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求婚≠ロマンチック!? 【グラオベン大陸恋物語 短編集】  作者: straightree
第四章 〜仮面のゴンドリエール〜
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更新大変遅くなりました。一話の量が少ないのはお許しを。引っ越しと退職で手一杯でした。とりあえず完成しているところまでアップします。よろしくお願いします。

「酒は飲めるか? ほら」

 大皿に山と盛られた肉を凝視していたオルテンシアは、その声に顔を上げた。

「少しなら。でもまだ昼間だよ」

「関係ないさ。俺は明日まで休暇中の身だしな」

 唇の端に苦笑をのせながら手を出してジョッキを受け取る。そうしてオルテンシアはきょろきょろと忙しなく目を動かした。

「どうした?」

「……フォークないの?」

「そんな行儀の良い店じゃないからな。男だろ、かぶりつけよ」

 言われて一つを指先で掴む。思いの外重量のある、脂ののった肉だ。

 コラッジョーゾが含み笑いで酒を煽った。空色の瞳に挑発され、オルテンシアは肉をしっかりと握る。

 躊躇いは一瞬だった。

 かぱっと大口を開け、かぷっと肉を頬張った。ぎゅむぎゅむと肉を咀嚼すると、甘味のある肉汁が広がる。

「……おいしい!」

 緑の目を輝かせて感嘆の声を上げた。二口目をかぶり付き、オルテンシアはコラッジョーゾに視線を向ける。

 コラッジョーゾは酒も飲まずに呆気に取られていた。まじまじとオルテンシアを見つめる空色の瞳は、信じられないものを見たかのように見開かれている。

「なに?」

 それがゆっくりと苦笑に変化した。

「いや……美味いなら良かった」

「うん、これおいしい! コラッジョは食べないのか?」

 肩を竦め再び杯に口をつけたコラッジョーゾに、オルテンシアは手持ちの肉をまた頬張る。

 歯で豪快に噛み切るのは女としては慎みがなく、行儀も悪いとわかっていた。だが、案外出来てしまうものだ。自分でも驚きながら、肉の旨味を味わう。

 杯を煽り、カッと喉を焼く熱さに心臓が大きく鳴った。けほっと空咳をしながら、オルテンシアの視線は店の中を見回している。

「ここは酒場なの?」

「いや、上は宿屋だ」

 コラッジョーゾが天井を指差した。

「ここはルチェーナの目抜き通りから結構離れているだろ? 常連客が多いんだ。ガラの悪い客も少ないし、飯も食えるなら宿も安くて気配りが行き届いてる。酒も美味いし、休みたい時はここに来るんだよ、俺は」

 証明するかのように、さっさと杯を空にする。立ち上がって狭い店をテーブルからカウンターまで歩き、店主に小声で何かを話しかけ杯を交換していた。

 ……あきれた! これ、かなりお酒入ってるけど。

 頬が火照る。元来、酒成分アルコールに強い方ではない。きっと今は真っ赤な顔をしている筈だ。

 コラッジョーゾが振り返る。

「アルベロはもう一杯飲むか?」

 いらない、と示す為に首を横に振って嘆息した。余計に酔いが回る。

 席に戻ったコラッジョーゾの顔色は全く変わってはいなかった。一口飲むのを待って、オルテンシアは言葉を紡ぐ。

「ねぇ、バレンツォ・スッチェソーレを始末したってあの……あの……」

「ああ――名前はフィーコだ」

 言い淀んだ理由を正確に察知したのだろう。

 ――アルベロが助けたのはフィーコって名前の男なのね。

 ちらっと指輪に視線を落とす。

「ちゃんと話せたか?」

 やや心配そうに口調を変化させたコラッジョーゾにオルテンシアは小さく笑った。

「フィーコは恩人を殺したバレンツォを赦せなかったと話していた。どうしたって相手は貴族だからな。スッチェソーレ卿は息子がそんな事をしたとは認めないし、事件はガンヴィッロで一年も前に起きたことで手詰まりだったんだ」

 深く吐かれた溜め息に真摯なものを感じとる。

「フィーコの言ったことに間違いはなかったんだな?」

「うん……フィーコは本当のことを言ってるよ。水路に落とされて行方不明になったゴンドリエールは確かにいるんだ」

 スッチェソーレ卿がどんなに声高に息子の無実を叫んだとしても、事実はもっと残酷だ。アルベロは今も行方がわからない。

「見つかるかどうか……もう一年になるのに。僕は確かめに来たんだよ」

 瞳に力を込めて、オルテンシアはコラッジョーゾを見つめる。

「ゴンドリエールはなんで水路に消えなきゃいけなかったのか? 誰がゴンドリエールを水路に放ったのか? 僕に答えをくれるのは犯人しかいなかった」

 まさかガンヴィッロから遠く離れた公都ルチェーナで犯人が見付かるとは思ってもみなかったけれど。

 コラッジョーゾに出会えたのはある意味幸運だった。アルベロの導きか、オルテンシアの執念か。なんにせよ、オルテンシアは真実を手に入れた。

 空色の瞳が訝しげに細められる。

「フィーコは犯人ではないんだろう?」

 ゆっくりと頷いて、オルテンシアは両の手に持つ杯を傾けた。

「犯人じゃないよ。理由だったんだ」

 喉を音をたてて酒が通り過ぎる。胃が拡張するかのような爆発的な熱さを感じながら、それでもさらに杯を煽り、ごくりと喉を鳴らした。

「犯人はバレンツォ・スッチェソーレだ。フィーコはゴンドリエールを助けようとしてくれたけど、慣れてる人でもガンヴィッロの水路では泳がない。だから――」


 あの日、仮面祭カーニバル翌日の夜、アルベロが水路へと投げ込まれるのをオルテンシアは遠くに見てしまった。

 血の気が引く暇すらなく、とぷんっと暗い海に引き込まれていく瓜二つの弟の姿を見たのだ。

 いつも一緒に帰るから、オルテンシアは診療所の前でトマソと話しながらアルベロを待っていた。何を話題にしていたのかは覚えていないが、あの日遠目に見た犯人が着ていた服ならば詳細に思い出せる。

 それは間違いなく貴族だった。きらびやかな、庶民が着られる筈もない高価そうな服。

 顔は身体の死角に入って全く見えなかった。それをどれほど後悔しただろう。

 緑の瞳を見開き、視線を送った先には、胸ぐらを捕まれて水へと落とされる半身があった。

 慌てたようにゴンドラから飛び込んだ人影。駆け出したトマソもまた暗く冷たい海に身を踊らせ、泳いでいく。

 オルテンシアの足は一歩も動かなかった。その場に崩れ落ちて、なかば幽鬼のように、這いながら水路に向かう。

 戻ってきたトマソが抱えていたのは大切なアルベロではなく、ゴンドラから飛び込んだ方だった。


「僕は覚えてるよ。フィーコはア――ゴンドリエールを助けようとしてくれたんだ」

 すまない、と滴る水もそのままに、彼は――フィーコは謝った。オルテンシアは腰までの長い金の髪が石畳と自分の膝で擦れることも構わずに、フィーコの側からいざって離れながら、首を振り続けた。涙が飛び、その跡が凍える風に晒され冷えていくのを虚ろに感じながら。

 自らの手でそっと頬を撫で、オルテンシアは眉を下げて諦めに似た笑いを溢した。

「つまりお前もフィーコに会ったってことか?」

 小さく頷き、残った酒を流し込む。

 コラッジョーゾは困ったように鼻にしわを寄せた。幾度か言い淀み、迷いながらオルテンシアの頭を撫でる。

「……そのゴンドリエールが見付かるといいな」

「うん。僕もそう願ってる」


読んでいただきありがとうございました。引っ越し完了しましたら、また更新します。もう少しお待ち下さい。

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