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松岡真治

真治のマイセルフ『グットアック』の活躍を見てください(#^.^#)

 真治はもう目の前まで来ていた。用人の娘が人質に取られている教室に。ここは正面校舎の4階。この建物にはテロリストが11人もいた。それが今はその教室に残っている4人のみ。真治と自身のマイセルフ『グットアック』の2人でやったのだ。

 真治は正面校舎に忍び込むなり、すぐさまアックと2手に別れた。真治の手にはアイスピックのような刃物。アイスピックよりはもっと細く、あまり殺傷能力はない。そのピックの入れ物の中には常に麻酔薬が付け込まれている。刺せば相手をその場で失神するほどの代物だ。

 真治自身の格闘能力は、実は隆起や日向とは比べ物にならないほど長けていた。なら、何故敢えて2人と違って武器を使用するのだろうか?単にそれはマニアだからだ。それに、加減も苦手なので、些細なことで手加減ができず、必要以上に相手を負傷させてしまうのだ。

 アックは真治とは違い、丸腰だ(そういえば、誰も使わないが小型の銃が支給されていた。隆起も日向もマイセルフたちも、別に丸腰ではなかった)。アックは身長200cmの巨漢だ。正確に程よくテロリストを無力化できる。やりすぎることは(多分)ない。

 アックにレーダーを持たせ、アックの視界からテロリストたちの居所を確かめる。一度見れば、基本、大体把握するが、移動などして大幅に位置が変わった奴などがいれば、すぐさまアックから視界が送られてくる。それでも、真治が戦闘状況に追い込まれているときなどは、よほどの緊急でなければ視界は送らない。戦闘の邪魔になるだけだから。

 ただ、初めの1階は2人で鎮圧することとなる。この階になぜか3人もテロリストがいた。

「いきなり面倒くさいな。多すぎだっての」

 テロリストたちは皆、手にマシンガンを持っている。レーダーでは確認できないが、丸腰ということはない。

 1階の間取りはこうだ。入るとすぐ、なぜか保健室がある。そこにはテロリストたちもいないようだ。保健室にあこがれはない。そんな場合でもない。それ以外はトイレと教室だけ。

 1人が、その保健室の前で見張っている。もう一人も廊下をうろうろしていて、その保健室の前にいる奴からは丸見えだ。あと一人は、教室の中を見回っている。まじめにやっている。立ち止まっていたりしていない。

「ならば・・・俺が廊下の奴を鎮圧するから、アックは保健室の奴を頼む。一瞬で行くぞ」

 真治はその言葉がまだ残っているうちに、保健室の前にいるテロリストの前を事もあろうか、大胆にも思いっきり通り過ぎた。当然、見つかった。

「おい!!!今、何か通り過ぎたぞ!!」

 保健室前のテロリストが廊下をうろうろしている仲間に叫んだ。叫んだとはいえ、2人の距離は近かったので無意識にその声は小さく、もう1人のテロリストには・・・ましてや上の階にいる仲間にはその声は届かなかった。真治が走りながらもニヤッと笑う。

 保健室前のテロリストは気が付いていなかった。あと数秒・・・あと数瞬で昼間っから眠りについてしまうことに。かなり強制的に。気が付くことすら敵わないが。男は、いつの間にか自宅にいた。窓から外を覗くも、その窓がいつもの場所でないところに付いていることには一切気が付いていない。

「あれ・・・?俺は何をしていたんだっけ?」

 テレビもついていない(設置すらされていない)。部屋には自分の体のみ。何もする気がなかった。希望も何もなかったから。命は人並みにあったが、その使い道がまるで分っていなかった。

「・・・・・・」

 外を見ていても何もなかった。やりたいことは見えてこない。男は目を閉じて眠ろうとした。しかし、男は眠れない。すでにここが夢の中だから。

 真治のことを目で追ってしまい、アックの存在が死角になってしまっていた。アックは何度も言うが200cm。そのアックの存在を死角にするために、わざと真治は敵に見つかるように走ったのだ。アックはその巨体からは想像できないスピードでテロリストに詰め寄る。

「・・・・・・」

 アックの左手が、男の首に巻きつく。頸部が砕けるか砕かれないかの瀬戸際の力で、しかし思いっきり。男の目は瞬きもできずに白目と化し、夢を見ることとなる。

「て・・・」

 その「て・・・」に続く言葉が「てめーーー」だったのか、「(い)ってー」のてーだったのかは確かめることもないだろう。真治は正確に太ももにある動脈に麻酔付きのピックを根元まで深々と挿し込んだ。男の顔が苦痛で歪む。ピックは細くとも注射針よりは太いので、それなりに痛いのだ。

「そのくらいは我慢しろよ。もう眠っちまうんだからさ」

 真治は、眠りに付く赤ちゃんを抱きかかえるようにテロリストを支え、そーと床に降ろした。いくら強力な薬だといっても、強い刺激を与えればすぐに起きてしまう。外傷はその太ももの刺し傷だけだから、体は元気なのだ。起きてしまったら、真治の強烈な右ストレートをお見舞いしなくてはならない。ほっとけば、数時間は眠り続けるのだから、ほっとこう。

 真治は、今眠らせたテロリストの拘束はアックに任せ、もう一人教室にいるテロリストに狙いを向けた。メガネから、アックの視界が送られてきた。テロリストは今まさにドアの前に来ていた。

「チャンス」

 アックに礼を言っている時間はない。ドアを開けられてしまったのではもう遅い。走った。いや、ただ走ったのではない・・・そう、走れ!!音も立てず、風も起こさず、景色はそのままに、真治が移動したこと以外の変化を起こさないように・・・走れ!!!

「何も・・・わ!!!」

 ドアを開けると、男が立っていた。間に合ったのだ、真治は。ドアまでの距離は、ざっと教室一つ分。10メートル前後を一瞬で縮めたのだ。その上、真治はかなり澄ました顔をしている。誰もその偉業を見てもいないし、痕跡すらも残していないというのに。・・・だからこそなのかもしれないが。

「何もなし。だな。・・・本当か?嘘だろ」

 またも真治はニコッと、笑った。テロリストの口元に人差し指を当てて「シー」といい、その男が反応を示す間も与えずに、首にピックを突き立てる。先ほどと同様、刺されるとすぐに眠りに落ち、その体をやはり優しく支える。

「このままの調子で2階も制圧だ」

「・・・・・・・」

 真治はまたまたニカッと笑う。アックは無反応。それでも笑った。

 テロリストの数はあと8人だが、用人の娘を人質に取ったクラスに4人いるのであとほかには4人。しかも、西校舎との渡り廊下に1人ずついるから見回りは2人。・・・意外としょぼいな。もっと大袈裟な人数にすればよかったか?初期設定ミスったな?

 今は2階には見張りのテロリストしかいない。こいつは簡単だ。そのテロリストの向こう側に、日向の顔がちらりと見えた。テロリストには気が付かれていない(それに気が付く真治はすごいな。日向も真治には気が付いていない)。

「日向の奴・・・もっと慎重にやれよ」

 アックを3階に向かわせ。真治はそっとそのテロリストに忍び寄り、後ろから静かに眠らせる。声を取り忘れた。

「ま、いいか」

 すぐさま、日向にメッセージを送った。日向がメッセージを読み、こっちを見てきたので手を振った。日向ももうじき西校舎の制圧ができそうだな。そう思いながら、3階へと走った。

 3階のテロリストは2人。1人はすでに深い眠りの中に落ちていて、教室の片隅で座らされていた。あんだけ椅子があるのに地べたに座らされているので、なんだか気の毒のようにも思える。まあ、息があるだけマシだろう。

 もう一人もアックがやっつけている最中だった。もはや、声は必要ない。静寂の中、まるで誰も入ったことのないような、深い・・・深い森の中のような静けさが校内を支配する。

 思わず真治はアックの視界を接続した。コネクション(あえて)。メガネに映し出されたのは、すでにアックの胸の中で苦辛の表情をしている男。それも次第に消え失せ、男は赤ちゃんが眠るような涼しい表情になっていった。

「死んでないよな?」

 そう思えるほど安らかな顔で目を瞑るテロリスト。微かに呼吸をしているのか体が動いている。ほっとしたが、その微妙な体の揺れも、アックがそう見えるように演出しているだけに思える。本当に殺してないよな?

 俺たち特殊警察課とはいえ、もちろん、死刑執行の権利なんか持たされていない。する能力、出来る能力はあるが、あるからこそ、殺してはいけないのだ。誰が、何を持って(法だが)人の生殺与奪を行えるのか?それがしたければ、もとより、違う道を歩んでいる。

 真治はアックと合流し、4階へと進んだ。

 もうすでに、テロリストたちはここにしかいない。正真正銘ここだけだ(時間的にはまだ西校舎に日向がこれから倒すであろうテロリストが1人残っているが)。

「さて、クラスに固まっている奴らは最後だとして・・・あの見張りの奴はどうしようかな?」

 見張り一人ぐらい今さらな感じもするが、その見張りは用人の娘がいるクラスを跨いでいかなければ捕らえられないのだ。見つかる可能性が高い。忍び足で娘のクラスの前まで行くと、やはり、難易度は高い。

 万が一、見つかりでもしたら、人質になっているクラスの誰かが確実に殺される。一人で乗り込んでも何とかなりそうだが一人でも死傷者が出たらアウトだ。そんなことでは、特殊警察課の存在意義がない。

「そ・・・そうだ」

 徐に、1階で奴らの仲間から奪い取った無線機を繋いだ。ボス(おそらく)が一瞬繋がった無線機に反応し、何もしゃべろうとしない無線機に不振がる。

「おい、何かあったのか?」

「い・・・いえ、間違えてスイッチ押しちゃいました」

 この時すでに、4階の渡り廊下を見張っている男は悶絶していた。真治は無線機片手に、それでも手際よくその男をがんじがらめにしていった。そしてすぐさま、娘がいるクラスのすぐ隣のクラスに立て籠もり、待った。

 見張りを倒した時点で、隆起、日向にはそのことは伝わっている。それぞれ、自分の役割が終了次第、正面校舎の4階に集まることになっているのだ。

 隆起はもう終わっていたが、少し距離があるので合流には少しだけ時間がかかる。日向は真隣りなので、もうここに着いている。

「あとは佐藤だけですね」

 日向とバディーは真治の隣に座り、見えないのに隣のクラスをまるで透視でもしているかのように見ようとしている。

「もう直来るだろ。・・・あ、今アックから連絡が入ったが、佐藤もマイセルフも合流したそうだぞ」

 全員揃ったところで、あとは簡単だ。真治は再び、ニヤッと笑う。


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