鬼族と政略結婚させられた末っ子王女~野蛮な相手かと怯えていたら初心で一途な長に溺愛されました~
「スピカ、あなたには鬼族に嫁いでもらうわ」
第一王女エルスワリ姉さまが、大書庫で本に目を通していた私にそう言った。
突然のことに、私は耳を疑ってしまう。
「鬼族って……魔物、ですよね……?」
自然と震える声に、エルスワリ姉さまはニンマリと笑った。
「ええ、正真正銘本物の魔物よ。あなたなら、どんな種族なのか説明しなくても分かるわよね?」
当たり前だ。この国はエルスワリ姉さまを筆頭として国を大きくし、強大な魔王軍を打倒することを目的としているのだから。
私も王族の一人として、魔物については詳しく学んでいる。
だから鬼族がどんな魔物なのか記憶していた。
それだけに恐怖で身が震える。
「野蛮で粗暴で、人間を食うと言われる化け物ですよ……?」
「それがなにかしら? 文句でもあるの?」
「文句って……」
「いいじゃない。いまだに婚約相手の一人もいない行き遅れのあなたからしたら、魔物だって良き相手というものよ」
ギュッと手のひらを強く握ってしまう。私が十八にもなっても独り身なのは、それこそ第一王女のエルスワリ姉さまのせいなのだから。
全ては王族という駒として、末っ子の私を無理やり他国へ送り込んできたせいだ。私は反論しかけて、言っても無駄だと口を閉じてしまう。
私はいつだってエルスワリ姉さまの駒だったのだから。魔王軍と唯一正面から戦える大国リズベリアの末っ子王女という「政治的に使いやすい駒」として、十八になるまで何度も国の外へ長期間送られた。
国同士の和解のため。従えた属国を安定させるため。同等の勢力を持つ国を懐柔するため。
嫁いだ国では美貌を謳われた。背も小さく主張の少ない体つきから、男性からすると庇護欲をそそられるそうだ。
そんな見た目だから利用されているのだが。
数え切れぬ日々を望まぬ国で過ごした。行き遅れと言われてもおかしくない歳まで、結局この国でのデビュタントを終えていない。
それでも、なんとか送られた国で誰かと結ばれようと努力した。けれど、いつだって私が愛を育む前に、政治的手腕に長けるエルスワリ姉さまの入国を許してしまった。
あとはエルスワリ姉さまが手を回して嫁いだ先の国を従えてしまうのだ。
従えて属国とすれば、また愛のない兄弟たちの待つリズベリアに戻される。時が来れば駒として再び利用される。もはや、誰も心配してはくれない。
だとしても、私は微かな望みのために努力を怠らなかった。
いつか平和になったら私も望む結婚相手と結ばれて、小さくてもいいから領地を統べることが夢だ。
人々の動かし方を本で学んで、万が一魔王軍の残党が表れても対処できるように、対魔物の勉強を続けてきた。
だというのに、鬼族に嫁ぐ? 野蛮で暴力的で、数百年と人間と対峙している化け物の嫁になれと?
生きたまま食われたという逸話すらある、寝物語に出てくるような相手と夜を共にしろと?
まだ私は誰とも初夜を迎えていないというのに。望む相手に抱かれるどころか、ダンスだって踊ったことがないのに。
何より鬼族が相手では――
「ころ、されて……しまいます……」
なんとか絞り出した反論は、許しを乞うような声だった。
しかしエルスワリ姉さまは、私の絶望に満ちた顔をたっぷりと目にしてから「流石にそうはならないわ」と両手をヒラヒラ振って見せた。
「鬼族は数百年前に魔王軍に吸収されるまでは独立していた種族なのよ。記録によると、当時の鬼族の長が魔王との決闘で敗れたからだそうね。それからずっと魔王の手先になっていたけれど、相当鬱憤が溜まっていたようなのよ。私の誘いに簡単に乗ってくれたわ」
誘い? と聞き返せば、ここからは簡単な話だと前置きをされる。
「数百匹の鬼族を従える長に市壁付きの国をくれてやったのよ。まだ人間はいないけれど、行く行くは騎士や職人たちを配備する予定よ」
「まさか、私が嫁ぐのって……」
その通り。エルスワリ姉さまは弱弱しい私の声など気にも留めず指を突き付けてくる。
「第一王女エルスワリ・ビル・リズベリアの名によって命じるわ。スピカ・ヴィ・リズベリアには鬼族に与えた国へ赴き、長と結婚し味方としなさい。対魔王軍のために和解の象徴となるのよ」
エルスワリ姉さまの命令は、もはや国王の命と同じほどの権力を持つ。断れば、どんな仕打ちが待っているか。
私はなんとか頭を回転させ鬼族について詳しく思い出す。
姿形こそ人間と似ているが、蛮族の如く凶暴で闘争を望み、本来なら話し合いなど意味をなさない。
お姉さまが話をつけたと言っても、いつ手のひらを返されるか分かったものではない。
しかし、断っても別の方法で嫁がされるだろう。変に時間を経過させて、更に悪い条件が加わっていてもおかしくない。
それに、少なくとも知性は人間並みにあると思い出す。思いのほか、話が通じるかもしれない。ただ、その逆も十分にありうる。
天秤のように、行きたくない感情と駒に徹するべきという感情が揺れる。そんな中、エルスワリ姉さまは「鬼族さえ味方につければ、魔王軍を蹴散らすのも時間の問題」と上機嫌に口にしていた。
認めたくないが、エルスワリ姉さまが魔王軍に勝てると言った――平和になるというのなら、私の望みは……
「……その縁談、お受けします」
本心では、鬼族にどんな目に遭わされるのか分からない恐怖と不安でいっぱいだ。しかしこれさえ乗り切ってしまえば、私の求めていた、ささやかな望みも叶うかもしれない。
望まぬ婚約の先にある希望を信じて、私と鬼族の長との婚約話は決まった。
####
酷く冷たい雨の降る日だった。私は馬車にゆられ、鬼族に与えられたという国へ向かっている。
これからどうなるのか。いや、どうしたら無事なまま乗り切れるのか。
嫌というほど考えたが、答えは出ない。
やがて鬼族が住まう国が見えてくると、御者が扉をノックした。開けると、真っ青な顔で震えている。
「……ええ、分かっていますよ」
ここから先は魔物の領土も同じだから、行くなら私一人で行ってくれ。御者はそう告げているのだ。
冷たい雨の中、外套に袖を通して御者台に座る。ロクな荷物も載せていない馬車が私一人を揺らしていくと、二人の鬼族が見張る検問が見えてきた。
遠目で見る分には人間と大差ない。しかし近づいてみて、その頭に鋭利な角が一本生えているのが目に映る。
ジロッと見てくる瞳も不気味に大きく、顔は傷だらけだ。正直とても恐ろしいが、私は国王である父上からの証書を見せ名を告げる。
二人の鬼は「気に入らない」という感情が目に見えるような態度で馬車を通すと、国の中は荒れ放題だった。
かつて人々が造った家屋の窓は割れ、石畳は壊れ、そこらに雨も気にせず鬼たちがたむろしている。
下品な笑い声が響き、時折魔物語らしき言葉も聞こえてくる。
まるで統治されていない鬼の中で、私一人が異質な存在だった。
それでも、私を蔑ろにしたら魔王軍とも人間とも縁が切れることになる。国の中を馬車で少し進むと、一人の鬼が近づいてきて城へ行くよう口にした。
「長がお待ちだ」
たったそれだけを口にすると離れていく。私は一人、やはり歓迎されていないのだなと呟きながら国の真ん中にある城へ馬車を走らせた。
その後もずっと私は一人で行動した。馬小屋に馬車を停め、濡れた外套のまま城の中へ赴き、彷徨うように長を探した。
とても心細く、すれ違う鬼たちと目を合わせるたびに身がすくんだ。
なぜこんな目に遭わなくてはならないのかと、何度も苦痛に苛まれた。
そうして、ようやく一人の鬼が「そこの部屋だ、とっとと行きやがれ」などと吐き捨てるように言いながら指をさしたので、その部屋の扉をノックする。
「……リズベリアから参りました、スピカと申します」
沈黙が続く。ああ、ノックをして名乗ったからといって、開けてくれるわけでも、入っていいと答えてくれるわけでもないのだ。
所詮は政治の駒。鬼族の長からしたら、恐らくそれ以下の、ただの人間。
私はドアノブに手を掛けようとして、扉の向こうから「タンッ」と音がした。
気をとられていると、自然と扉が開かれた。
入ってもいいということだろうか。迷いながらも、部屋の中へ。
間取りの広い部屋に、大きなベッドとテーブルが置かれている。だがそれよりも目に映ったのは、剣や斧といった武器の類だ。固まった血がこびり付いていて、何者かの命を奪った証なのだと思い、身震いする。
そんな部屋の窓から空を眺めて、私に背を向けている長身の姿があった。
恐る恐る、私は声をかける。
「鬼族の長、ヴィリアム様とお見受けしますが……」
弱気な声に、鬼族の長――ヴィリアム・ノーザークはゆっくりと振り返った。
「……お前がスピカとかいう人間の女か」
低く、ドスの利いた声と共に振り返ると、雷の光がヴィリアム様を照らす。
褐色の肌に、真っ赤な瞳。銀色の髪は長というだけあって整えられている。
一瞬のうちに見えた姿は、美形の青年のようだった。しかし一歩ずつ歩み寄ってくると、その顔がハッキリと目に映る。
褐色の頬には深い切り傷があり、瞳は血を連想させた。銀髪の髪も、どこか無造作に荒れている。
静かな雰囲気の中に、人間相手では感じたことのない凄みがあり、野蛮な鬼族を一つにまとめる力を持った長の姿に呼吸が荒くなる。
だが何より私の心を恐怖で揺らしたのが、その頭にある角だ。明確に人間と違うのだと痛感すると同時に、その角が他の鬼と違って二本生えていることに気づく。
思わず凝視していると、ヴィリアム様が静かな声を発した。
「……この角がそんなに気になるのか」
「えっ……」
ヴィリアム様は自らの角に手をやった。
「二本の角は長たる証だ。歴代の長も、生まれ持って二本の角がある者から選ばれてきた」
「なぜ、それを私に……?」
聞くと、ヴィリアム様はなぜか私へ視線を合わせない。どこか沈んだ瞳のまま「それは」と言いかけて、口を閉じた。
「お前には関係ない」
拒絶するように、ヴィリアム様はようやく私を見据えて口にする。
「とにかく、濡れたままでは体調を崩すだろう。お前の部下を用意してある。しばらくはそいつの指示に従っていろ」
そう言うと、背後の扉が開いて一人の鬼が頭を下げた。ヴィリアム様は私にこれ以上取り合わないといった様子なので、仕方なく部屋を後にする。
寡黙で恐ろし気な印象を受けたが、他の鬼と違って粗暴だとは思わなかった。
しかし、あの鬼がこれから私の夫になるのだと割り切るには、まだ時間がかかりそうだ。
なにせ、人間と鬼族が結ばれたという話はどこにも存在しないのだから。なにより私が、こんなところまで来ても未だに夢を捨てきれていないのだ。
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あの後、部屋の外でフロイトを名乗る輜重兵の鬼がやってきた。輜重兵として軍備品の管理や輸送などを取り仕切っている内に、他の雑務を任されるようになったという。
ヴィリアム様は他の鬼と違って礼節に長けているから、フロイトを私の部下に選んでくれたそうだ。
城内を案内されながら私のために用意したという部屋に通されると、「夫婦になるというのに部屋は別なのか」と驚いたものだ。
私自身乗り気ではないが、初夜はどうするのか。今後のことについて話し合う時はどこで話すのか。そもそも形だけでも取り繕うにしても、ある程度の親睦は深めておく必要があるというのに、ベッドどころか部屋も別でいいのか。
次々と投げかけられる私の質問に、フロイトは「申し訳ありません……」と謝るばかりだった。
しかしフロイトは、私の意見が正しいと言ってくれた。ヴィリアム様もそうすべきなのだと言ってくれた。
だが溜息交じりに「時期が悪いのです」と口にすれば、「しばらくは手を貸すから、なんとか人間との和解をヴィリアム様抜きでやってくれないか」などと、無理難題を押し付けてきた。
ヴィリアム様には自分から連絡と説得をするというので頼むからと、深く頭まで下げられてしまった。
「鬼から頭を下げられては、流石に断れないですしね……」
一応この国に住まう鬼たちには、私とヴィリアム様は正式に夫婦となったことは知らされた。ほとんど嘘とはいえ、これで鬼たちへの発言力が強まった。しかし、ヴィリアム様本人からの言及はない。鬼たちの前で愛し合っているフリもできないときた。
つまり状況は、私一人の口先と知識だけで鬼と人間が一つになるために行動しつつ、ヴィリアム様が心を開いてくれるのを待つということ。
駒として送り込まれたと思っていたら、まさか私自らの意思で動かねばならないとは思いもよらなかった。
まぁ、ある意味好きにやっていいというのなら、心の奥底で抱いていた「魔物と寝る」という行為自体を避けて、今まで培ってきた知識を生かして乗り切ればいい。
その先に望む未来があるのなら、やるだけやってみる価値はある。
と、思っていたのだが……
「すみません、皆さんに話を聞いてもらいたいのですが……」
城から出て、一人で国の中にいる鬼たちの顔を覚えながら人間に対する意見や現状をどう思ってるかなどを聞いて回っているのだが、数日行っても睨まれるか下品に笑い飛ばされるばかり。
いくらリズベリアの大書庫で人を統べる方法を頭に入れていても、言葉として聞き入れてもらえないと意味がない。
しかし、なぜこうもぞんざいに扱われるのだろう? これでも長の嫁なのだが、知ったことではないと言った様子だ。
かと思えば、たまに話だけは聞いてくれる鬼もいる。少しは話をしてくれることもあった。
それがかえって私を混乱させた。
本当にどういうわけなのか。流石に嫌気がさしてくると、声も大きくなる。
「とにかく、少しでいいので私の話を聞いてください! 私は長の嫁、つまりは妃のようなものなのですよ!?」
そんな風にしつこく国の中を回り始めて一週間が経つ頃、つい口調を荒げてしまった。
念のため怒らせないように話しかけていたのだが、やはり気が逸ってしまった。
咄嗟に口を手で閉じた時には遅く、座り込んでいた数匹の鬼は刃物のような瞳で睨みつけてくると、私へ迫ってくる。
「へぇ、人間のくせに俺たちに指図すんのか?」
「そ、それは……」
何歩か後ずさると、後ろにも「チビだが結構いい体してるじゃねぇか」などと、下卑た笑みを浮かべた鬼がいる。
「おい、そっち押さえてろ」
「ッ! 何をするんですか!」
気が付けば鬼に囲まれており、私の手首が捕まれる。振りほどこうとしても、力で敵うわけがない。
「は、離してください! 私はヴィリアム様の妻なのですよ!?」
その名を出したとき、鬼たちがゲヒヒと笑い声をあげた。
「腕っぷしだけしか取り柄のねぇヴィリアムがなんだって? まさか、アイツと結婚したからって俺たちが黙って従うと思ってんのか?」
「あ、あなたたちは、長であるヴィリアム様をなんだと思っているのですか!」
「なにって、偶然二本角に生まれただけの奴だろ? そりゃとんでもなく強いのは認めてやるがよ、素直に魔王に従ってりゃいいってのに、人間と手を取り合うとか言い出す馬鹿なんだよなぁ!」
この瞬間になって、私は理解する。ヴィリアム様は鬼たちの信頼を集める長ではないということを。
この国へ来た日に、自らの角を気にかけていたことにも、深い理由があるのだろうということにも。
「と、とにかく離してください! 私も考えを改めますから!」
「は? こんないい女をずっと眺めるだけで手を出さないでやってたんだぜ? けどよぉ、偉そうに指図するんなら、俺たちのやり方を体で覚えさせなきゃなぁ!」
「や、やめ……!」
鬼の一人が私の服にナイフを突き立て、それで胸を引き裂いた。下着が晒されて、まるで見世物のように扱われている。
こんな野蛮な鬼が、人間と和解する? 私はどうやったらいいのか皆目見当もつかなくなってしまった。むしろリズベリアの中に鬼を入れてしまえば、路地裏や人目の届かないところで無法が蔓延ってもおかしくない。
まさに今の私のように、スカートまでナイフで引き裂かれて、鬼たちに弄ばれるような――
「た、助けて!!」
人間のいない鬼たちの国の中で、私は叫んだ。私を押さえている鬼たちは汚らしく笑うばかり。このまま下着まで切り裂かれて、男の欲望をこの身に刻みつけられる。
よりにもよって、もう少しで願いが叶うという時に。
なんて、様々な感情が入り混じった涙が頬を伝った時だった。
――タンッ。
そう静かな音がしたかと思えば、私の手首を握っていた鬼が「グッ!」と呻き声を上げ、手を離し倒れた。
次の瞬間にはナイフを持っている鬼も、他の取り囲んでいる鬼も、一様に音のした方を見て青ざめた顔をしていた。
私は涙の伝う顔でそちらを見ると、血のように真っ赤な瞳に怒りの炎を灯したヴィリアム様がいる。
「ヴィリアム、さま……」
「遅れてすまない」
声音はそのままだが、何百年と恐れられてきたことが頷ける鬼族の長としての顔には、初めて出会ったときの面影はない。
炎のような眼光の鬼が、百の魔物にも勝る圧倒的な威圧感を生み出していた。
その矛先をいち早く感じ取ったのだろう。私を囲んでいた鬼は抵抗などまるで頭にないように怯えている。
ここにいるのは、圧倒的な力を持つ魔王軍から離反し、敵対していた人間と和解しようとする強さと聡明さを持った鬼族の長なのだ。
その赤い双眸が鬼たちを強く睨むと、ドスの利いた声を発する。
「俺の女に、なにをするつもりだった」
とても強く、激情の籠った言葉だ。だが私は耳にした瞬間、怯えるのではなく、胸の中で何かが跳ねた。
「俺の女になにをした」。まるでおとぎ話の王子様が口にするようなセリフだ。
こんな言葉は生まれて初めて向けられた。それに激しい感情の籠る言葉は、駒としての私ではなく、自分の女としての私を心配する想いが強く感じられた。
咄嗟に胸を押さえる。手のひらに響くほどに、トクトクと鼓動が早まっていた。
目の前ではヴィリアム様と鬼たちが睨み合っているというのに、私は顔を赤くして、ただうずくまっているだけだ。
私は身を守るようなことはしなくていいと、無意識で分かっていたのだ。
きっと、この人――鬼が守ってくれる。そう確信するほどに、ヴィリアム様の言葉が駒のように扱われ、望まぬ国で望まぬ日々を過ごし、この先も利用されるだけ利用されたら捨てられると半ば人生を諦めていた私の心に響いたのだ。
「ヴィリアム、様……」
「むっ」
どこか怪我をしているのか。そう問いかけて振り向いた時に、私を襲った鬼たちは逃げていった。
残されたヴィリアム様は私を一瞥し、申し訳なさそうに呟いた。
「……こんな粗暴な化け物に嫁がされて災難だったな」
「そ、そんなこと……!」
「安心しろ、必ず報いは受けさせる」
「ま、待ってください!」
追おうとしたヴィリアム様を、私は咄嗟に呼び止めてしまっていた。
何を言ったらいいのか分からずに赤面していると、ヴィリアム様は追うのをやめ、私を見据えた。
まるで魔王そのもののような威圧感を放っていたヴィリアム様だが、服が切り裂かれた私の姿を見ると、急に顔を赤くした。
首を傾げていると、視線を泳がせながら羽織っていたコートを肩にかけてくれる。
「そ、その姿では、目のやり場に……いや、体調でも崩されたら困るのでな」
詰まりながらの言葉は、またしても私を心配して思いやってくれる言葉だった。
衣服を切り裂かれ下着が露出している私に対し、ヴィリアム様は襲うでも見放すのでもなく、自らのコートをかけてくれたのだから。
けれど、一抹の不安が心に残る。
「……私を助けたのは、仮初の妻としてですか?」
頭が冷えてきて、その可能性があることを思い出す。私が鬼族の国で襲われたとあっては、リズベリアに申し訳が立たないだろう。どんな賠償を請求されるかもわかったものではない。
だから助けた。あの怒りも、想いも、全ては仮初。
そう落胆しかけたが、ヴィリアム様は言葉に詰まりながらも片膝をついて私の瞳を見つめると、つっかえながらも口にした。
「か、仮初ではない。お前のためを、想ってのことだ……」
「え……?」
「だ、だからだな! 俺はお前に傷ついてほしくない! だから助けた! ずっと襲われないように見張っていたのだ!
「見張っていたって……」
私が口にすると、ヴィリアム様はハッとして口を閉じた。
だが、私とてそこまで鈍感ではない。それに、薄情でもない。
「不慣れな地で一人の私を気にかけてくださり、ありがとうございます」
言うと、ヴィリアム様は咳ばらいをしつつ、当たり前だと照れたように答えた。
「その、俺たちは結婚しているのだからな……」
頬を赤くして口にするヴィリアム様は、心から私を想ってくれていたのだと理解する。
すると、ポロポロと涙がこぼれた。驚くヴィリアム様がワタワタしているが、私はなんとか口にする。
「てっきり、私には興味なんてないと思っていましたから……」
「そ、そのようなことがあるか! 小さき体だというのに鬼の中に一人で居続けようとするお前の姿は立派なものだった! 鬼の力を利用しようとするお前の姉ではなく、本当に和解しようとしている姿に、この一週間で尊敬すらも抱いていた!」
「そん、けい……」
「めげずに鬼と接する姿をいつしか可憐だとすら思うようになっていた! なにせ、鬼の女にお前のような者はいなくて……」
そこまで一気に口にすると、ヴィリアム様はまたしてもハッとして口を閉じていた。
けれど、私の耳は聞き逃さなかった。こんな私に尊敬を抱き、あまつさえ可憐だと、社交辞令としてでも王族だからでもなく一人の女として見ていてくれたことを。
エルスワリ姉さまから駒以外の価値を与えられなかった私には、鬼族であるヴィリアム様の言葉と想いでさえ、とても嬉しくてたまらないのだ。
この人は私を心配してくれた。気にかけてくれた。たった今も助けてくれた。
それがとても嬉しい。この嬉しさは、まるで心の内から激しい熱を放つようだった。
「暖、かい……」
「ど、どうした! どこか傷を負っていたのか!? そこが熱を持っているのか!?」
「違います、よ……」
コートから鬼の――いや、ヴィリアム様の温もりを感じると、そこから私への思いやりまでも、体の奥底――心に沁み込むように感じられた。
ずっと駒で、愛されてこなかった私には、それがとても暖かい。太陽の日差しのようだ。
きっとこれが、いつか読んだ統治記録で当時の国王が残した、愛する民を思いやる光なのだろう。それがなくては王は務まらないとさえ書かれていた光を、ヴィリアム様は確かに持っていた。
少なくとも、私の冷たい心は陽光に照らされるようだった。
「……少し、二人で話をしませんか?」
「いや、たった今襲われていたというのに……」
「いいのです。だって私たちには……」
語り合うべきことが沢山あるのだから。そうやって互いのことを話して分かり合わなければ、種族を超えて一つになれない。
今襲われて、無理だと決めつけてしまいそうだった。けれど、ヴィリアム様のくれた温もりが、一概にそうとは言えないと心を動かす。
私自身、希望があると信じたくなっていた。冷たく病んだ駒を照らす光は、鬼も持っていると分かったのだから。
####
一度着替え、ヴィリアム様の部屋で向かい合って座る。どうにも罰が悪そうなヴィリアム様だが、まずは私から言うべきことがあるだろう。
「重ねて申し上げます。先ほどは助けていただき、ありがとうございました」
深く深く、頭を下げる。ヴィリアム様は何か口にしかけてから、「こちらこそすまない」と言った。
「全ては俺が未熟なせいだ。歴代の長のように立派にやっていたら、あんなことにはならなかった」
「いえ、ヴィリアム様はとても立派ですよ」
言うと、首を振って「そんなことはない」と返される。
「先代なら、お前を襲った若い連中に物事を俯瞰的に見て、どう動くべきかの分別を付けられた。しかし俺はどうだ……あんな欲望塗れのチンピラにも舐められている始末だ」
「それでも、ヴィリアム様は言ってくださいました。「俺の女になにをするつもりだった」と。他種族で、まだ初夜も過ごしていないどころか、まともに話したこともないというのに、私を守ってくださいました」
「それはっ……戦士として、女を守るのは当たり前だからだ」
先ほどの言葉は水に流したいのだろうか。だとしたら、私が言うべき返答はこうだ。
「その戦士が求められているのです。もしヴィリアム様が一人で不安だというのでしたら、私が支えます。知恵も貸します――この身を捧げます」
最後の言葉で、ヴィリアム様は顔を真っ赤にする。必死に取り繕おうとしているが、私は気づいてしまった。
クスクス笑い、落ち着かない赤い瞳を見据える。
「初心な長ですね」
言われ、ヴィリアム様は口を開いたまま言葉を発せずにいると、やがて頭を押さえて「その通りだ」と諦めたように口にした。
「俺は生まれた時から二本角……一本角より遥かに強い力を持っていた。歴代の長に倣い、将来鬼族を率いていくために教育と修行の日々でな。その上、人間に押されつつある魔王が何かと面倒事を押し付けてくる始末だ。とても、離れ里で暮らす女の相手などできる時間はなかった」
「先代の方は、どうしたのですか?」
と、そう聞いてから、しまったと気づく。だがヴィリアム様はいくらか頷きつつ「魔王の無理難題のせいで事故に遭い死んだ」と、哀愁を漂わせて答えた。
本当はそのことも含め初日に話すつもりだったという。しかし、ヴィリアム様の初心な所が邪魔をした。
そして、そんな初心で未熟なヴィリアム様が長となってしまったと聞く。
「俺が長になったとき、未熟なのは誰もが承知だった。だから教育係もいたが、魔王はどうやら俺のことを「無知だが力は強い魔物」として捉えていたようでな……余計な知識を吹き込まないように、そういった知識人や老人たちは殺された――俺を駒として利用するためにな」
「駒……」
ヴィリアム様もまた、生まれのせいで辛い思いをしてきたのだ。挙句の果てには、私と同じように「駒」にされるところだった。
「だから、魔王軍を離反したのですね」
ヴィリアム様は頷くと、暗い顔をした。
「だがそれも無駄だったかもしれない。せっかく人間と手を取り合えそうだったというのに、俺はお前を前にして自らの心に困惑し、夜を共にするという行為から逃げ、子供とお前を守っていくという責任からも逃げてしまった……更に、お前をとても傷つけた」
ヴィリアム様は大きな溜息を零すと、私を見つめ、悲しげな声を出す。
「リズベリアの王都に帰りたければ、そう言ってくれ。これ以上悪評の立たないよう、秘密裏に事を進める」
「……それで、鬼族は今後どうするのですか?」
「さてな、皆目見当もつかない。俺は魔王とだって戦う力も覚悟もあるが、多くの鬼を統べる知識は学べなかった。せっかくもらったこの国も荒れ放題だしな。だが、俺の代で鬼族を途絶えさせるわけにもいかない」
だからなんとかする。疲れたような顔でそう言ったヴィリアム様に、私は「分かりました」と告げる。
「でしたら、私の願いは決まっています。どうか、このままお傍においてください」
凛然と発した声に、ヴィリアム様は驚きの表情を浮かべる。何か言葉を探しているようだったが、私はそれを待たずに続けた。
「ヴィリアム様に長として戦う力があるのでしたら、私はその妻として統べる知識を授けます。それが私たちに与えられた役目であり、私自身がやるべきことだと決めましたから」
「いい、のか……? 俺は……俺たち鬼族は、お前を蔑ろにし、傷つけたのだぞ?」
「ですがあなたは守ってくださいました。あなたは欲望に身を任せて私を襲うこともしませんでした。その上、私のことを気にかけてくださいました。なにより……」
ほんの少し間を置くと、私は不器用に笑って見せた。
「私の心を、動かしてくださいましたから。ヴィリアム様の想いに触れ、初めて誰かのそばに居たいと……居続けたいと、思えるようになりましたから」
「それは、つまり……」
口下手なヴィリアム様だが、私はもう一度笑って口にする。
「すでに私たちは、リズベリアでもこの国でも夫婦なのですよ? 夫が困っていたら助けて当然です。王族の身からしたら、民の収拾がつかないのでしたら放っておくわけにもいきませんしね。沢山の問題を共に解決していきながら――これからも、共に生きましょう」
「では俺と共に、夫婦として……」
肝心なところで黙ってしまうヴィリアム様ですが、私とて女です。こちらから言ってばかりでは、不満の一つも浮かぶというものです。
ですので、人差し指を唇に当てた。
「これ以上、女の私から言わせるのですか?」
言うと、ヴィリアム様はキョトンとしてから、顔を再び真っ赤にした。
それでも、やはりヴィリアム様は強い。流石に覚悟が決まったのか、深呼吸してから私の肩に両手のひらを乗せて、緊張気味な赤い双眸で見つめてくる。
「俺と共に、夫婦として生きてほしい。そして平和になったら、人間も鬼も関係なく集め、改めて結婚を発表したい」
「……では、その予行演習をしてくださいますか?」
目を薄める私に、コクリと頷いたヴィリアム様は、その顔をゆっくりと寄せてくる。私はそのまま静かに目を閉じると、暖かい感触を唇に受ける。
優しくも力強い、幸せへの約束だった。
####
大きな問題が二つほどあった。そもそも鬼がこうも粗暴なのは、ヴィリアム様を長として認める者が少ないからだったのだ。事故で死んだという先代と比べられていると、自嘲気味に話してくれた。
しかし、フロイトのようなヴィリアム様に従ってくれる鬼もいる。魔王軍が押されているから人間につくという合理的な考えに賛同してくれた鬼もいる。私を襲った若い鬼が全てではないのだ。
つまり人間と和解する前に、反対派とでも呼ぶべき鬼にヴィリアム様を認めてもらう必要がある。
そこで反対派の言い分を可能な限り集めてまとめると、「鬼の本能に従って戦いたい」という考えを持っていることが判明した。
そのせいで、人間につくという面倒なことをしなくても戦い続けられた魔王軍から離反したヴィリアム様を非難する鬼がいるのだ。
これらへの対処は、私の領分だ。国の中で王政に対し反対意見を持つ者の考えをリストアップし、対処策を提示する。
そこで、私は父上にリズベリアと魔王軍の戦況を事細かに知らせてほしいと手紙を出した。
届いた地図やらを見て、「ここからは俺の出番だな」とヴィリアム様に軍略図を渡す。
反対派は、早い話が鬼の力で戦いたいわけであって、属するのは魔王軍だろうが人間だろうが構わない。そこで押されつつある魔王軍に対しヴィリアム様がとあるお触れを出した。
『指定した地域に限り魔王軍相手なら余計な指示は出さない。ただ一つ、人間に手を出さないのなら好きに暴れてくれて良し』
長であるヴィリアム様が許しを出せば、国の中で燻っていた鬼たちは一も二もなく飛びついて、戦いに行った。
この隙にリズベリアの防備が薄くなっている戦場や押されている場所を詳しく調べておき、帰ってきても次の行き先があるように用意する。
こうやって徐々に人間と共に戦う戦場も用意してやれば、戦う者同士、意気投合するだろう。
次は人間側の鬼族に対する恐怖や偏見を取り除くことだが、これに関してはエルスワリ姉さまに現状をある程度伝えれば解決した。
なにせ、言い出しっぺはエルスワリ姉さまだ。いくら私を利用しているとはいえ、鬼族との和解が失敗に終われば責任を問われる。
無論、この行為は私の価値を下げることにつながる。駒としか思われていない私が、今まで以上にエルスワリ姉さまの手を煩わせたとあっては、リズベリアの王族における私の価値は下がって当然だ。
しかし、下がったところでどうなるというのだ? 駒として扱われてきた私の価値が下がったとしても、王族であることに変わりはなく、必要な仕事はこなしている。むしろ、これから頼られなくなれば気が楽だ。
ただエルスワリ姉さまは、私が手を抜いているだとか難癖をつけてくるだろう。
リズベリア王都での暮らしは、今までより肩身が狭くなるだろう。
「そういうわけですので、私は王都に帰ると出来損ない扱いされながら、一生結婚もできないかもしれません」
「あ、ああ」
「王族を何とかやめて一市民になっても、私には料理とか裁縫の知識はありません。恐らく暮らしていけないでしょうね」
「そ、そうだな」
唇に幸せの約束を交わしてから半年ほど。反対派と人間側の問題は上手いこと解決している。
しかし私とヴィリアム様の仲は多忙とはいえ、あの日からあまり変わっていない。
精々同じ部屋で寝るようになって、たまの休みに二人で過ごすくらいだ。
今だって諸々の状況を説明しながら、ベッドの上で小柄な私は大柄なヴィリアム様に抱きかかえられるような形で寄りかかっているだけ。
「今までは王族としての身分を利用される日々でしたから、せっかく覚えたダンスも披露したことは数えるほどです」
「俺はそもそもダンスなんて欠片も知らないのだが……」
「すぐに覚えられますよ。運動神経がいいのと、ここに最高の教師役がいるので、あっという間にできるようになります」
「それに関しては、平和になってからにしてくれるか?」
「まぁ、それは構いませんけど……」
それだけ言うと、頭をコテンとヴィリアム様の胸に預けた。ビクっと震えてくれて、まだ初々しい反応を見せてくれることにちょっとした愉悦感を感じつつ、「平和になってからやること多いですね」と口にした。
「そうだな、魔王という共通の敵がいなくなってからは戦士たちをどのような役職に就けるかも決めないといけない。なにより人間と鬼族が本当の意味で分かり合うのは平和になってからだろうしな」
「……むー」
「……何か間違っていたか?」
不満げな私の声におっかなびっくり反応したヴィリアム様に、私は体の向きを変えてその顔を覗き込むと、赤くなっていくのを気にせずに「間違ってはいません」と眉間にしわを寄せて言った。
「ですが、平和になったら真っ先にやることがあるでしょう」
「結婚の発表か? それならフロイトにも話を通してあるから、この国で――」
「違います!」
私の方も赤くなりつつある顔で、「鬼族と人間が一番わかりやすい形で和解したと知らしめるにはどうしたらいいか」と聞いた。
ヴィリアム様は、この半年で私から学んだ知識であれこれ並べているが、そうじゃない。
勢いをつけてヴィリアム様を押し倒すと、その胸の中に顔をうずめた。
「……鬼と人間の血が流れるハーフがいたらいいじゃないですか」
「それは、確かにそんな存在がいたら何よりの証だが……」
「~~! ああもう! ちょっと鈍感すぎませんか!」
「え?」と、分かっていない様子のヴィリアム様に、私は小さく呟いた。
「私なら、いつでも産めるんですよ……?」
胸の中でうずくまっていると、本当にヴィリアム様の鼓動が聞こえてきた。でも、これが私の新しい願いだ。
「この国で、意地悪な姉と離れて大好きな人と生きていくのが私の願いなんです! 平和になったら真っ先に叶えてくださいね! 人間の王族と鬼族の長の子供ですからね!」
真っ赤な顔で私は捲し立てた。ヴィリアム様も同様に真っ赤だ。
けど、これが一番手っ取り早く二つの種族が分かり合えて、なにより利用されてきた私がリズベリア王都に帰らず、ここに居続けられる方法であり、願いなのだ。
返事を待っていると、ヴィリアム様の少し上ずった声が聞こえてくる。
「お、男の子なら、剣を学ばせるからな」
それが今の答えで十分だと、私は暖かい胸の中で自然と流れた涙を拭いながら頷いた。
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魔王が倒れるのに思いのほか時間がかかった。しかし戦況は圧倒的に人間と鬼族が有利な状況が続き、前線の指揮から何まで、私たちが口出しすることは少なくなっていった。
むしろここでヘマをするわけにはいかないので、エルスワリ姉さまが徹底して管理していた。
なんでも、隣国の王子や由緒ある公爵家からの縁談を断り続けてでも魔王軍を倒そうと躍起になっていたと聞く。
お陰で無事に玉座につけたようだが、魔王を倒したことと、縁談を断り続けたことで、誰も求婚してこなくなったそうだ。
それもそのはずだ。今やお姉さまは「鬼族を従え魔王を倒した大国の女王」だ。こんな相手には誰もが身を引くらしく、夫探しの新しい戦いが始まっているらしい。
しかし英雄であることに変わりはない。なんなら生涯処女を貫き気高い王女として称賛されるのもアリなのではと、今なら思いやれる余裕があった。
なにせ私の隣にはヴィリアム様――ヴィリ、と最近では呼ぶようになった、愛しい鬼がいる。
それと、私の胸には、
「二人とも、よく寝ていますね」
「まだ生まれたばかりだからな」
お姉さまが戦ってくれているうちに、私とヴィリはちゃっかり子供を授かっていた。
お腹が大きくなるにつれ、「男なら剣だからな!」「いえ! やはりこの先の時代は勉強に励むべきです!」と言い争っていたのだが、生まれてきた子供は男女の双子だった。
男の子には天の与えた奇跡か、次の長になるべく二本の角が生え、女の子には逆に角が生えなかった。代わりに、私によく似ている。
将来は、この子たちが二つの種族を導いていくのだろう。「平和を築いた鬼族の長の息子」と「魔王を倒した大国の王女の娘」として。
「では、行きましょうか」
「騒がしいから、絶対起きて泣くのに連れて行くのか?」
「もちろんです! その時は赤ちゃんを泣き止ませる方法がこの頭には――」
なんて、二人でドレスとスーツを身に纏いながら、鬼族と人間の国「ディアブル」のパレード会場へと歩いていく。
二人、同じ歩幅で。とても晴れた日の陽光が、二つの駒ではない人間と鬼の影を落としながら。
【作者からのお願い】
最後までお読みいただきありがとうございました!
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「拝啓最愛のあなたへ、今日私は結婚の約束を破り愚王に嫁ぎます」
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