悪役令嬢が高みの見物をするのは、ブラック企業が開催するノーデスゲーム ~弱者の命の尊さを知るためという一応の名目を軽んじて楽しんでいる悪役令嬢どもを、力でわからせる~
ブラック企業は侵略国家を参考にしました。
あなた達は、片や地位が高い側で、片や酷使される底辺の側だ。
そしてあなた達は知っている。
敗者に死が待っているのがデスゲームだということを。
XX
あなた達の出会い。
それは、ブラック企業が某市で開催したデスゲームにおいてだった。
この日のデスゲームでは、障害物競争がおこなわれた。
十数名の参加者が特設会場で競う。
参加者は皆、それなりに容姿の良い少女達だった。
全員が、運営から与えられた同じ衣装を着ている。白を基調に緑の襟や袖、金色のボタンがついた、マーチングバンドを思わせる衣装だ。
彼女達に人権は保証されない。彼女達は賭けの対象でしかない。違法な契約を、ブラック企業に結ばされている。
デスゲームで勝利すれば大金が得られると、彼女達はブラック企業の社員に聞かされた。
ただし、敗北した際については、口頭での説明は一切なかった。
そんな彼女達のデスレースを、モニター越しで狂乱的な観客達……若いながらも権力を持ってしまった令嬢達が、見物する。
一応、観戦する令嬢達には、弱者の命の尊さを知るため、という名目があった。しかし、令嬢の多くが、弱者を醜い道具のようにしか思っていない。
デスレースでは数名の脱落者が出た。
彼女達は能力で劣っていたのかもしれないし、運が悪かったのかもしれない。
速やかに敗北者達は、勝者とは異なる場所へと案内される。ちなみにその引率者は、ブラック企業の下請けのブラック企業の従業員であった。
途中、待合室に留まることになった。そこでは敗北者が、デスゲームって割にそれほど危険じゃなかったよねー、なんて話したりもしていた。
十数分置きに、引率者が待合室に戻って来る。そのたびに敗北者が一人ずつ、別の場所に連れて行かれる。
あなた達のうちの一人……長めの髪を一本の三つ編みにした少女も、この時は敗北者のうちの一人だった。
三つ編みの少女は、通路を進んだ先にあった個室に案内された。引率者に、後ろから押されるように中へ入れられる。
扉が施錠された。
彼女は狭い部屋の中を見る。無機質な床の中央には、発芽のように設置された監視カメラだけが存在した。
あなた達の片方がこのカメラのレンズに映り、もう片方がカメラの映像をモニターで観ている。
そんな構図。
「何なの、この部屋……」
少女が独り呟く。声は少し反響していた。
この部屋は3メートル四方ほどしかないのに、天井が異常に高い。
不自然な構造に嫌な予感がして、つい天井を見上げた。
「え……っ?」
恐ろしいものが視界に入る。
銀色の鋭い針が、大量に並ぶ。
針は、人間を串刺しにするために用意されたもの。
当然あなた達には分かる。
ここは処刑場だ。
間違いない。
鈍い音をあなた達は聞いた。
起動音だ。
天井が徐々に下がっているのが分かった。
「いやああああああああッ!」
叫ぶ少女は取り乱す。急いで扉に駆け寄った。
「ねえッ! ここから出してッ!」
何度も扉を叩いたが、無反応だった。
扉には取っ手も無い。
扉を押しつけても全く動かない。
「ああんっ! もうっ!」
三つ編みの少女は扉に見切りをつけて、今度は床に座り込んで監視カメラのレンズに顔を近づけた。
「このカメラで見てるんでしょうッ! お願いっ、助けてっ!」
やはり反応が無い。
極限状態の彼女は、最終手段に出た。監視カメラに自らのミニスカートを被せ、股を大胆に開いてレンズに押しつける。
「ほら、こういうのが見たかったんでしょうっ! 私、こんなにかわいいパンツをはいてるんだよ? それなのに殺すの? 一回失敗しただけで命を取られるなんて、おかしいよねッ?」
彼女は必死の訴えを飛ばす。
淡い緑のチェック柄ショーツ。
白いリボンや繊細なレース。
ブラック企業の建物内で着替えたマーチングバンド衣装とは違い、この下着は、最初から穿いていたものだ。
とにかくカメラへと下着を押しつけて、彼女は同情を誘った。
しかし天井は止まらない。
敗北者の死期が刻々と近づく。
針との距離は、当初よりもっと低い。立ち上がって跳躍したら、刺さってしまう高さだ。
少女はこれ以上下着を見せても無駄と考え、少し下がって土下座した。
「お願いしますッ! 助けて下さいッ! 助けてくれたらなんでもしますからぁ~っ!」
もう立てない。
立ったら、あの鋭い針が刺さる。
立つ気力もない。
涙が止まらない。
「うああああああああああああッ!」
断末魔……になるはずだった、悲痛な叫び。
彼女は理解に時間が掛かった。
「……え? ……あれっ?」
不意に止まった。
寸前で止まった。
あの扉が開いた。
希望が生まれた。
少女は動けた。自分の命を守るため、急ぐしかなかった。
匍匐前進で一目散に扉へ向かう。デスレースに参加していた時よりも動きが機敏だったかもしれない。
滑り込むようにして、少女は狭まった扉から脱出した。
XX
生還した三つ編みの少女は、部屋の外で契約書にサインした。それには、違反をしたら多額の罰金を徴収するなど、圧倒的に不利な内容が書かれていたが、承諾するしかなかった。
ともあれ、彼女は幸運にも、令嬢の一人によって命を保証された。
つまり、あなた達が買った者と買われた者の関係になった瞬間だった。
あなた達も知っての通り、デスゲームの敗者には死が待っている。
だが、例外もある。
むしろ、あなた達の関わるブラック企業が主催するデスゲームでは、救済される場合が多い。
あの処刑場では最初から、ギリギリで天井が止まる仕組みになっている。その時に令嬢が大金を積んで対象者を買うこともあるし、運営側が命を助けてやったと恩を売り、国内外への人身売買を強要される場合もある。
もちろん、運営が気に入らない相手だったら、処刑場で容赦なく殺す。死後に使える部位をバラ売りすることだってある。
それがこのブラック企業の残虐な手口で、すでに何十人もの命を奪っている。
ブラック企業としては、
「デスゲームの参加者とは事前に契約を交わしているので、違法ではない」
こう主張する。
運営にとって、死体の数が多ければ多いほど、デスゲームのことが表社会に広まる危険性が増える。それなら、殺害せず人身売買に回したほうが儲かる。
デスゲームの観客達にとっても、参加者達が喚いたり命乞いしたりといった無様な姿を見たいのであって、殺されるところまで嬉々として見たいという異常者は少ない。
よって、なるべく人を殺さない優しいデスゲームで、ブラック企業は利益を得ていた。自分達が得するためだったら、野心を持つブラック企業は嘘をつくことをためらわない。
『死の淵に立たされた少女が、彼女を気に入った令嬢に助けられ、使用人として雇われた』
これだけ聞けば、“いい話”だが、実際は欲望と打算にまみれた取引の結果に過ぎない。
ともあれ、あなた達は幸せな生活を手に入れることが出来たのだった。
XX
「お嬢様。命を救って頂き、ありがとうございました。これからは誠心誠意、貴女様にお仕えさせて頂きます」
令嬢の侍女になった少女。
三つ編みの髪型はそのままに、肌をほとんど隠した黒いメイド服に身を包む。
「ええ。貴女には期待しているわ。よろしくね」
侍女の主になった令嬢。
デスゲーム観戦者の一人でもあり、令嬢らしい高貴な雰囲気と際立つ美貌を併せ持つ。
対照的な身分のあなた達が、大きな屋敷の中で何不自由なく暮らしていた。
そんなある日、あなた達のうち、位の高いほうが話を切り出す。
「今度、“企業”からの指示で、侍女をデスゲームに送り込むことになったから、ちょっと参加してきてもらえるかしら?」
「えっ、デスゲームッ?」
あなた達のうち、位の低いほうが過敏に反応する。
処刑されかけた瞬間を思い出したのだろう。令嬢には及ばないものの、それなりに整った顔が歪んでいた。
「――どうしてなんですかお嬢様ッ! 私、もうあんなのに参加したくありませんっ!」
本音を叫ぶ泣き顔、それを受ける困り顔が、向かい合う。
「でも、もう、決定してしまったの……。大丈夫よ、終了後の罰ゲームになったら、またお金を積んで助けてあげられるから。ゲーム中に命を落としたら助けられないけど……」
「お嬢様っ! 私、何かいけないことでもしましたかっ? お願いですからデスゲームだけはお許し下さいッ!」
侍女は強く頭を下げた。
「……貴女、あの時、助けてくれたらなんでもするって……言ったわよね?」
主の言葉によって、侍女が平時の服従心を取り戻す。
あなた達の無言の時間は長続きしなかった。
「そうでした。私はあの時、この救って頂いた命を、お嬢様に捧げることを決意したのでした。――すみませんでした、お嬢様。私はデスゲームに参加します。日程をお教え下さい。おこなわれるのは、いつでしょうか?」
侍女が高貴な顔を見せる。
令嬢のほうは意志が弱まる。
やがて、令嬢が不意打ちの笑顔を見せた。
「ごめんなさいねー、今の、冗談!」
「冗談、で、ございますでしょうか?」
侍女は呆気に取られる。
「ええそうよ。だから今のは、聞かなかったことにしてちょうだいね」
「はぁ……分かりました、お嬢様」
お互いに和やかな雰囲気を作って、普段の日常に戻った。
だが次の土曜日、あなた達がお互い顔を合わすことはなかった。
XX
音信不通。
不安しかない。
主は侍女を置いて、どこに行ったのか?
当人である令嬢の主は、もちろん分かっている。
侍女のほうは知らない。
しかし、侍女にも推測は出来る。
翌日の日曜日は、少し雪が降っていた。
そんな時に、あなた達は玄関で再会した。
「ただいま帰ったわ」
「お嬢様っ!」
あなた達のうち、帰宅した主のほうは、顔や腕に絆創膏を貼っていた。
「どうされたのですか、そのお怪我はッ?」
「例の件でちょっとね……」
普段から髪を三つ編みにしている侍女はともかく、主も三つ編みにしていたのが不自然だった。
「やっぱり私の代わりにデスゲームに行ってたんですか? 私なら参加する覚悟は出来ていましたのに!」
「運動神経が悪い貴女よりも、体力に自信がある私が参加したほうが、生存率は上がるじゃない?」
そう言って、令嬢は三つ編みの束を手に取って強調する。
「髪型を変えて、適当に侍女として装っていたら、問題なく参加出来てしまったの。あの運営、対応が雑過ぎないかしら……」
「……ありがとうございました、お嬢様。ご無事で何よりです……っ!」
あなた達はしばらく抱き合ってから、リビングに移動した。
「お嬢様。今回のデスゲームは過酷だったのですか?」
「そんなことはないわ。デスゲームでの怪我はほとんどなかったんだけど、クリア後にね、観客の令嬢達が私を暴行しに来て、この有様になったのよ」
ソファに座る令嬢のほうが、侍女に用意してもらった紅茶に口をつける。
「彼女達がね、ゲームに参加させた侍女を労わっていたのなら、私も同じ令嬢として、我慢したでしょう。けれど彼女達、自分の侍女が私に負けて、自尊心を傷つけられたことに怒っていたのよ!」
語る令嬢自身も、怒りを顔に出す。
「私は四人もの恥知らずを相手に、常に優勢に戦っていたわね。……こんな表現を使うのは令嬢としては相応しくないけれど、――彼女達をボコボコにしてやったわ。デスゲーム参加時よりも熱が入っていたんだから」
「さすがはお嬢様です」
侍女のほうが両手で感動の仰ぎをする。
「途中、スタッフが止めに来てくれたの。その時に私が侍女でないことが判明したら、彼女達の顔がどんどん青ざめていったのよ。最後に私が、『皆さん、次からはご一緒に参加しましょうね』って伝えた時の顔は、貴女にも見せてあげたいぐらいに楽しかったわ」
「そうですか……。お疲れ様でした」
侍女はいい顔をしなかった。
「それで、貴女にデスゲーム生還のご褒美を、もらいたいのよ。いいかしら?」
「なんでしょうか、お嬢様」
「……貴女があの処刑場にいた時、監視カメラにやっていたことを、私にやってくれる?」
恥を忍んで令嬢は言った。あれがなければ、救済を名乗り出ることはなかったかもしれないぐらい、令嬢にとっては印象的な行動だった。
「そのくらいならお安い御用です。ただ、お嬢様のお怪我に障るかもしれませんし、はしたない行為になりますが……」
「はしたなさは、むしろ大歓迎よ?」
飲みかけの紅茶を置いて、さっそく令嬢は床でしゃがんだ。
令状を見下ろす侍女は、上からロングスカートを被せた。今日の下着を密着させる。
あなた達は少しの間だけ、敗北者と監視カメラの関係を再現した。
昨日と違い、今日の下着はメイドエプロンと同じ色だった。
「……私って、気持ち悪いかしら?」
終了後、ソファーに座って令嬢は聞いた。
「お嬢様は、素敵なお方です。このぐらいで気持ち悪いということはありませんし、気持ち悪いと言うのなら、それはあのブラック企業やお嬢様を怪我させた人達です」
侍女は正しい姿勢で立ったまま、本心を伝えた。
あなた達は、出会いをくれたブラック企業のことが大嫌いだった。
XX
あのデスゲームを開催していたブラック企業は、経営赤字により倒産したらしい。後日、あなた達はそんな情報を知った。
それは表向きの発表で、恐らくは虚偽だろう。奴隷売買の契約や臓器の転売等の利益で、経営は安定していたはずだ。
あのブラック企業は今もどこかで、名を変え形を変え、存続しているに違いない。
そんなことは、あなた達にとってはどうでもいい話だ。
「おはようございます、お嬢様」
「おはよう。今日は天気も良いし、二人でどこかに出掛けましょうか」
「はい。お嬢様とご一緒でしたら、どこへでもお供いたします」
「例えデスゲームの会場でも?」
令嬢はふざけた顔で言った。
「それはご遠慮したいです。そんなところよりも、ショッピングモールのほうがずっと楽しめると思います」
「そうね」
数時間後、あなた達はショッピングモールにて、恋人のように手を繋ぎながら、有意義な時間を過ごした。
あなた達はお互いの立場を越えて、適切かつ順調に暮らしている。
(終わり)
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
デスゲームで、かわいいおにゃのこ達が誰も死なないで済む話が好きです。
ということで、デスゲーム関連の他作品『ミツミツミーツ!』シリーズの『リョナリョナリョーナ!』も、良かったらお読み下さい。




