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太陽の金烏、星辰の覇道 ― アレクサンドロスと神武、女神が繋いだ東西の伝説 ―  作者: 如月妙美


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第七章:神武天皇の東征

 物語は、時間という名の川を遡り、太古の神代へと回帰する。  日向の地を出発したカムヤマトイワレビコ(後の神武天皇)は、数多の試練を越え、ようやく大和の入り口へと差し掛かっていた。しかし、その道のりは死と隣り合わせであった。東へと向かう旅は、常に未知の恐怖との対峙であった。

 生駒山を越えようとした軍勢は、長髄彦ながすねひこ率いる精強な土着勢力の激しい抵抗に遭った。彼らは地元の地理を熟知し、神武の軍を翻弄した。この戦いで、神武は敬愛する兄、五瀬命いつせのみことを失う。  血を流し、息絶え絶えの兄は、最期に神武の腕の中でこう遺した。 「我らは日の御子だ。日に向かって戦うのは、天の理に背いている。太陽は常に、背中から私たちを照らさねばならぬ。日を背にして戦わねば、勝利は掴めぬのだ。弟よ、悔いるな。太陽に従え。自らの影を前に投げて進むのだ」

 神武は、慟哭を胸に秘め、軍を一度退かせた。彼は、自らの力だけで進もうとした傲慢さを恥じ、自然の摂理に従うことを決意した。肉親の死という代償を払い、彼は「個人の武」から「神の意志の代行者」へと進化しなければならなかった。  彼は紀伊半島を大きく迂回し、険しき熊野の山中から大和を目指す、常識外れの決断を下す。それは、死の淵を通って再生を求める「黄泉がえり」の旅でもあった。

 だが、当時の熊野は「死者の国(根の国)」と「生者の国」が入り混じる、混沌とした魔の領域であった。一歩足を踏み入れれば、大気は粘り気を帯び、樹木は侵入者を拒むように枝をくねらせ、奇妙な病を振りまく。  突如として発生した濃い霧は、兵士たちの五感を奪い、森の奥からは魔物たちの嘲笑うような声が響いた。兵士たちは幻覚を見、互いに剣を向け合うほどの狂気に陥った。恐怖が物理的な重みとなって、彼らの肩にのしかかった。

「神よ……天照大神よ。私の志は、この深い闇の中で朽ち果てるのが運命なのですか? 兄の死は、無駄だったのですか? 私が選んだ道は、ただの破滅への誘いだったのか!」

 神武は、かつてアレクサンドロスが砂漠で行ったように、自らの剣を杖に、湿った土の上に跪いた。周囲の兵士たちは毒気に当てられ、次々と意識を失い、死の沈黙が軍を支配しようとしていた。神武自身も、意識の混濁の中で「死の王」が自分を招く声を聞いていた。冷たい泥が彼の頬を汚し、絶望がその心を侵食しようとしていた。

 その時、森の最深部、霧の向こう側から、すべての色を塗り替えるような銀色の光が漏れ出してきた。


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