テロリスト編終了
テロリスト編が終わります^m^
高田が得意げな顔で3人を出迎える。3人ともに、やれやれだぜと言わんばかりに大きくため息をついた。ただ、それは高田に対しての思いだけではない。あの緊張・・・その他もろもろ、3人が3人ともに疲れ切っていた。
「どうしたどうした?何疲れた顔してるんだよ、お前ら?」
高田が高笑いをする。気持ちは分かる。分かるよ。でも、俺たちは疲れているんだよ。と、言わんばかりに高田を睨み付けた。でももう、そんなことすらめんどくさく感じるほどに、3人は休みたかった。隆起が地べたに座る。
「終わりました・・・ね」
日向も地べたに座り込み、何も持っていない空の手を持ち上げて、「かんぱ~い」と言った。言ってから少し照れくさそうに後悔した。それでも、やっぱりうれしさのほうが勝っていたようで、日向に合わせて隆起が手を持ち上げたのを見ると、こつんと、その拳だけを合わせた。
「俺たち、役に立った・・・よな?俺たちはみんな、頑張った・・・よな?」
調子には乗っているような素振りをしていたが、その声と唇、隆起と合わせた拳、呼吸をする体、波打つ心臓、胸を叩き付ける心臓・・・その日向という人間、形を形成しているものすべてが、小刻みに震えていた。隠しているつもりだろうが、みんなにバレバレだったが、隆起も全く同じに震えていたので、何も言わなかった。
「役に立ったもなにも、俺たちが事件を解決したんだぜ。いつまでも震えてないで、自信持てよ。日向。それに佐藤も」
真治も2人の拳に自分の拳をぶつけた。さり気なく「乾杯」と言った後、その手を自分の口に持って行った。
「ぷはー。仕事した後でのこの一杯。このためだけのために仕事ってのは存在してるんだねー。存在しているんだねー」
見透かしたようにやらしい目つきで日向と隆起の肩に手を回す。さすがに真治は震えていない。むしろ、歓喜で震えているみたいだ。どことなく、本当に酔っぱらっているようだ。
「おいおい、俺も混ぜてくれよ」
と、空気の読めない高田がニンマリした笑顔で3人に寄ってきた。日向は少し、うんざりした顔を見せたが、真治と隆起はそれでもこの空気の全く読まない男を受け入れた。日向も、しょうがねーなー。と、この祝杯にケチをつけるのもどうかと思い(空気を読んで)、4人は拳を合わせて、「乾杯」と各々口にした(見えないお酒も一気に飲み干した)。
そのあと、高田は一人で機動隊のところに出向き、なにやら、歓迎されていた。高田も鼻が高いことだろう。初めはこの特殊警察課は機動隊以下だと言われ、しかも、機動隊以上だとも証明できず(そこはおかしな話だが)、日向たちには(特に日向)馬鹿にされ、事が済むまで何もできずに、ただただ、事の顛末が分かるのを待っていたのだ。
終わるまで、高田は半泣きだった。物笑いの種になるのか、それどころか、特殊警察課の存在すらも怪しかった。失敗などすればの話だけれど、成功する自信も・・・五分。真治が言った言葉、「日向や佐藤は初めての任務になるのですよ。大丈夫ですかね?」と言ったこと。一番気にしていたのは、実は高田だ(当然、真治はそれを意識して言っていた。ニヤリ)。
「じゃあ、帰るか」
真治はそう言うが、驚いたのは日向と隆起の2人だ。
「えっ?帰ってもいいんですか?」
2人は口をそろえて言った。真治は当たり前じゃんとだけ言うと、そそくさと着替え始めた(一応着替えのブースみたいなところを高田が用意してくれていた。それすらもやってくれていなかったら、高田は完全に無能だ)。ブースから出てきた真治は、警察官の格好に戻っている。真治が2人の顔を一瞥すると、やはり意地悪くニンマリと笑った。
「早く戻らないと、マジでクビになっちまうぞ」
そうなのだ。それが特殊警察課なのだ。誰にも気づかれず(とは言い難いが)、誰からも気が付かれない(若干高田が目立っているが、特別公には出てこない)。日向も隆起も慌てて着替えて、そそくさと、出来るだけ素早く元の職場に戻って行った。それが特殊警察課なのだ。
このまま終わると、そういえばテロリスト云々はどうなったんだと思われるかもしれないので(気にしている人がいることを祈りつつ)、あの場で何が起こったのかだけは、事の顛末は話しておこう。
隆起とマイセルフが正面校舎の4階、用人の娘が人質に取られているクラスの隣のクラスにたどり着いた。が、事はすでに限界に達していた。真治がここの4階の見張りを倒すのに、テロリストのボスに連絡をしてしまっていたからだ。テロリストにとっては不用意な連絡だった。
「時間があまりないが、なんかいい案あるか?」
真治が来たばかりの隆起に尋ねてきた。もちろんそれは言葉ではない。真治と隆起は別々のクラスにいる(娘のクラスを挟んで隣どうしに)。隆起たちが来たクラスには真治のマイセルフ『アック』が代わりにいるのだ。マイセルフ同士は何も使わずに連絡でき、その連絡もメガネを通して持ち主たちにもできるのだ。
日向には何故、支給された携帯から連絡したのかと思うかもしれないが、マイセルフ同士だと全員に連絡してしまうので、近くに全員居る時はそれをしてもいいが、逆に場所が分からないときなどは控えた方がいいのだ(説明長!!)。邪魔をしてしまう場合があり、それは互いの任務失敗と、命取りになる可能性を増してしまうのだ(ハイリスクノーリターン)。
それはそうと、さっきの真治の質問。今来たばかりの隆起にそんなプランがあるはずもないが、そんなことを言っている場合ではない。日向も考えてはいるが、それがいい案かどうかの自信はない。
そんなことより、真治のプランを2人は聞きたかった。ぜひとも、聞きたかった。
「し・・・真治さんはどうですか?なんかプランはありますか?」
と、聞くと全員に真治の考えるそれが送られた。
再び、テロリストのボスに無線が入る。少し乱暴に声を荒げるボス。周りの部下と人質が、迷惑そうに横目でボスのことを見る。人質はともかくとして、部下にそんな目をさせるなよ。
「今度はなんなんだ?」
しつこい無線に、せっかく作った緊張感も台無しだ。ボスの怒りはそこだ。計画の邪魔になるから、という理由で部下の勝手に怒っている。という訳ではなかった。今この、ドラマティックな展開に、水を差されることにイラついているのだ。まるで、主人公にでもなったつもりだ。
「えーと、ボスに伝えとかなければならないことがありまして・・・」
無線からはえらく畏まった言い方で、部下からの声が聞こえてきた。・・・普通ですよ。ボスなんでしょ?普通は部下から連絡が入るときは、畏まった物言いするでしょ!?
「だから、緊急の回線を使ってまで言うことはなんなんだと聞いているんだ!」
まるで、本当のボス気取り(正真正銘ボスですが)。周りの部下たちも、その様子に聞こえないため息をついた。なぜ、そこまで尊敬も慕われもしていないのかというと、それはしょうがない。
「それはな・・・」
若干、無線からの声色が変わった。しかし、ボスはそのことに気が付いていない。気が付いていても、もはや手遅れ。どうすることもできなかっただろう。
「それは?」
ボスが素直に聞き返す。かなり今の物言いは失礼だと思うが、気が付いていない。気が付いて、ボス!!
「俺が本当の主人公なんだよ!!!」
無線機から召喚されたのは鼓膜が破れそうなほどのでかい声。もちろんその声の主は佐藤隆起(さとうりゅうき)だ。あまりに目立たないのでここで主張しておいた。その隆起は今どこにいるのかというと、すでに用人の娘のクラスの中にいた。ボスと、目が合っている。隆起も日向も真治も・・・みんなクラスの中に入っていた。マイセルフたちは外に待機させて。
「(出来るだけ)伏せろ!!!」
真治が叫んだ。もちろんそれは人質になった高校生徒たちにだ。生徒たちが反射的にしゃがむのを確認した時、この場で6人の男(?)たちが同時に動いた。
外に待機していたマイセルフたちが一斉に飛び込んだ。人質に取られた、その中でも特に、テロリストに直接拘束されている生徒たちの無事の確保を優先させた。反動を少なく、それでいて確実に生徒とテロリストを引きはがした。まずは2人。
真治と日向が共同でもう一人の生徒を助けつつ、一人のテロリストをまず、取り押さえた。
「へい」
隆起がハンドガンを構えた。やっと(本当にやっとガンアクションの一角が見えた)だ。隆起は後ろにいる2人の(マイセルフとアックが突き放した)テロリストを素早く撃ちぬいた。スポスポ・・・と乾いた音が聞こえたと思うと、その銃口を向けられたテロリストたちはほぼ同時に吹き飛んだ。もちろん、後ろにね。撃ち抜かれたのは肩だ。
特殊警察課に支給されるハンドガンは特注品の特注品。要はめちゃくちゃ弱い。ほとんど密着させても貫通しない程度の威力。でも痛い。怪我はする。こう見えて、隆起の銃の腕前は(こんな言い方は嫌いだが)神レベルだ。弾以下でなければ枠を通すことができる(ただし、距離10メートル以内)。
ボスが慌てた。ものすごく慌てていた。そもそもここに自分たち以外の人間がいること自体が不思議でならなかった。あわわあわわしているうちに、仲間がどんどん(ほぼ同意にだけど)やられていく。どこを狙えばいいのやら?手には立派なポンプ式ショットガンを大事そうに握っている。適当にぶっ放せば何かに当たるし、何に当たってとしても隆起たちに任務失敗と一生の後悔を植え付けられたというのに。この後すぐに、本当にあわわあわわ言うことにはなるが。
「あわわわわ(ちょっと違った)」
ボスの足元に、日向の『バディー』がいた。バディーはボスからショットガンを奪い取ると、股間を思いっきりひっぱたいた。隆起が痛そうに顔を歪めた。バディーは140cmと小柄だ。ボスも周りの女子高生とあまり変わらない身長で、隆起にも(出来るが)銃撃するのが難しかった。安全性を求めたら、デカいアックなどに注意が言っている隙に、バディーが動くのが一番適切だった。
「よし。高田さんに連絡だ」
これが事の顛末。隆起は大きく息をついた。ため息にも似た、だが、ため息とは似て非なる、自信に満ち溢れた呼吸だった。
次から新章に入ります。




