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日向純一

日向純一を覚えてやってください(#^.^#)

 日向は、少しだけ緊張気味で、不安げに自身のマイセルフ『バディー』のことを見た。バディーはいつものように平穏無事。何事もないように佇まっている。

 西校舎に乗り込んだ日向は、思い出したようにレーダーを取りだし、おぼつか無い手つきで操作する。バディーが見かねてそのレーダーを日向から奪い取り、正確に操作してあげた。

「センキュー、バディー」

 日向には、意外とそういうところがあった。何かするとき、必ず人よりも緊張してしまうのだ。それを必ずバディーがフォローする。まあ、他人から見れば情けないと思うかもしれないが、それが日向のスタイルなのだ。

 レーダーを確認すると、テロリストは西校舎には全部で5人。隆起が制圧した(時間的にはまだ終わっていない)東校舎のテロリストの数と同じだが、この校舎は東校舎とは圧倒的に様子が違っていた。

 東校舎はいわば、見張り灯。それは正面校舎と西校舎と離れて建設された校舎だからだ。西校舎は違う。正面校舎と行き来できるのだ。なので、この校舎にいるテロリストたちはそのほとんどが見回り。巡回している。

 日向は、校舎の外、校舎内からは絶対に見られない死角の中に潜伏、待機している。テロリストの1人が、すでに1階でうろうろしていた。ここも東校舎と違い、西と正面にいるテロリストたちは油断など一切していない。程よい緊張の中、神経を研ぎ澄ませながら見張っていた。

 今現在のテロリストたちの位置はこうだ。(西校舎は4階まである)1階に1人(1階は教室とトイレ)。2階に2人いて、こいつらは階段付近にいる。3階には1人。外の見張りをしている。最後の1人は4階にいる。こいつもうろうろしているようだ。4階には音楽室がある。

「ここは、全員鎮圧していくか?もしくは、どうするべきか?・・・やっぱ全員締め上げた方がいいと思うよな、バディー?お前はどう思う?」

 バディーは隆起のマイセルフなどと同じで、当たり前だが言葉を発しない。しかし、このバディーはかなり特殊で(変わっているのは日向なのだが)、日向の問いかけに『YES』と答えた。指で砂に文字を書いただけだが、普通のマイセルフはそのようなことはしない。

「やっぱりそう言っちゃうか、お前は」

 苦虫を噛み潰したような顔をする日向に、バディーは同情するように小さく頷いた。

「さて、・・・そろそろ隆起君から報告はないかな?」

 バディーを確認した。首を横に振る。まだか?少し経って、もう一度確認するも、慌てんな。時期が来ればこっちから言うよ。と言いたげなバディーが再び首を横に振った。レーダーを見ると、1人が1階に降りてきてしまった。うげっと舌を出す日向に、バディーが首を縦に振った。

「い・・・今かよ」

 バディーが首を縦に振ったのは、隆起が東校舎の見張りを倒した合図だ。今、誰も西校舎の出入り口を見張っているものはいない。レーダーには1人、出入り口付近に人がいることを示していた。もう1人は?近くにはいない。つまり、今しかない。

「ふーーーー、よし」

 日向は腹を括るように息を思いっきり吸い込んだ。肺が酸素で満たされ、胸からは不安と緊張が押し出されるのをイメージし、実感する。そして、一気に駆け出した。今潜んでいるところからその出入り口まで壁を伝って行かなければならない。問題はない。日向は風のように走りながらも、砂埃一つ立たせなかった。

「だ・・・」

 テロリストの一人が日向の姿を確認し、声を上げかけた瞬間、目の前に何かが飛んできたので言葉はそのまま喉の奥に押しつぶされた。顔にへばりついたその何かを取ろうともがこうとするも、もがく前に突き付けられたハンドガンに畏縮し、動くことが停止してしまった。

「なんだ?どうかしたか?」

 ラッキーなことに同じ1階にいた仲間が物音に気がつき、緊張を声に宿して近づいてきた。聞かれてもハンドガンを喉に突き付けられ、男には言葉を発することはできなかったが、それで異常が伝わるならよし。なんて思っていたテロリストだったが、次の瞬間わが耳と、わが口を疑って目が500円玉ほどに丸くなった。

 日向の口元が意地悪そうに歪んだ。もう1人のテロリストに答えたのは日向だ。日向は普通にこう答えた。

「だ・・・大丈夫だ。なんでもない」と。

 すると、「そうか」とだけ聞こえ、特に何も起こらなかった。それもそのはず。なぜか日向からは今、銃を突き付けている男の声が発せられたのだから。日向は男にべろを見せた。正しくはべろの上に乗っかったシールだ。

「これがあると、お前の声が出せるんだよ」

 日向は男にだけ聞こえるようにそう言い、突き付けた銃を剥がし、思いっきり男の頭を叩いた。死なない程度に。若干の血は出たものの、男は何も言えずに気絶した。日向に抱えられているので倒れることもできない。

 日向は気絶した男の顔に、いつまでもへばりついているバディーを睨み付けた。重いのだ。バディーは、自分で投げといて。と言いたげな雰囲気を出しているが、何も言わずに黙って男の顔から降りた。よしよし。と、笑いながら得意げな日向だが、すぐに真剣な顔つきに戻る。そして見た。そこは壁だが、その向こうにもう1人のテロリストがいる。

 声が聞こえた感じと、それから経過した時間から、日向はもう1人のテロリストが今どの辺にいるかの予測を立て、それは大体当たっていた。今仕留めたテロリストの拘束はバディーに任せて、日向はその男を追った。

 男は、階段に戻ろうとしながらも、各教室を見て回っていた。日向は柱の陰に隠れながら男に近づいていき、ハンドガンで男の足に狙いをつける。引き金をひけば、確実に当たる(支給された銃は隆起と同じ。小型でなるべく音が漏れないように配慮されている。その分、射程距離はイマイチ)。

「どうするべきか?」

 日向は男に、こともあろうかそのハンドガンを投げた。ハンドガンは滑るように廊下を伝い、テロリストの足元で止まる。男は教室の扉を閉めると、足元にあるハンドガンの存在に気が付いた。それを確認するために一瞬動きが止まった。手には取らなかったが、その確認に要した時間、わずか2秒。

 ハンドガンと気が付いた瞬間に、男は手にしていたマシンガンを構える。ハンドガンの落ちていた位置から、大体の来た方向を予測し、男はそのハンドガンを投げてきたであろう人間がいる方向を向いた。向いた先には何もない。あるのは、胸のあたりで固定していたはずのマシンガンだ。

 マシンガンが、男の意思に反してものすごい勢いで顔面にめり込んだ。男はそのまま日向に抱きかかえられる。鼻や口から血が流れ出すが、それすらも地面にたどり着くことは許されなかった。

「お前さんの声はもう手に入れたから、もう静かに眠っていていいよ」

 バディーが日向のハンドガンを拾い、日向の腰にあるホルスターに戻した。日向はバディーにウインクする。

 レーダーを確認すると、2階にいたはずの1人が、3階に上がっていた。この隙に2階に昇るも、ここでひとつ問題に気が付いた。2階に上ると、その階段からすぐに正面校舎への渡り廊下があり、その先に見張りが立っていた。日向は下の階を見た。1階はなぜかその渡り廊下に扉か何かがあり、それが閉まっていたからよかっただけか。

「もしくは、さっきの奴はそれを開けに来たのか?」

 戻り、扉を開けるべきか?関係なければかなりのリスクだ。そう思っていたら、突然バディーが寄ってきた。誰かからの連絡の合図だ。とにかく携帯(特殊警察課の特殊携帯だ)を開くとメッセージが入っていた。

「真治さんからだ。今は連絡禁止だというのに」

 内容はこうだ。2階の連絡通路の見張りは倒した。とのことだ。正面校舎のほうを恐る恐る覗いてみると、遠くで真治が手を振っていた。ため息が出た。心配して損したというか、ありがたいというべきか。

「一応返事は返しておくか。あ・・・りが・・・と・・・うござい・・・ま・・・す・・・と」

 一応メッセージを送った後で真治に手を振っておいた。後でなんか言われてもめんどくさそうだったので。レーダーを見るとテロリストは3階に2人と4階に1人になっていた。一気に決めに行くかな?

 3階にいる1人は見張り役だ。そいつはバディーに任せればいい。あと一人は、今、階段を降りようとしていた。日向は丁度その階段の陰に隠れている(3階に着く手前)。テロリストは全く気が付いていない。

 テロリストが階段に差し掛かった時、バディーと目があった。目があったといっても、バディーには目がない。眼っぽいところと目があったというべきか?テロリストが反応を見せる前に、バディーはものすごい勢いでその男の脇を通り抜けて行った。

「ちょ・・・ちょっと待て!!」

「行かせてやってくれないかなー」

 バディーを目で追っていたテロリストの肩を掴むと、膝裏を思いっきり蹴り込み、そのまま床に叩き付けた。床に血が広がる。思わず、「やりすぎた」と、口走ってしまったが問題なさそうだ。

 あのメガネが反応し、バディーも目的を果たしたようだ。あいつのほうがやりすぎていないか心配だったが、バディーの視界を確認すると、気絶した(ように見える)テロリストが見えたので安心することにした。声も入手したようだし。

「残るはあと1人か・・・」

 レーダーを見ると、そいつは音楽室にいるみたいだ。厄介だな。なんて言ってみたが、そうでもないかな?バディーとやれば問題ない。すぐさま4階に行く。正面校舎に続く通路の見張りは、すでに倒されていた。

「さすが真治さん。仕事がはえーや。俺も真治さんを見習って」

 音楽室もドアは2つあった。後ろと前。犯人は前の扉の近くにいる。バディーを後ろのドアからそっと忍ばせる。テロリストはそのことに気が付いていない。その男は、まるで黄昏るようにピアノの前に立ち尽くし、窓の外を遠く眺めていた。

 そのままバディーにやらせようと思ったが、その様子に憤慨した日向は、自分の手でケリをつけようと決意する。

 ドアを思いっきり開けた。テロリストは慌てて振り向くも、なぜか体がそれ以上動けなくなってしまった。

「なんだ、こいつは?」

「俺のバディーだよ」

 答えることのできないバディーの代わりに、日向が答えた。その声には怒りが混じりすぎていた。男の犯罪を犯したということ。その罪深さの認識不足が日向を完璧に怒らせた。

 羽交い絞めにするバディーの拘束を剥がすことは、人間には不可能だ。解けるのは日向だけ。その日向の拳が男の頬に突き刺さる。それも1撃ではない。数えきれないほど立て続けに。矢継ぎ早といってもいい。その拳は矢のように鋭く、弓よりも強靭に放たれる。

「・・・」

 その拳を止めるものがいた。バディーだ。日向は直感でこの男の『死』を連想してしまった。殺そうとすら思ってしまった。その非情な意思が、バディーに日向の拳を止めさせた。バディーには気持ちがない。機械だから。だから、その行動は、単に『誰であろうと殺してはいけない』という命令に従っただけ。

「バディー、ありがとうな」

 日向は落胆する。自分自身の未熟さにいろいろな絶望感に苛まれた。でも、日向は顔を上げた。まだ任務は終わっていない。それに、悲しみと絶望はバディーも半分味わってくれている。

日向はテロリストに一言、謝った。

「やりすぎちゃったぜ。わりー」


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