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美園の心境の変化

フローライト第八十五話

朔の絵が完成して、美園は明希の店に朔と一緒に持って行った。美園がモデルのその絵は、どこかノスタルジックを感じさせる少女の絵のような出来栄えだった。


「えー・・・素敵・・・」と明希が絵を見て言った。朔が照れたように少し顔をほころばせた。


「どこに置く?」と美園は聞いた。お店は壁には所々に利成の絵が飾られていて、一緒に並べるのも・・・と思ったのだ。


「一番目立つところに置こう」と明希が言う。


「値段は?」と美園は朔に聞いた。


「え?えーと」と困ったような顔する朔。


「あんた、値段考えてないの?」と美園は言った。


「いくらでも・・・」と朔が言う。


「えー・・・じゃあ、百円でも?」と美園が言うと明希が笑った。


「みっちゃん、それは酷いよ」と明希は言い、「絵の具代とか、かかった時間とか考えてみて決めたら?」と朔に言った。


「じゃあ・・・二万くらい・・・」


「そう?じゃあ、まずそれくらいにしておいて、値段交渉次第ではいくらでも下げていい?」


「いくらでも・・・」と朔が恐縮したように言う。


「じゃあ、やっぱり百円になっちゃうよ」と美園は言った。


「みっちゃん、そういうこと言わないの」と明希が注意する。


「じゃあ、一万くらいまでは下げれる範囲にしようか?」と明希が言うと、「はい、お任せします」と朔がますます恐縮したように頭を下げた。


明希が店に入ってすぐの目立つ場所に置いてから写真を撮っている。


「どうするの?」と美園が聞くと「お店のツイッターに載せるの。若き画家のたまごさんが孫娘を描いたってね」


「そうか、宣伝するわけだ」


「そうだよ。みっちゃんもやってないの?ツイッターとかインスタとか」


「やってるけどまったく更新してない」


「じゃあ、更新したらいいよ。あ、それとユーチューブまたやればいいのに」


「でも・・・利成さんが一人でやれって・・・」


「そうなんだ。みっちゃんなら一人でも大丈夫でしょ?」


「そうだけど、つまらない」


「アハハ・・・そうか。利成と一緒で楽しかったんだね」


「そうだよ」


「じゃあ、朔君とやったら?」と明希が無茶なことを真顔で言う。


「えっ?!」と朔がびっくりして明希を見た。


「えー対馬と?だって対馬、ピアノできる?」と美園は聞いた。利成とはピアノか歌でアップしていたのだ。


「できないよ」と朔が答えた。


「だよね」と美園が明希の方を見ると明希が「必ずしもピアノじゃなくたっていいじゃない?」と言う。


「じゃあ、何?」と美園は聞いた。


「さあ?そこは考えたら?」とちょっと無責任な明希。


「・・・・・・」


 


絵を預けて明希の店を朔と一緒に出ると雨が降り出していた。


「あ、雨。傘なんて持ってないよね?」


美園は空を見上げて言った。


「持ってない」


「だよね」


「しょうがない、駅まで走ろう」と美園は走り出した。朔が後ろからついてくる。


駅に入ると急に振られて傘がなかった人が多く、皆濡れた頭や身体の水滴を払っていた。


「帰る?」と美園が聞くと「天城さんのユーチューブってどうやったら見れるの?」と朔が聞いてきた。


「え?あーアカウント教えるよ」と美園はスマホを取り出した。


「まあ、でも天城利成って検索しても出てくるけどね」


美園はURLを張り付けて朔のラインに送った。


「ありがとう」と朔がラインを見ている。


「ユーチューブやる?」


美園が聞くと「えっ?」と朔が焦った顔をした。


「対馬は歌うたえる?」


「歌えない」


「楽器は?」


「できない」


「何かできることある?」


「・・・アニメーションなら」


「えっ?ほんとに?」


「そういうソフトで作るから簡単な奴なら、自分の絵で作ったりしてるよ」


「えー、そうなんだ。見せて」


「ユーチューブはやってないよ」


「そうなの?じゃあ、何?」


「パソコンに保存してる」


「何だ、もったいないね。公開すればいいのに」


「いや・・・」と朔が困ったような顔をした。


「オッケー。まず見せて。いけそうなら私のアカウントでアップしよ」


「えっ?!」とものすごく驚いて朔が一歩後ずさった。


「今から見に行ってもいい?」


「今から?いいけど・・・」


「じゃあ、決まり。行こ」と美園はホームの方に歩いていった。


 


朔の家に着いたときはもう夜の七時になっていた。


「こんばんは」と玄関で美園は出て来た朔の母親に挨拶をした。


「こんばんは」と物凄く驚いた顔の朔の母親を無視して、朔が階段を先に上って行く。美園は朔の母親に頭を下げてから朔の後ろから階段を上った。


「何か物凄く驚いてたけど大丈夫?」と美園は部屋に入ると言った。


「大丈夫って?」と朔が聞く。


「だって女の子なんて連れて来たことないでしょ?お母さん何と思っただろうね」


「女の子だけじゃない、男だってあまり連れてきたことないよ」と朔が今までにないようなシビアな口調で言った。


(あれ?)と美園は思った。


朔のエネルギーの質が何となく変わったのだ。


(何だか対馬は面白いというか・・・わかんないな)と美園が対馬の顔を見ていると「何?」と朔が聞いてきた。


「ううん、じゃあ、見せてよ」と美園はさっきからパソコンの前でマウスを動かしている朔の横から顔をだしてパソコンの画面を見た。すると急に朔が焦ったように美園から離れた。


その動きが大袈裟だったので美園は笑った。


「やだな、取って食おうってんじゃないんだから」


「・・・あれ・・・ほんと?」と朔が聞いてくる。


「何?あれって」


「・・・絵が売れたらってやつ・・・」


「あ、キスのこと?」


「そう・・・」


「ほんとだよ」


「その・・・どこに?」


「どことは?」


「キスの場所・・・」


「あー、どこがいい?」と美園はいたずらっぽい笑顔で言った。


「・・・口・・・」と言う朔。


「いいよ」と美園は答えた。それから「早く見せて」とまだ美園から離れていた朔に言った。


朔がパソコンを操作してそのアニメーションを出した。


(へぇ・・・可愛い・・・)


絵は絵画っぽくなく、イラストのような感じの女の子が出ている。


「こういう絵も描けるんだ」と美園は画面を見ながら言った。


「まあ・・・」と朔が言う。


「じゃあ、私が作った歌のイメージでアニメ作れる?」


「天城さんの曲で?」


「そう。動画にアップしてるのほとんど私が作ってるんだよ。みんな利成さんだと思ってる人多いけどね」


「そうなんだ。今、見ていい?」


「いいよ」と美園はユーチューブを検索して自分の動画を出した。朔がそれを見る。


「すごいね、ピアノ」と朔が言う。


「まあ・・・赤ちゃんの頃からやってたからね」


「赤ちゃんの頃?」


「そう。利成さんの親がね、ピアニストなのよ。もう年だからやってないけど・・・その麻美さんっていうんだけど、その麻美さんに仕込まれたのよ」


「へえ・・・」


朔が美園の他の動画も見ている。


「これ、天城さんと一緒に弾いてる」


「そ、最初の頃は一緒に連弾してくれたりしてくれたんだけど、最近は一人でやれっていうのよ」


「そうなんだ・・・天城さんは綺麗だから・・・」


(あれ?)と思う。


「私のこと綺麗だと思ってるんだ?」


「うん・・・」と朔が言って美園を見た。


その目が今までのようなおどおどとした目ではなく、強い目だったことが美園は意外で新鮮に感じた。


「そっか・・・まあ、じゃあ、私が曲を作るからできたら教えるよ」と美園は言った。


「うん」と朔が返事をしてからチラッとまた美園の足を見た。


(あーやっぱり足フェチだな・・・)と美園は思う。


「じゃあ、帰るね」と美園が部屋を出ようとすると「あ・・・」と朔が声を出したので振り返った。


「あ・・・何でもない」と朔が顔を赤らめている。また性欲的なエネルギーを美園は感じた。


(なるほどね、こんなにいつも性欲あったらちょっとキツイかもね)と少し気の毒になって美園は言った。


「こないだみたいなことしないなら触ってもいいよ」


「えっ?!」と物凄く朔が慌てている。


「足、好きなんでしょ?」


美園が言うと朔が真っ赤になった。


「どうする?」と美園が言うと「・・・じゃあ、少しだけ」と朔が言う。美園は何だかその言い方がおかしかったが、真面目な顔のままもう一度ベッドに座った。


「スカートの上からね」


「うん・・・」と朔が太もも辺りに手を置いてきた。


恐る恐るその手を動かす朔を見ていると、何だか変な気分になってくる。美園は朔の手の上に自分の手を重ねてみた。朔がハッとしたように美園の顔を見た。


朔から感じるエネルギーは性欲というより何か憧れのような、まるで神聖なものに触れるかのように感じている雰囲気がした。


「・・・天城さん、彼氏いるんだよね?」と朔が言った。


「いるよ」


「・・・じゃあ、何で?」と聞かれて美園は朔の顔を見つめた。


最初はからかい半分、退屈しのぎだった。朔の反応を見て楽しんでいただけだった。でも最近は朔の作品に触れるにつれて、朔から不思議な感覚を感じるようになっていた。それは退屈な美園の心をざわざわと騒がし、何かを期待させるのだ。


「何でかな?」と美園は言った。


何となく見つめ合っていると朔が唇を寄せてきた。美園はその唇をよほどそのまま受け止めようかと思ったけれど、朔の身体を押してから立ち上がった。


「帰るね」


そういうと朔が「・・・駅まで送る」と立ち上がった。


 


外に出ると雨は止んでいた。真っ暗な夜道を二人で歩いていると、何だか不思議な気持ちがしてきた。


(あー何か・・・夢の中みたい・・・)


そんなふわふわした気分だった。


駅に着くと朔が「じゃあ・・・」と言った。


「うん、じゃあね」と美園は笑顔で朔に手を振った。朔が顔を赤らめて手を振り返してきた。


(対馬といると退屈じゃないみたい・・・)


美園は自分の気持ちに気がついて何だか可笑しかった。


 

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