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ずっとこうしたかった

作者: 爛伽

午前6時、実に13年ぶりにこの電車に揺られていた。

移動手段でという訳ではなく、自分の人生を追うためだ。自分のしたいことを犠牲にしてただひとつの目標を追ったあの頃は苦しかった。目標達成前に強者に挫かれた時は解放感すら覚えたのを覚えている。そうなった時点で自分の努力は価値が無いものだと悟った。

あの頃学生だった俺たちは社会の歯車となっている。あの時の電車に乗っていた人々だと思われる人がちらほらといる。名も知らぬ人々だが時間の流れをしっかり感じて面白かった。周りの人間に目をやっていると飛び抜けて俺を刺激するものが目に映りこんだ。

それは初恋の相手だった。

あんなに長かった髪は短めに整えられ、あの頃のとんちきな雰囲気はどこにもなくスーツで真面目そうな感じがした。もとより真面目ではあったのだが。声をかけようか少し迷ったが彼女と同様俺も身なりが変わっている。あの時は自信に溢れていたが今の俺には何も無い。何となく日々を過ごしている俺にそんなものはない。

「ねぇ、もしかして優くん?」

優、確かに俺の名前だ。考え事をしていて急に話しかけれたところからの驚きなんて比にならないくらいこの人に話しかけられたという事実に驚いた。

そうだと返す。曰く今彼女は再就職に奮闘中らしい。

「もし予定がなかったらだけど...」

2人でカフェに入った。

「まだ小説書いてるの?」

そんなむず痒い話題も

「最近食べて美味しかったものある?」

なんて軽い話題も、色々な話をした。

そうして彼女は今の自分の現状を明かした。

元々大手企業で働いていた事。

数年前に鬱になって自分を殺めそうになったこと。

そこから少しずつ回復したこと。

「あったのは数十年ぶりなのになんだか安心して誰にも言ったことないことまで言っちゃってるよ」

なんて笑いながら彼女は言う。

13年前にこの言葉を貰っていたら文字通り狂喜乱舞していただろう。今ですら嬉しいのだから。

彼女は俺について聞いてきた。

俺も高校のその後について話した。

大学に行き、公務員になったこと。

そして昇進ルートをはずれたこと。

そのおかげで随分暇にすごしていること。

彼女が相手なせいかすらすら言葉が出てきて言おうとしていないことまで出てくる。あの時の生きがいは彼女だったことを今になって思い出した。

お互い頑張ろう、そう言って別れた。

そうして俺の考えは決心へと変わった。

奇しくも生きがいとなった彼女が逆の存在となってしまったのだ。

世の人々に言わせれば俺は邪魔だろう。

彼女に言わせれば俺は加害者だろう。

だが俺にとってそいつは救済なのだ。

近くにあった薬局に入って睡眠薬を買った。

最期くらい憧れた芥川先生をなろうと思ったからだ。

俺の場合はぼんやりでなくはっきり、不安ではなく暇が苦痛なだけだが。

それらを一気に口に含み飲み込む、その後タバコを吸う。たまらない一服となったがそれはたった一度吸って吐いただけだった。


誰がどう考えても、俺の人生はすばらしかった。

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