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太陽の金烏、星辰の覇道 ― アレクサンドロスと神武、女神が繋いだ東西の伝説 ―  作者: 如月妙美


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第二章:砂漠での試練

 アレクサンドロスの軍勢は、インダス川の激流を越え、象兵の脅威を退けたものの、自然という名の神の怒りに直面していた。帰還の路として彼らが選ばされたのは、かつてセミラミス女王やキュロス大王ですら全滅を余儀なくされたという、呪われた地――ゲディロシア砂漠であった。

 そこは、生命の気配が一切絶たれた、死の静寂が支配する空間であった。  日中の太陽は無慈悲な処刑人のように照りつけ、兵士たちの肉から水分を奪い、思考を焼き尽くした。足元の砂は、細かいガラスの破片が熱せられたかのように軍靴の底を蝕み、一歩進むごとに骨の軋む音が聞こえるようであった。あまりの暑さに、金属の鎧は兵士たちの肌を焼き、重い盾を投げ捨てる者が続出した。喉の渇きは、次第に幻覚を見せ始め、砂丘が波打つ水面に見えるという「砂漠の呪い」が蔓延した。

「水だ……。一滴でいい、水をくれ……」  あちこちで、誇り高きマケドニアの兵士たちが、まるで力尽きた獣のように砂の上に崩れ落ちていく。その目は混濁し、もはや故郷の家族の名を呼ぶ気力さえ失われていた。愛馬ブケファロスさえも、その逞しい脚を震わせ、苦しげに鼻を鳴らしていた。

 アレクサンドロス自身も、その美貌は煤と日焼けで覆われ、唇は深くひび割れていた。ある日、数少ない斥候が岩の隙間に溜まったわずかな泥水を、自らの兜に汲んで王に捧げた。アレクサンドロスはその水を見つめた。それは、彼の全帝国よりも価値のある「生命」そのものであった。  しかし、彼はそれを受け取ると、数千の兵士が見守る前で、乾いた砂の上へと容赦なくぶちまけた。

「皆が飲めぬなら、私も飲まぬ! 私が渇くのは、お前たちの魂が渇いているからだ! 私たちは一つの運命を共有する家族ではないか! この渇きこそが、我らの絆の証だ!」

 その狂気じみた高潔さは、兵士たちの消えかけた闘志に火を灯したが、肉体の限界は刻一刻と迫っていた。  突如、地平線から巨大な赤黒い壁が立ち上がった。砂嵐である。咆哮を上げる風が、視界を、音を、そして人間の存在そのものをこの世から抹消しようと襲いかかってきた。砂の礫が皮膚を裂き、呼吸するたびに肺が熱い灰で満たされるような苦しみ。兵士たちは互いに馬の尾や仲間の帯を握りしめ、砂の波濤に飲み込まれまいとした。

「陣を組め! 盾を重ねろ! 互いの腕を離すな! 砂の海に沈むな!」  アレクサンドロスの叫びも、荒れ狂う風の渦に飲み込まれた。  数時間、あるいは数日か。嵐が去った後、そこに残されたのは、隊列を完全に乱し、方向感覚を喪失した、絶望的な群れであった。地図は砂に埋もれ、案内人たちは砂の海に沈んだ。北極星すらも薄い霞に覆われ、彼らは自らがどこに立ち、どこへ向かっているのかさえ分からなくなっていた。周囲に広がるのは、見渡す限りの無慈悲な砂のうねりだけであった。


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