雨と共に降り注ぐモノ
雨が降ると厄介だ、人は傘を差すと空を見上げなくなる。
そうなると雫に紛れて、奴らが人々の頭上に降り注ぐのだ。何なのかはわからない、わかりたくもない。ただ何か良くない、不吉な存在であるということだけはわかる。
そいつは最初、スライムのような液体の姿で傘の上にへばりつく。すると少しずつ人の指のような形になっていき、這うようにして傘の下へ潜り込むのだ。
そうして、傘を差した人間の体に近づくとくすぐるようにその皮膚をかく。
ここで、違和感を持った人間は見えずともそれを振り払うことができるがそうでなければ、奴は目鼻口、耳などから人体へと入り込みカビのように黒く人間の体を侵食していく。
私は奴らが見えるのが嫌で、なるべく雨の日は外を歩かない。どうしても、外出しなきゃいけない時は憂鬱だ。近しい人に奴らが降ってきた時は、何気ない体を装って振り払うようにしている。しかし、奴らの中にはそれに気がついている個体もいるようだ。懸命に見えないふりをする私を嘲笑うように、今度は私の体へとまとわりついてくる。
最悪なことに、私はちょうど握手するような形でそれに手を触られてしまったことがある。
ねばっとした感触で、手を撫でまわすような感覚に私は吐き気を催した。陰湿、陰険、醜悪なそれに思わず悲鳴を上げたが誰も私の異常には気がついてくれない。むしろ私が狂人であるかのように、冷ややかな眼差しを向けてくる彼らのその体はもう汚染されきっている。
耐えきれず、私はその場を逃げ出した。
◇
「――この、あなたのお姉さんの遺書に書いてあるのは本当なのですか?生前に何か、お話していたことは」
さぁ、わかりません。
怪訝な顔をする警官に、私は素知らぬ振りをして答える。
姉はアレに見いられてしまった、意固地になって見ないふりをしていたのがかえって関心をひいてしまったのだ。悲しくないわけではないが、それ以上に私は諦めの気持ちが強い。
(アレは水の中にだって潜り込んでいるのだし、逃げ場なんてどこにもなかったのにな)
私はカビだらけになった自分の手をみなからそう思った。