アドレナリンがビンビン
「おらぁ!」
「うらぁ!」
とある河川沿いの高架下。そこで二人の男が拳を交えていた。
「へぇ、へへへっやるじゃん、テメエちゃんよぉ……」
「はぁはぁ、うるせえなぁ、余裕ぶりやがってよぉ……」
「ああぁ、楽しくなって来たぜ……ああ、ドクドク感じるぜぇ! アドレナリンをよぉ!」
と、言った彼だがその頃、彼の脳の中では……。
「おいっす」
「ん、あ、おう」
「呼んでね?」
「え、ああ。うん」
「いかねーの?」
「ああ、今日はちょっと、うん、まあ」
「ドクドク感じてるらしいぜ、ふふっ」
「やめてくれよぉ……」
「ほら、行った方がいいぞ。主、滅茶苦茶殴られてるよ。ああほら『きかねえ! きかねえぇよ! もっとくれよぉ!』とか言ってるけど、今ものすごい痛いと思うぞ。アドレナリン、お前が行かないせいで、あ、ノルアドレナリンか」
「いや、呼びやすいのでいいよ。副腎にいるのも俺と意識は同じなのさ……」
「あっそうなんだ。まあいいや。で、行きなよ」
「んーなんかぁ……だるい」
「えー、でもマズいよなやっぱり」
「じゃあ、お前が行けばいいじゃん……エンドルフィン」
「いやー呼ばれてるのはお前だからなぁ。やっぱりちょっと違うんだよなぁ。
ああ、ほら『こいよおらぁ、足りねえぇなあおい、もっとこいよぉ』だとさ。あれ、相手を煽ってるんじゃなくて、お前への救難信号だよ」
「んー、なんかなぁ……」
「あー、ドーパミンさん呼ぶ? マッサージでもして貰えばやる気出るんじゃない?」
「いや、なんか……こう、さぁ……」
「なんだよ。ああ、マズいな。一方的にやられてるよ。痛みで動きが鈍ってるんだ。
『きもちいぜぇ、アドレナリンがビンビン出てるぜぇアドレナリンがよぉ!』だってさ。あれ願望だよ。出てると思い込もうとしてるよ」
「はぁ……はぁー! あーあ!」
「おいおい落ち着けよ……セロトニンさんを呼んだ方がいいのかなぁ」
「はぁ……しつこいなぁ。ふぁーあ……ねむ……」
「えっ、近くにメラトニン来てる? 違うか……。ああほら、そうこうしてうちにもう倒されちまいそうだよ。肉袋、じゃなくて主、吐きそうだ。アセチルコリンが出てきちまうよ」
「はぁ……あーあ……はぁ……」
「行かないの? ほら、呼んでるよ。『アドレナリンアドレナリンアドアドアドアドレナリンリンリンリンリン!』 って呼び鈴みたいになってるよ」
「ふぅー、あーあ」
「なあ、もういい加減にさぁ。ああ、もう遅いかな……」
「んー……あ、よし! じゃあ、ちょっとだけ行こうかな!」
「おー! やっとだな、ん? お? あー、喧嘩相手逃げちまったよ。アドレナリン連呼してるから気味が悪かったんだな。
でもお前、何で急に元気に……あ、主の方に誰か来た。あれは、女? ん? お前、どこ見て、あ、フェニルエチルアミンさんだ。あ、お前、まさか……」
「ふふふっ、彼女が喧嘩は駄目って言うもんだからさ、へへへへ……」