匹が現れた。ギガントとウィンディは狼の集団に突撃して、武器を振り回す。

 その間にエレアは『ファイアブレット』と唱え、リンゴは『ヒール』と唱えていた。『ファイアブレット』は『マジシャン』が使える火属性の下級魔法で、俺の『クリアブレット』に火属性が付いたようなものだ。『ヒール』は『クレリック』が使える下級回復魔法で、指定した相手……この場合だと攻撃を受け止めているギガントのHPを回復させる。

 ギガント達は狼を相手にしているため、熊が1匹その場に取り残される。そしてギガントが俺に声をかけてきた。どうやら出番がきたようだ。


「タタリ! そっちに熊が流れた! 殴り殺せ!」

「合点承知!」


 俺は『格闘家』のジョブスキルの『強打』を使って殴りかかる。『強打』は格闘家にとって基本のスキルだ。SPを消費して強力な打撃をたたき込む。

 熊のHPを見る。HPは1/10ほど減っていた。後9回『強打』をたたき込めば倒せる。これなら勝てる気がする。続けて2回、『強打』をたたき込む。

 反撃だろうか、熊が腕を振り下ろそうとしていた。しかし、その動作は俺のAGIが高いからか遅く見える。ゴブリンの時にしたバックステップは失敗すると恥ずかしい事になるので、脇をすり抜けるようにしてかわす。


「オラァ!」


 熊の背中に気合いを込めて『強打』をたたき込む。普通の女の子ならこんな声上げないと思うが、俺は男だ。問題無いと思う。『強打』を背中から受けた熊のHPは一気に2/10くらい減っていた。多分クリティカルヒットしたんだと思う。

 熊のHPは残り半分。ギガントの方を見てみれば、狼は2匹に減っており、エレアとリンゴも混ざって狼を叩いていた。リンゴが「フルボッコ!」と叫んでいる。


 早く倒さないとゴブリンの時のシン達みたいに俺を観戦しながら待つかもしれない。さっさと決めるために、振り向いた熊の脇をまたすり抜けて、背中に『強打』をたたき込む。

 それを5回繰り返すと、熊はドシンッと倒れ込む。ギガント達も狼を倒し終わったようで、額を拭うように息をついていた。


 ステータスを見ると、『格闘家』と『拳』のレベルが上がっていた。

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