序章:遥かなる伝承の始まり
宇宙がまだ若く、神々の吐息が風となって地上を吹き抜けていた頃。世界は今よりもずっと広く、そして密やかであった。 東の果てには、青藍の海から黄金の円盤が競り上がる「陽の昇る国」があり、西の果てには、琥珀色の地平線に火の玉が沈みゆく「陽の降る国」があった。その間には、雲を突く峻厳な山脈、命を拒む無辺の砂漠、転じて底知れぬ深度を持つ紺碧の海が幾重にも横たわり、文明の種火たちは互いの光を知らぬまま、孤独に燃えていた。しかし、見えない糸はすでに張り巡らされていた。砂漠の隊商が運ぶスパイスの香りのように、言葉にできない予感が東西を繋ごうとしていた。
しかし、天空の階に座し、星々の運行を掌る神々にとって、地上の距離など意味をなさぬ。 メソポタミアの荒野で、明けの明星と宵の明星を従え、愛と戦い、そして変容を司った女神イナンナ。彼女の眼差しは、西の果てから東の果てまでを一望に収めていた。彼女は時として、眩い黄金の翼を持つ鳥へとその身を変え、時空の裂け目を越えて東へと飛翔した。そこでは、彼女は「天照」という名で称えられ、八百万の神々の頂点に君臨する太陽の化身として崇められた。女神の翼が羽ばたくたび、西の叡智は光の粒子となって東へ降り注ぎ、東の霊性は祈りの声となって西へこだました。
これは、同じ一つの「至高の導き」によって運命を切り拓いた、二人の偉大なる王の物語である。 西の覇者アレクサンドロス。東の始祖神武天皇。 時代も場所も異なる彼らの足跡を、一本の黄金の糸で縫い合わせたのは、漆黒の羽に太陽의 光を宿し、三本の足で天・地・人を支える霊鳥――八咫烏であった。
物語は、乾いた砂漠の熱風と、湿り気を帯びた霊峰の霧が混じり合う、神話の深淵より幕を開ける。




