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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

言葉と絵

作者: 神楽

すぐに本編始まります。読みづらいかもしれませんが、ぜひ最後まで読んでみてください。

 死にたいとは、こういうことだったのだろう。自分の存在がわからなくなる。今まで自分は違うと思っていた。そういう人間ではないと。なにか意味があって生まれてきて、全てがうまくいくと。どこか勘違いしていた。そんな私の、物語


 「……キレイ」

小さいころに、一つの絵に心を奪われた。20歳の今ではどんなものか、詳しく思い出せなくなっているのだが。その絵は鮮やかな色と触れたら消えてしまいそうな雰囲気があり、ただただ美しかった。その日からだろう。私が絵を描くようになったのは。


 小学生の私はいつも絵を描いていた。他の子達が外で遊んでいる間も、授業中も、あの絵みたいな絵が描きたくてひたすらに描いていた。おかげでクラスの中では一番絵が上手かったと思う。

「光里ちゃん、ホントに絵上手いよね」

「川上さんの夢は画家さんかな? きっとなれるわよ」

自身があった。口を開けば、皆が褒めてくれたから。褒めてくれてはいたけど、友達はいなかった。それでもよかった。私は絵が描ければよかったから。授業中もずっと絵を描いていたから、頭は悪かったし運動もできなかった。そんな感じで私の小学生時代は幕を閉じた。


 中学生になった私はもちろん美術部に入った。そして、そこで私は私よりも絵が上手い人なんていっぱいいたことを思い知った。

「川上さん、どんな絵を書いているの? …へぇ、結構上手いのね。」

こんな言葉をかけられることが多くなった。自分が井の中の蛙だということを知った。小学生の時と変わらず、頭も悪く運動もできない。友達も作れなかった。そうして私はだんだんと学校に行かなくなった。両親はずっと心配してくれていたけど、仕事が忙しくて家にはいなかった。仕事に行く時間には起きていないし、帰ってくる時間には寝ていたので、家で家族全員がそろうことはなかなか無かった。不登校になったのが中学一年生の時で、そのまま三年間私が学校に行くことはなかった。

 家にいる間はずっと絵を描いていた。起きてから寝るまで、ご飯を食べることも忘れて描いている日もあった。流石にそれには両親も怒っていたけれど、基本的に何をしていても何も言われなかった。


 中学三年生のある日、両親に「お前が毎日書いている絵を見せてほしい」と言われた。私は恐る恐る見せた。

「上手いじゃないか。小学生の時よりも圧倒的に」

……小学生の時と比べても仕方ないでしょ

「すごいわ! これならプロにもなれるわよ!」

…………

「美術系の学校に行きましょう! 成績も今から頑張れば大丈夫よ!」

「………この前の阪本さんの作品、見てないの?」

「え?」

阪本さんとはいわゆる美術部のエース的な存在で、私よりも圧倒的に絵が上手い。

「この前のコンクール、私も作品だしてたのに、なにもなかった。阪本さんは最優秀賞だった。」

「………」

両親は何も喋らなかった。私は話を続けた。

「中学生になってから、何も爪痕を残せてない。学校にも行ってないし、勉強だってしてないのに、どうやって高校に行くの? 高校でも私は絵を描き続けるの? 中学生三年間、学校にも行かないで家でずっと絵を描いてきた。色んな本を買って読んで、色んなサイトを見て、上手くなりたくて、コレで食っていけるようにしたくて描いてきたよ。でも、私は最後まで賞すら取れなかったよ。」

両親は、ただ聞いていた。

「認められたくて、もっと色んな人に認めてもらいてくて、頑張ったよ。……でも、結果がコレじゃ、ダメだったとしか言えないじゃん! もう嫌だよ! どれだけ描いても意味がない!! でも勉強も運動もしてこなかったから! できないからこれしかないのに!! もうこれも嫌になっちゃったよ!! どうすればいいのよ!? 私から"絵"を取ったら何も残らないのに!! もう私なにもないのに!!!」

「………………死にたい………」

両親の目には涙が見えた。そこで初めて自分が泣いていることに気づいた。両親は私を強く抱きしめた。

「ごめんね……! 光里、ごめんねぇ!! お母さんたち、光里が苦しんでること、全然気付けなかった!」

「ごめんな、光里………つらかったよな? ごめんな……」

あぁ、違うよ。お母さん、お父さん。誤ってほしかったんじゃないんだよ。助けてほしかったんだよ。私これからどうやって生きていったらいいの? わからないよ。もう、空っぽなんだ。  両親はひたすら謝っていた。私は何も考えられなかった。その日はそれだけで終わった。


 あの日から、両親は早く帰ってくるようになった。私は絵を描かなくなった。毎日起きたら寝るまでただぼーっとしていた。何も考えなくなっていた。何もしたくなくなっていた。何もしなくなっていた。スマホも見ないで、ひたすらぼーっとしていた。自分がなぜ存在しているのかわからなかった。わかると思って、信じて絵を描き続けてきた。わからなかった。生きてる意味がないと思った。あぁ、これが"死にたい"ということなのかと、理解した。


 そんな日々が中学校卒業してからもしばらく続いた。何のためか、気まぐれか、ある日私はTwitterを確認した。不登校のときに時々描いた絵を投稿していた。Twitterを見た私は驚いた。自分宛てにたくさんのDM(ダイレクトメッセージの略称)が届いていたからだ。その内容は、「また絵を投稿してほしい」というものや、「有償依頼やってもらえませんか?」「ネットプリントとかでもいいので絵がほしい」といったものだった。自分の絵がここで認められてることを知って、私はとても喜んだ。


 それから私はまた絵を描くようになった。そしてイラストレーターの会社に入社した。今そこで必死に働いている。以前のように死にたいと思うことは少なくなった。きっとこれからもたくさん迷って、苦しくなって、つらくなるだろうけど、私はこれからも絵を描き続ける。




 「………これがエッセイの内容になります」

「そう、ですか………」

昨日、娘が事故にあって死んでしまった。娘はその日、取り組んでいたエッセイを書き終えたので、会社に届けに行っていたらしい。高校に通わずイラストレーターになった娘が、「自分の人生を皆に知ってもらって、不登校でも大丈夫だと伝えたい」と楽しげに話していたのを思い出す。だからこれは出版してもらうことにした。娘が楽しみにしていたものだったから。でも…………

「一緒に読みたかった………」


 あの子には、何もしてあげられなかった。あの子が不登校になった時も、私達はそれを許して見守ることしかできなかった。いや、私達は仕事が忙しいからと、理由をつけてあの子を見守ることすらしようとしなかった。自分たちの子供と向き合うことが怖かった。そしたら、あのこの苦しみに気づくことができなかった。あの子が打ち明けてくれた時も、私達は謝ることしかできなかった。その後も私達は何もしてあげられなかった。親としてあの子に何も与えることができなかった。だから、あのとき何もできなかった分、このエッセイを読みながらちゃんと話をして、「頑張ったね」と褒めてあげたかった。今まで何もできなかった分、あの子に何でもしてあげたかった。



 光里のエッセイが出版された数日後、1枚の手紙が届いた。



 「お父さん、お母さんへ

この手紙がとどく頃には、もう私のエッセイは出版されましたかね? あそこにはお父さんとお母さんのお礼を書くことができなかったので、この手紙で伝えたいと思います。いつも私の絵を褒めてくれる二人が大好きでした。不登校のときも毎日ご飯を用意していってくれたおかげで、できるだけ長く絵を描くことができていました。何をしていてもいつも味方になって応援してくれたので、会社に入社した時も、一人暮らしを始めたときも怖くなかったです。

今まで本当にありがとう。

生んでくれてありがとう。

もう死にたいなんて言わないよ。

私、今とっても幸せなんだ!

お父さん、お母さん、これからもずっとずっと

大好きだよ

                    光里より」







  光里、私は、私達は、その言葉で救われたよ。

  「ありがとう。光里。」

 溢れる涙を、私達が止めようとすることはなかった。

読んでくださりありがとうございます。初投稿だったのでコメントもらえると嬉しいです。

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