生誕~わたしという怪物
ジャンル迷子です。
ネタ的には異能力アクションなんだけど、このシーンだけで見るとローファン?
気が付いたらわたしは横になっていた。頬に触れる冷たい感触。
(……わたし、寝てた……?)
霞かかる様な意識が明瞭になるに順い、頬に触れるそれがどこかごつごつした物であることを理解する。 だが、まぶたを開けても視界はぼやけていた。
少し冷えた空気、風。 それに乗る草の匂いがここが外なのだと教えてくれる。 しかしそれとは違うこの鼻に衝く様な臭いはなんなのか。
(……外? でもどうして……?)
身を起こしながら考える。 視界はまだハッキリしない。 辺りを見回して見ても、ここが家でない事くらいしか判別できない。
記憶の最後は……下校中?
部活が終わって、みんなで帰って、寄り道して買ったおそろいのリボン。 それから……?
目を擦る。 少し乱暴に。 漸く景色を映し出す視界。 そこにある人影。
「……満月?」
口にするのは親友の名。 目に写るのは別の友人の顔。
「真紀ちん?」
声をかけてやっと気づく。
陸橋の柱に寄りかかるように座りこむ友人の口と腹からの、大量の出血。
生気のない瞳は中空へ向けられ、とても生きているようには見えない。
起こしかけていた身体が崩れ、パシャッと水溜りに手が入る。
赤い、赤い、絵の具みたいな真紅の水溜り。 ぬるりとした泥のような感触の水溜り。
「!!!??」
声は出ない。
口が動く自覚はあるのに声は出ない。 その水溜りの傍に倒れている誰かに気づいてしまったから。
「……か、な……」
掠れた声。 自分の出したそれとは思えない、声。
少女 ――香奈子からの反応はない。 反応があるはずもない。 出来るはずがない。
彼女は口から喉元にかけて、何かに喰われたように抉られてしまっていたから。
後ずさる。 後ずさる。
足にも腰にも力は入らない。
でも退がる。 赤い水が、ぬるりとしたそれが手に、足にこびりつく。
「……みつ……き」
視界に入る、後退したからこそ視界に入った座り込む親友は……彼女は二人ほど酷い状態には見えない。
青白い顔を、ただこちらに向けている。 無表情に、ただ無表情に。
「……みつき……、ねぇ、満月……! 何、何なのっ、……何の冗談――!」
一見生きているように見えてしまった親友の元へ、這いつくばりながらも近づき、その肩を掴んだ時、わたしは気づいた。 茂みに隠れる様に見えていなかったそこ ――彼女の下半身に当たる部分は既になく、そこからは臓腑が零れ出していたのだ。
「――みつ……!!」
声を荒げた、いや荒げようとした瞬間、パキッと軽い音が聞こえた。 それはとても嫌な、本来わたしが感じる事のないような感触をわたしに与え、わたしは思わず手を離した。
それまで、辛うじて自立していたその身体は、支えるべき意志なき後も何とか立っていたその身体は、肩と言う添え木を失い崩れ落ちた。 わたしの手の中で聞こえたそれは、満月の肩が砕けた音で――。
わたしは。
親友の体を。
握り潰したのだ。
「……みつ……きっ……」
なんて冗談。
なんて悪夢!
なんて現実!!
なんて絶望!!
「あああああああああああああああっっっっ!!」
冗談じゃない。 夢で済まない。 これは現実。 これが絶望。
――わかってた。 わかってしまっていた。 この場に生きている人間なんていないと理解していた。 認識していた。
生きているように見えただけだって、知って、いた。
すがりつきたかった糸はすでに切られ、わたしは絶望し、絶叫する。
夢のない絶対的な現実を叩き付けられ、わたしは、『わたしが一度死んだ』事にすら気づけなかった。
一度死に、わたしたちを襲った怪物と同じ存在になったなんて、気づかなかった。
かなり前に書いた、TRPGダブルクロスのキャラ設定を小説風にしたシーンになります。
というかこのキャラ作ったのってよく見たら十年前だよ……。
ダブルクロスについては「ダブルクロス」「TRPG」で検索だ!
名前:水戸部 鈴蘭
コードネーム:水蛟
シンドローム(能力の傾向):キュマイラ(肉体強化)/オルクス(領域支配)
Dロイス(失った絆の代わりに手に入れた力):羅刹




