附章:物語の真髄
文化とは、孤立した点ではない。 それは、シルクロードを伝う絹の糸のように、あるいは黒潮に乗って流れ着く異国の果実のように、絶えず混ざり合い、変容し、より高次の美へと到達しようとする、生命の営みそのものである。
持統女帝が、西方の王の伝説を自国の始祖の物語に重ね合わせたのは、単なる情報の模倣や盗用ではない。それは、人類が数万年をかけて磨き上げてきた「英雄という名の魂の原型」に対する、最高級の共鳴であった。 私たちが他者の物語に感動するとき、私たちは自分自身の可能性に触れているのだ。他者の成功は、私たちの可能性の証明でもある。
イナンナと天照。 八咫烏と黄金の鵄。 これらは、別々の神ではない。 それは、人間が「闇の中でも光を失わない」という誓いを、それぞれの場所で、それぞれの言葉で、必死に表現したものである。 私たちは、たとえ言葉が通じずとも、肌の色が異なろうとも、同じ一つの「導き」を信じることができる。その共通言語こそが、神話なのだ。
それは、この混乱に満ちた地上で、正しい道を見つけ出し、隣人を愛し、平和な未来を築くという、最も美しく、最も困難な「聖業」に他ならない。英雄とは、剣を持つ者のことではなく、その重荷を背負い、それでもなお一歩を踏み出す者のことなのだ。貴方の日常の戦いの中にこそ、神武やアレクサンドロスの精神は宿っている。




