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Sense And Madness Online  作者: 一二 三四五
◆第一章
10/50

「え!? 『また』出たんですか、あの人」


 心太郎が叫ぶ。あの人、というのはハム兄さんの同級生だった人で、今は俺のバイト先の先輩だ。名前は橋本はしもと こう。バイト先では頼りになる先輩だが、1つだけ問題があるのだ。


「神よー!ご降臨くだされー!」


 玄関の方から声が聞こえる。そう、この人、橋本先輩は大の岡本公彦『信者』なのである。


「あの子も昔は普通だったんだけどねー。昔、僕がオンラインゲームを勧めたら空想と現実の区別がつかなくなったみたいで……『ああ』なっちゃって。」

「ってことは将来俺達も『ああ』なるかも知れないって事ですね……」


 心太郎が言う。その顔が喜んでいるように見えるのはきっと気のせいだろう。

 俺がオンラインゲームをやりたくない理由の最後の1つ、『バイト先の橋本先輩みたいになりたくない』である。

 バイト先では普通に頼りになる先輩なのだが、ハム兄さんを前にすると「神!神!」と叫びだすのだ。

 ハム兄さんに関わらなければ『普通に頼りになる先輩』だったのだが、関わってしまったがために橋本先輩は『普通に頼りになるけどたまに変になる先輩』となっているのだ。

 シンが言うには廃人は一部から神扱いされるらしい。染まりたくない。


「と言うわけだから、今日は家で食べよう。幸いにも冷凍ピザがあるんだ、温めてくるよ」


 そう言って、ハム兄さんは台所に向かう。この家で料理ができる者はいない。

 だからこの家で食べる物は料理ができない者でも作れる冷凍食品だ。

 この夏休みの間、ずっと冷凍食品ということはないだろうが、朝食、昼食、夜食のどれか1つは冷凍食品になるだろう。



 しばらくして、橋本先輩は帰って行った。偶然にも今日が休みだっただけなんだろう。

 あの人の休日はハム兄さんに拝んで始まり、拝んで終わるというものらしい。少し前に本人から聞いたら、曰く、『妹を神の力で助けてもらったから』らしい。一体どういう力を使って助けてもらったのだろう。……ゲーム内でハムが回復した、とか?

 そしてその妹さんは、先輩より3歳下の高校三年生で、俺と心太郎の先輩でもある。

 一見美少女だが、性格がキツイ。ツンデレで言うとツン10デレ0ってぐらいキツイ。あの人の笑顔は黒いのしか見たことが無い。昔はかなり荒れてたらしい。


 今、俺たちはハム兄さんが持ってきた4種のピザを食べている。シーフード、エビマヨ、カニクリーム、アンチョビの4つだ。

 ちなみに俺はアンチョビだ。蟹アレルギーで、蟹は食べることができないのでエビマヨ、アンチョビのどちらかになったが、茜がエビマヨ好きなのでエビマヨを譲り、アンチョビになった。


「じゃあ、これ食べたらゲームに戻るけど、崇君はこれから1人で頑張ってもらう。餞別として回復アイテムとかはあげるけど、とりあえずは1人で頑張ってほしい。まあ、Wikiを見ながらやればすぐに僕たちのところまで来れるはずさ」

「おう、来週から正式だし、今の内にガンガンやっとけよ。初心者で『格闘家』の二重苦だが、『無刀流』と『魔法少女』があるんだ、きっとなんとかなる」

「ちなみに『拳』は育て上げれば攻撃力は近接最強らしいよ! 頑張って!」

「ん? 大剣は……をかけて……を割る感じだから……お互いセンスレベル30で……崇は『無刀流』で5倍だから×5で……」


 シンが何かブツブツ言って、紙に計算式を書き始めた。あのクラス三大馬鹿の1人、谷口心太郎が自分から進んで計算問題に挑む、これは中学の頃の担任が見れば目を疑うような光景だろう。

 挑んでいるのは小学生レベルの問題だが。


「うお! 大剣攻撃力300相当かよ! 確かに攻撃力だけ見りゃ最高だな、『拳』と『無刀流』の組み合わせ!」

「急に何言ってんだよ、それに攻撃力だけってなんだ、だけって。攻撃力が高いだけだとダメなのかよ」

「ああ、SaMoには切れ味と堅さっつー概念もあってな、例えば普通の鉄の剣なら切れ味100あるんだよ。武器センスレベルとか、作った奴がPCならそれ以上の切れ味も有り得るけどな。それと、切れ味は武器を何度も使えば悪くなる」

「それで?」

「こっからが『拳』の痛い所でな、『拳』の切れ味はVITの1/10なんだ。これは皮の堅さと同じなんだ。っと、堅さの説明もするが、切れ味以上の堅さの敵の攻撃したらはじかれて、切れ味消費量が敵の堅さ-切れ味になって、攻撃力も1/10で計算されるんだ。まあ切れ味消費は『拳』なら関係無いんだけどな。話を戻すが、『拳』じゃ鉄を砕くのにVIT1000以上は必要になる。『無二刀』と組み合わせても200だな」

「はあ!? 200!?」


 200、しかも『無刀流』と組み合わせて。仮に俺がAGIに振らず、VITに振っていればレベル100直前で届く数値だ。

 転職試験官さん……俺でこれなんだから、あの「大岩を砕く」って言う言葉も、言葉通り鍛えても大岩しか砕けないって事なんですかね……。


「ちなみに岩は鉄より堅くて、150が基本的な堅さだ。それにVIT補正が加わるから、『格闘家』の転職試験官が言う通り、普通ならステータスポイントをVITに120振って鍛えた結果、ようやく岩を壊せるレベルだ」


 鍛えても岩すら砕けない事に絶望を覚え、膝を折り項垂れる。


「心太郎、格闘家に……未来は無いのか?」

「まあ待て、今のは普通の格闘家の場合だ。『無刀流』のお前ならVITは1/2で済む。それに、今後上方修正されるかもしれないからな。それに、たしか『格闘家』には一時的にVITを1.5倍にする『剛拳』というスキルがあったはずだ。それを使えるようになれば、まだ希望はある。……大丈夫だ、お前は『無刀流のステ振り間違いの初心者格闘家』だが、同時に『魔法少女』でもあるんだ。なんとかなるって」


 心太郎はニヘラと笑って、俺を励ます。

 格闘家は本当にギリギリで岩を砕けるレベルらしい。それと、参考程度に聞けば、鋼鉄は鉄の3倍の300なので、鋼鉄の鎧を着た兵士とかは俺でもまず勝てないらしい。砕くのに最低VIT3000とかインフレすぎるだろ。

 一応『スキル』を使えば雀の涙程度のダメージは通るらしいが。故に『格闘家』は地雷なのだとか。cβでは『無刀流』は2倍だったので、cβだったらキャラ削除を勧めるほどだったらしい。

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