その3 空室に棲むモノ
K市の市営団地。取り壊しが決まっており、残り3世帯しか入っていないのだが、空き室に灯りがともることがある。不法滞在を疑った市の管理者が灯りのついているときに乗り込んだところ、部屋は真っ暗で空っぽだったそうだ。確かに外からは黄色い光が見えていたのに。
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同じ団地の話。あるときボヤ騒ぎがあった。火元は空き室。煙に気づいた近隣住民からの通報を受け、消防車が駆けつけたときには、部屋は煤で黒く変色しており誰もいなかった。結局、原因不明で処理された。
この団地の敷地内には赤い鳥居の小さな祠があるのだが、由来については失われている。
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K市での案件について社内で担当者が募集されたのを願ってもない機会ととらえ、私は手を挙げました。あの峠での妙な実体験について真相を知りたいという思いがあったからです。しかし、ひとりで峠に行くことは正直できませんでした。怖かったのです。かと言って、誰かを連れて行くことはできません。またほかの誰かが上司のようになったら? そこで、秋田県に出入りして怪談を収集することで、なにかがつかめるのではないかというはかない望みを抱いていました。
先のふたつの怪談のうち、はじめのものについては、実は自ら見つけた体験です。
町外れの台地に、その市営団地はありました。築数十年はいっているでしょう。薄汚れた白壁に、黒い窓ガラスが上下左右にずらりと並んでいます。5階建てで、各階10戸。建物の向かって右手側には、K市のライフラインであるK川の流れを望んでいます。
大きな建物のほとんどの窓にカーテンがかかっていないことが不思議で、仕事の合間の雑談に取引相手に訊いてみると、すでに取り壊しが決まっていて、住人の多くが退去済みだとのこと。昼間だというのに暗い穴のような空き室が並んでいる理由に納得したのですが、奇妙なことに気がつきました。
初秋のその日、仕事が長引き、終わりどきには日が暮れていました。車で町をあとにしようとすると、前方にあの団地が見えました。
すると、すべての窓に灯りがともっていたのです。
あれ、と思い、通り過ぎてからバックミラー越しに見ると、やはりともっています。どの部屋も一様の白い光。もちろんなにかのメンテナンスかもしれない。しかし、取り壊しが決まっているのにいまさら電灯のメンテナンスというのもおかしな話です。
次の機会に、私は仕事でかかわった人や昼食で訪れた店の人たちにあの団地についての話題を振ってみました。ところが「住んでいる人を知っていますか」と訊いても「さあ、知りませんね」「会ったことはないですねえ」と首をかしげるばかり。誰も出入りする人を見たことがない。不審者やそれに関する事件もない。それでも夜になると、全ての窓に灯りがともることがありました。
粘り強く団地について尋ねていくうちに、数週間ほどのあいだに奇妙な噂がぽつりぽつりと集まってきたのです。先に挙げたふたつ以外にめぼしいものにはこんなものがありました。




