「あなたの夢は?」「多くの兵士を率いる大将軍!」「オークの兵士ね!任せて!」~女神の聞き違えで変な展開になったTS白豚令嬢は悪徳猛牛伯爵を懲らしめる!
良いオークの日なのでこんな作品を書いてみました。
何かご感想を頂けるととても嬉しいです。
「何でこうなっちゃったのかな??」
ボクは何故か今多くのオークを従えて悪領主であるサーロイン伯爵を倒す為に進軍している。
「テネーゼさま、ごめいれいをブヒ」
あのアホ女神、ボクの願い間違えて叶えたんだな……。
ボクは確かにあの女神アフォルテスに確実に願いを言ったはずなのに……。
◆
――あなたは死にました、それも犬死です。何の成果も上げられず、誰にも感謝されずに死にました――
何もそこまでいう事無いだろ……。
ボクは口減らしの為に兵士になった。
でも、現実は厳しく……ボクは大将軍になるどころか捨て石のオトリ部隊の一員として死んでしまった。
だからってそこまで言う事無いだろう、この女神……死者に鞭を打つのか塩を塗り込むのかって辛辣な言い方だと思わないのかな?
「そこまで言わなくても……」
「いえ、厳しい現実を叩きつけた上で話をした方が良いと聞きましたから。わたしは女神のアフォルテス。あなたに死後の選択をしてもらう為にここに来てもらいました。前世の名前は……あら、書類に葡萄酒がかかっていて読めないわね。まあいいか……どうせ前の人生なんて大した事無いでしょうし」
コイツ……マジで人をおちょくってるのか? もし罪にならないならコイツを思いっきりぶん殴りたい……。
「まあいいですわ、大事なのは過去ではなく未来だから。あなたも振り返りたいような良い過去じゃ無かったでしょ」
……まあそう言われたらそうだけど、そこまでダイレクトに言わなくても……。
コイツマジで空気読まないな。
「それで、ボクは何でここに呼ばれたんですか!?」
「あ、そうそう。あなたは前の人生で何の良い事もなく死にました。それがあまりにも運が無さ過ぎたので、次の人生をもっと良いものにしてあげようかと思って……ね」
何だか怪しい。
ボクの過去書類に葡萄酒をかけて読めなくなっているというのも不自然だ。
この女神、絶対に何か隠している。
「女神様、ひょっとして何か隠していませんか?」
「え。そ……そんなことない……わよ。わわ、私が何であなたの書類をどど、どうかするって……」
この挙動不審さ、間違いなく何か隠している。
「女神様、あの戦場で死んだのはボクだけではないはずです。でも何故他の人達はここに呼ばれていなくてボクだけがここにいるんですか?」
「そ。それは……あなたが、と、特別だから……わ、私のえこひいき……じゃないのよよ」
ますます怪しい。
ひょっとして、ボクの人生が不幸で災難続きだったのって……コイツのせいなんじゃないのか!?
「アフォルテス! お前何か隠しているだろ!」
「ひ、ひいぃぃー、ごめんなさい、前世でのあなたの不幸は私のミスでしたぁぁ!」
やっぱりそうだったのか。
ボクが生まれつき不幸な理由、それがこの女神アフォルテスのせいだったので、彼女はボクをここに呼んでその穴埋めに何かをしようとしたわけだな。
「それじゃ、ボクが歩くと黒猫が横切ったり、歩くと牛の糞を踏んだり、出かけようとすると雨が降ったりと不幸続きだったのって……アンタのせいだったのか!」
「ひいいー、ごめんなさいー。私が酔っぱらったまま仕事してあなたの運の調整を入れ忘れた為ですぅぅー。次の人生は今回の運も上乗せにするから許してくださいー」
もう怒る気すら無くなるこの駄女神を見てボクは呆れ果てた。
「次の人生?」
「はい、あなたが死んだのはわたしの命の調整ミスのせいでしたので、次の人生でもっといい人生にしてあげるから許してください。あなたの願いを何でも一つ叶えてあげますから」
まあ何でも叶えてもらえるというなら次の人生でも良いかも。
ボクには大きな夢があったんだ、それを叶えられるなら次の人生でも良いかも。
「それじゃあ、ボクを多くの兵士を従える大将軍にしてくれよ! 女神なら出来るんだろ」
「わかりました、おーくの兵士を従えたいのですね。それでは次の人生の書類を用意しますから、あなたはその扉をくぐってください。そうすれば、次の人生が開けます」
本当に次の人生が楽しいものになるならこんなとこでアホ女神と話している場合じゃないな。
ボクは黄金の扉を開き、次の人生への道を歩き出した。
◆
「旦那様、とても可愛らしい女の子ですよ」
「おお、妻のマンガリッツァにそっくりだ。この子にはテネーゼと名付けよう。このヨークシャー家の子として、皆に愛されるであろう」
ボクは何故か女の子として、辺境貴族イベリコ・ヨークシャー子爵の一人娘として生を受けた。
確かに女神の言うように子爵家の生活は何不自由ないもので、食べるにも事欠いた前世から考えれば夢のような生活だった。
まあ当然ながらそんな喰っちゃ寝喰っちゃ寝を繰り返していたら、出来上がるのは立派な白豚令嬢だ。
実際、ボクは階段に蹴っつまづいて頭を打たなければ、白豚令嬢のまま人生を終わらせていたかもしれない。
あのアホ女神、ボクの転生の際に記憶を残しておく事をしなかったので、もし頭を打って前世を思い出さなかったらどうするつもりだったんだ!?
幸い、ボクが頭を打ったのはまだ十歳になる前だったので、ブクブクに太った白豚令嬢としても今からなら十分取り返せる!
さあ、今日から晩ご飯を控えて、間食もやめよう。
「おや、テネーゼ、どうしたんだい? 今晩の食事は美味しくなかったのか? 可愛いテネーゼに美味しくない物を食べさせるなんて、料理長をクビにしようか?」
「いいえ、お父様。ボク……このままずっと食べ過ぎると良くないと思ったんです」
「ボク? やはりテネーゼが変だ。料理長をすぐにクビにしろ!!」
ボクは父親であるイベリコ子爵をどうにか説得し、料理長は無実だと伝えた。
その上でこのままではブクブク太ってしまい、何も出来なくなるから食事をもっと減らしたいと伝え、身体を鍛えることにしたのだ。
最初はすぐに根を上げるだろうと思っていた屋敷の中の召使いや兵士も、ボクが必死に走っている姿を見て笑わなくなっていった。
これだけの栄養があれば前世でやっていた将軍になる為の筋トレなんて容易く出来る!
……そう思っていたんだが、女の子の体力に加え、さらにこの体重、身体がネックになり、最初は思うように運動できなかった……。
それでも数年も続けていると、ボクは健康的な身体になり、十三歳の頃にはその辺りの令嬢よりよほど健康的で引き締まった身体を手に入れる事が出来た。
でもあの女神、何でボクを女の子の体にしたんだろう?
多くの兵士を従える大将軍ならどう考えても男の方が良いのに……。
そう思っていたある日、夢の中でボクはアフォルテスに会った。
――あら、ずいぶんと可愛い姿になりましたわね。テネーゼさん。――
この声、間違いなくあのアホ女神だ。
「あの、確かに何不自由ない生活ですけど、何でボクは女の子になってるんですか? それに頭を打って記憶を取り戻さなかったら前世の事忘れたまま白豚令嬢って言われてたんですよ!」
「あ、それは申し訳ありませんでした。ついあの扉を開いた時に本来お渡しする前世の記憶をウッカリ渡し忘れてしまいました。しかし結果的に前世を思い出せたんですからいいじゃないですか」
コイツマジで人を舐めてるな……。
「それで、さっきの質問ですけど、どうしてボクは女の子だったんですか? 多くの兵士を従えるなら男の方が絶対良かったのに!」
「え、それは……やはり可愛い女の子の方が人生楽だからサービスしてあげたんですけど、それにおーくのへいしを従えるならやはり美貌があったほうが……」
コイツ、一体何を言ってるんだ? 美貌が何故大将軍に必要なんだ??
何だか嫌な予感がする……。
「とにかく、本当にボクの願いは叶えてくれたんですよね?」
「はい、それは神に誓って実現いたしますわ」
「信じていいんですよね」
「はい……いつか貴女は私に感謝する時が来ますわ……」
ボクはアフォルテスの言葉を聞き、再び夢の中で意識を失っていった。
しかし女神のいう事を信じてボクは身体を鍛え、兵士にも負けない力と剣技を身に付けた。
それでも兵士はボクに従ってくれる様子はなさそうだ。
あの女神、本当に願いを叶えたというのか??
ボクはモヤモヤしたまま数年体を鍛え続けた。
もう、そんじょそこらの兵士ではボクに勝てない。
まあ前世で鍛えた兵士としての経験にこの今の恵まれた食事と環境、それで強くならないわけが無い。
――だが、ボクの夢は叶う事は無かった。――
「婚約!? ボクが……そんな、ウソでしょ」
「嘘ではない、隣のサーロイン伯爵がお前の事を気に入って是非とも妻にしたいと言ってくれておるのだ、お前も大将軍になるなんて子供の遊びはやめて、サーロイン伯爵の妻になる準備をしなさい」
どうなってるんだよ、あのウソツキ女神……。
ここで貴族の妻にされてしまったらボクが大将軍になるなんて夢のまた夢だ。
しかしこの世界、女は結婚して当然なので、もしここで婚約を断れば修道院行きか勘当されて家から追い出されるだけだ。
前の人生での経験から考えて、もしここを追い出されたらいくら兵士から将軍を目指そうとしても出世コースに乗れるわけが無い、下手すれば貴族の中で汚名が広まってしまえば前の人生よりハードな結末になりかねない……。
そう考えるとボクはサーロイン伯爵領に行くしかないのか……。
あの女神、絶対に呪ってやる。
そして、ボクは馬車に乗せられ、サーロイン伯爵領に向かい、その道中、ボク達は池の近くで馬車を休ませる為に野宿する事になった。
日課のトレーニングをする為、ボクは夜の森を見張り兵士の目を盗んで走り出した。
こんな風にトレーニングできるのもあと数日だけか。
もうサーロイン伯爵の所に到着してしまえばボクは女の人生を生きるしか道がないんだろうな……。
そう思ったら何だか涙があふれてきた。
ダメだ、こんな顔誰かに見られたら……。
「おい、リブのやつみなかったか?」
「いや、カシラのとこもどってるんじゃないのか?」
え? 誰かいるの?
声が聞こえた方を見ると、人間らしい姿は見当たらなかった。
コレって空耳??
ボクがなんだか気味が悪くなって元の場所に戻ろうとした時、足元の地面がぽっかり穴を開けてしまった。
――しまった! 落とし穴だ。
ボクはゴブリンの作った落とし穴に落ちてしまった。
そして……落とし穴に落ちたボクを獲物として捕まえたのは、ゴブリンの群れだった。
嫌だ、こんな所で女の子としてゴブリンに襲われて死ぬなんて……もしそうなったらあの女神、絶対に呪ってやる。
だがボクはそのままゴブリンの巣穴に連れて行かれた……。
◆
ゴブリンの巣穴は何かの砦の廃墟を使っているようだった。
そこでボクは小部屋の中に閉じ込められた。
どうやら、ここでボクは順番待ちさせられるようだ……。
――何の順番待ちかは考えたくも無い。
そして、ボクはこの部屋の中でブツブツ声が聞こえるのがわかった。
でも、この部屋の中には人間なんて誰もいない……。
一体誰なんだよ?
「おまえ、つかまった。おまえ、おで せわしろといわれてる」
「え? キミ、人間の言葉しゃべれるの?」
「おで、わからない。おまえ、なぜおでのことばわかる?」
暗がりの中にいたのは、オークだった。
オークとは豚のような鼻に肥満体型で緑色の肌をした亜人だ。
ゴブリンとは仲間ではないはずなのだが、なぜこんな所にいるのだろうか?
「キミ、ボクのことばがわかるんだね。ボクはテネーゼ。キミの名前は?」
「おで、リブ。みんなにリブいわれてる」
そういえば、落とし穴で捕まる前に聞こえた声で、リブって誰かが言っていたような……。
でも何でボクはオークの言葉が分かるんだ??
「リブ、キミは何でここにいるんだい?」
「おで、バカだからおとしあなつかまった。それでゴブリンにこきつかわれてる」
成程、そういう事か。
このリブってオーク、頭が悪くてゴブリンに言いなりになるしかないのか。
でも、ボクがこのオークの頭になってあげれば、このゴブリンくらいは倒せるはずだ!
「リブ、ボクのいう事を聞けばここから出してあげるよ」
「テネーゼ、ほんとか? おで、ここからでれるのか?」
「うん、ボクの言う通りにすればね」
ボクはリブというオークに武器が無いか聞いてみた。
すると、ここはどうやら元々資材置き場だったらしく、樫の木の丸太が転がっていた。
これなら! ボクはリブに出来るだけ太い樫の木の丸太を持たせ、倉庫の入り口の「扉の前に待ち構えた。
ここで食事の差し入れが来た瞬間にそのゴブリンを殴り倒すわけだ。
リブは言葉の通じるボクを信用してくれた。
「ギギッ。ギャギャギャッ」
不快な鳴き声を出しながらゴブリンが近づいてくる。
そして扉を開けた瞬間、リブは丸太でゴブリンを押しつぶした。
「ギャェエッ!!」
断末魔の叫びを聞いたゴブリン達が次々とドアの所に押し寄せた。
でもこれはボクの作戦だ。
ここがもし牢屋等の部屋だともし弓や石を持ったヤツがいたら隙間から攻撃されるが、倉庫の入り口ならここしかないのでオークの馬鹿力で丸太を振るえばゴブリンは一匹ずつ入ろうとして全部が返り討ちになるだけだ。
そして、実際ゴブリンは一匹ずつしかドアを通れず、一匹倒されては丸太で押し飛ばされて次のゴブリンがやられる形で、何十匹が全部オークの馬鹿力で粉砕された。
「おまえ、すごい。おで、ゴブリン、たおせた!」
「やったね、リブ」
ボクとオークのリブはいつしか友情を感じるようになっていた。
リブはゴブリンを次々と樫の木の丸太で吹っ飛ばし、この巣穴のゴブリンの大半が壊滅した。
「リブ、外に出よう。もうゴブリンは襲ってこないはずだよ!」
「わかった、テネーゼ。おで、外に出る」
リブが外に出ると、そこには怯えるゴブリンが残っていた。
だがゴブリンは一匹いると三十匹はいると言われているモンスターだ。
だからボクは命乞いをするゴブリンをリブに命令し、全部倒してゴブリンの巣に火を放った。
これでゴブリンは一匹残らずいなくなるだろう。
ボク達はゴブリンに捕らえられていた女の子達を助け、そこから脱出した。
「おで、なかまたちにあう。テネーゼ。ありがとう」
そう言ってオークのリブは森の中でボクと別れた。
ボクは野宿をしていた兵士達の所に女の子を連れて戻り、近くの修道院に彼女達を保護してもらうことにした。
残念ながらゴブリンを妊娠している子もいたが、そういった子は出産させた上でゴブリンを殺し、母体となった女の子の方は修道院で本人の傷が癒えるまで保護される事になる。
少し寄り道する形になってしまったがボクは自分のやった事に少し満足していた。
ちょっと違った形だったけど、ボクの命令で動いてくれる兵士と一緒にゴブリンの巣を潰す事が出来たからだ。
そして、ボク達はサーロイン伯爵領へ向かった。
その途中、ボク達を襲ったのは……この辺りを根城にする盗賊団だった!
ボク達は盗賊団相手に戦ったが、盗賊団は思ったより数が多く、ボク達は苦戦する事になった。
でもボクが身体を鍛えて剣を振るっていたのを見て、護衛の兵士達は驚いていた。
守られるだけだと思っていた貴族令嬢が剣で盗賊団と互角以上に戦ったからだ。
それでも盗賊団は更に人数を増やし、中には子供達すらいた。
――信じられない、こんな子供まで盗賊にするなんて!――
でも、流石にボク達は子供に手出しをするわけにもいかず、全員盗賊達に囲まれてどうしようもなかった。
「「「ブゴッ、ブゴォオオッ!」」」
遠くから何かの叫び声が聞こえる……あれは!
「テネーゼ、あぶない。おで、テネーゼ、たすける!」
なんと、ボク達を助けてくれたのは、リブ達……つまりオークの群れだった!
「オークだ! 助けてくれぇー!!」
盗賊団はオークの群れを見て一目散に逃げだす者、その場に座り込んで動けない者が続出し、ボク達を襲うどころではなかった。
「リブ、リブなのか!」
「テネーゼ、おで、テネーゼたすける。わるいやつ、ぶっとばす」
あんな樫の木の丸太でぶん殴られたらいくら盗賊団でもひとたまりも無い。
それにあの中には子供達もいるんだ。
「リブ、みんなに伝えて。人間達に手を出さないで、脅かすだけにしてって」
「わかった、おどかすだけにする」
リブの言葉を聞いたオーク達は盗賊団に攻撃をせず、吠えて脅かすだけにしてくれた。
おかげで死者は誰も出なかった、まあ……逃げる時に転んで怪我したのはいるけどそれくらいは問題無いな。
……ボクは盗賊団のリーダーらしい人物を捕らえ、話を聞くことにした。
「答えろ、何でボク達を襲ったんだ」
「仕方なかったんだ……おれ達が生き残る為には、盗賊になるしかなかった。サーロイン伯爵のせいでおれ達はろくに食うものも食えず、重い税金に苦しむだけ……それでおれ達は村を捨てて盗賊になるしかなかったんだ」
子供達が泣いている……この子達は前世のボクだ。
「……わかりました、ここはボクがどうにかします。あなた達はもう盗賊なんてやめてください」
「そうもいかねえんだよ……生きる為には、盗賊以外に出来る事も無い……村に戻ればサーロイン伯爵の手下に殺される、盗賊をしなければみんな飢え死にする……おれ達にどうしろってんだよ、おれ達は死ぬしかないのかよ……」
ボクは返答に困っていた。
この人達の気持ちもわかる、でも下手にサーロイン伯爵に領民が逆らえば一族郎党が処刑されてしまう。
だからってボクのヨークシャー領の兵士が攻め込んだら内政干渉だ。
……一体どうすれば……。
「テネーゼ、どうした。わるいやつ、やっつけるのか?」
「リブ、ボク……どうすればいいと思う?」
「え……? お嬢様はオークの言葉が分かるんですか??」
――どういう事だよ、このオーク、人間の言葉を話しているんじゃないのか?
「え? このオーク、リブって名前だけど、みんな言葉分からないの?」
「オークの言葉が分かる人間なんて普通いませんって……そんな事できるとしたら神の使いですよ」
――まさか……あのアホ女神、ボクの願いを間違えて叶えたというのか!?――
つまり、ボクは多くの兵士を従える力ではなく、オークの兵士を従える力を手に入れたという事なのだろう。
あのアホ女神……まあ今はこの力が役に立つみたいだから許してやろう。
「このオークのリーダーは誰だ!」
「お嬢さま、ワシがオーク族のリーダー、カシラです。まさかワシらと話せる人間がいるとは、これは神のご加護に間違いありません」
どうやらこのカシラというオーク、ボクの言葉がきちんとわかるようだ。
「カシラ、キミはボクに従ってくれるのかい?」
「勿論です、ワシらの仲間、リブを助けてくれたのは貴女ですね、リブから話は聞いております。賢くて綺麗な人間の娘に助けてもらったと。ワシらは貴女様の命令に従います! ワシら数百のオーク族、貴女様の忠実な兵士となりましょう!!」
――何でこうなったかな……。――
そして、ヨークシャー領の森の樫の木で出来た丸太を装備したオークの群れはボクの命令で悪徳領主、サーロイン伯爵領へ進軍した。
盗賊団だった村人達はその後ろに付いて来ている。
見た感じこれならオークに従わされているように見えるだろう、だからあくまでもこれは反乱や蜂起でも一揆でも無いと言える。
「全軍突撃! 目指すはサーロイン領だ!」
「「「オオオーッ!!」」」
こうして多くの兵士を従えるはずだったボクは、アホ女神の勘違いでオークの兵士を従えて悪徳領主サーロイン伯爵を退治する事になった。
◆
村に到着すると、そこはサーロイン伯爵の兵士達が住民を虐げていた。
――こんな事するヤツの妻にされるなんて絶対に嫌だ! よーし、婚約破棄も一緒にやってやれ!
「ロース、アブラミ、ピートロ、全員突撃!」
「「「ブオオオッ!!」」」
オークの突撃にビックリしたサーロイン伯爵の兵士は全員が一瞬で吹っ飛ばされた。
流石はヨークシャー産の樫の木、頑丈さには定評がある。
オークの群れはあっという間に村からサーロイン伯爵の兵士を追い払った。
さあ、この勢いで一気にサーロイン伯爵をやっつけるぞ!
ボク達はカシラをリーダーにリブ、アブラミ、ピートロ、トンソクといったオーク達を引きつれ、関所を突き破り、ついにサーロイン伯爵の城に到着した。
だが! そこで待ち構えていたのは……牛の頭の怪物、ミノタウロスだった!!
「ワハハハハ! モーお前達の反乱もこれまでだ! モー逃げ場はないぞ。このミノタウロスのシャトーブリアンは俺の忠実な部下、今までにも俺に逆らった愚か者をその大斧で次々と血祭りにしてきたのだ! お前達はモーおしまいだ!」
筋骨隆々のいかにも貴族ですと服を着た男が高笑いをしている。どうやらアイツがサーロイン伯爵のようだ。
「おや、貴女は……テネーゼ嬢ではありませんか。なぜこのような醜いブタどもと一緒にいるのですかな? モー信じられませんね」
「黙れ、悪徳伯爵! ボクはここにオマエを倒す為にやって来たんだ! 苦しめられた人達の怒りを思い知れ!」
「おやおや、モー冗談は程々にしてくださいよ。そんな怒り顔だとせっかくの可愛い貴女が台無しですよ」
「うっさい黙れ、牛糞野郎!」
どうやらボクの挑発はかなりアイツを怒らせたようだ。
「モー許しませんよ。コイツら全員皆殺しにしてから貴女は俺の言いなりにしてあげます、そうですね、モー勘弁してといっても絶対に許しませんからね、やれ! シャトーブリアン!!」
「ブモモオオオオオッ!!」
シャトーブリアンと呼ばれたミノタウロスがボク達とオークの群れに飛び込んで来た。
あの大斧を喰らえば全員ひとたまりも無い。
だけど、ボクは多くの兵士を従える大将軍になるんだ。でも今はオークの兵士を従えてアイツを倒してやる!!
「全員密集体系、斧をその樫の木で受け止めるんだ!」
オーク全員が樫の木の丸太をその場に立て、杭のようにして柵を作った。
シャトーブリアンの斧は樫の木の杭の群れに阻まれ、斧が食い込んで抜けない。
よし、今度は一気に全員でのしかかるんだ!
「「「ブゴォオオ!!」」」
多くのオークに囲まれたシャトーブリアンに、建物をよじ登ったオーク達の飛び降りた重い一撃がのしかかった。
あまりの重量に耐えきれなくなったミノタウロスのシャトーブリアンは全身の骨が粉々に砕かれ、もう身動き一つ出来なくなっていた。
「ひいいいぃー、モー勘弁してくださいー!!!」
多くのオークに囲まれたサーロイン伯爵は土下座して命乞いをしていた。
ボクはそんな彼の前に立ち、ニッコリ笑ってから――
パァンッ!!
思いっきり頬を引っ叩いた。
「ボクはアナタが大っ嫌いです。アナタと一緒になるくらいならこのオーク達と暮らした方がよほど良いです!」
サーロイン伯爵はその場にへたり込み、放心状態になっていた。
さあ、凱旋だ!
――そしてボクはこの後、これらのオーク達と共にこの国の悪徳貴族と戦い、女の身ながら大将軍になる夢を叶えた。
この作品が面白かったと思ってくれましたらブクマ、もしくは★★★★★を付けてくれますと、とても嬉しいです!
コレからも楽しい作品を作りたいと思っていますのでぜひよろしくお願い致します。
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